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第二章:城塞都市クレイル
冒険者(2)
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先生のことを口にして腑に落ちる。
直前まで見ていた夢の雪景色に見覚えがあるのも当然だった。
あの場所は故郷のシン村だ。
夢の中でバンとフェリスが背を向けて去っていった。
その姿に不吉な予感を覚えたが、フェリスに不安を悟らせるわけにはいかないので、ライは手元に意識を向けた。
少しでも作業に集中して、最悪の想像を頭から追い出したかった。
扉が物理的に塞がれているだけならば、無理矢理に突破する方法は幾らでもある。
しかし魔法が相手の場合はそうもいかない。法則を理解して対処しなければ事態を悪化させかねないのだ。
最も単純な仕掛けで思い付くのは、魔術式に組み込まれた『警報』だ。正規の手順以外で魔法を解除しようとしたり、術者以外が魔術式に干渉した場合に、術者の元へその事実を伝える魔法だ。
「旅の魔法使い……その方に師事をされたから、たくさんの魔法を扱えるのですね」
作業の手が止まったところで、フリーダが納得するように言葉を口にした。
ライは苦笑を浮かべる。
「どうだろう? 最後まで先生って呼ばれるのを嫌がってたというか……なんとも言えない感じだったから」
「魔法は教えてくださったんですよね?」
「そうだね」
牢屋の鍵を解析している【解錠魔法】も先生から習った魔法の一つだ。
「でも魔法を教えるつもりじゃなくて、旅の手段として魔法を教えたんじゃないかな。村から出たくてしょうがないお年頃だったからね。きっと無駄死にさせるのも気が引けたんだよ。相棒も色々と教わっていたみたいだし」
「バンさんも?」
「先生はパーティを組んで旅をしていたこともあったらしくて、剣の使い方とか前衛職の立ち回りも知ってたんだ」
「物知りな方だったんですね」
「村の子どもが先生って呼ぶようになったのも、元はと言えば大人達が先生って呼んでたのがうつったんだよ」
シン村は王国にの辺境にある寒村だ。
名産品になるようなものはなく、行商の通り道からも離れた土地で、そんな村に外部から注目を向けるのは税金を徴収する役人ぐらいだ。
誰もがその日を生きるのに精一杯で外の世界を知る者は居なかった。
だから先生の存在は、村にとっては余りにも眩しかったのだ。
「……よし、警報の類も仕掛けられてない。これなら解除できそうだ」
ライは作業を終えて気を抜くと目眩に襲われた。
倒れそうになる体をフリーダが支えてくれる。
「大丈夫ですか!?」
「魔力不足でちょっとふらりと来ただけだから心配しないで」
「それなら良いのですが……」
フリーダは嘘に気付いた様子だったが追及はしてこなかった。
どれだけ軽口を叩こうとも、ライの限界も近い。
「……すぐに脱出しますか?」
フリーダの言葉には焦燥感が滲み出ていた。
「監視はまだ離れたままなんだね」
「はい、戻って来てないみたいです」
「……この状況自体が罠の可能性はあったりするかな?」
「距離があったので正確に把握はできていませんが、監視をしていた人は慌てていたような気がします」
動くべきか、待つべきか――果たして今こそが絶好の好機なのか見極めなければならない。
重要な場面で決断を下してきたのは、いつもバンだった。
そしてパーティはバンの決断には迷わず従えた。
「やれやれ、付けが回ってきたね」
どれだけ考えても結論に辿り着けない。
マーテル派の戦士は脱走を見付ければ、もはや祈りの罰では済ませず、即座に命を奪ってくるかもしれない。
そうなれば犠牲になるのはライだけでは済まされない。
他人の命というのはどうしてここまで重いのか。
失敗した未来を想像するだけで、バンに押し付けてきた責任に――本来はライも背負うべきだった重みに押し潰されてしまいそうだった。
「……えっ、これはっ!?」
フリーダが祈りの体勢を取ったのを目にして口を噤む。
呼吸音すらも邪魔にならないように口元を押さえ込んだ。
祈りはしばらく続いた。
その間、ライは魔力の自然回復を促す瞑想を行っていた。
他に何もできないなら瞑想をしておくように、というのは先生の教えの一つだった。旅の最中はいつどこで休めるか分からない。だから少しでも魔力を温存できるように癖を付けろと口を酸っぱくして注意を受けた。
「――神樹の導きに感謝を致します」
フリーダは祈りの体勢を崩すと、零れ落ちる涙を指先で掬い取った。
顔を上げたフリーダと目が合うと満面の笑みを返される。
「吉報かな?」
「はいっ、確かに聞き届けました」
*
「王女殿下、どうされましたか」
ロゼはブランカの呼び掛けに応えず、祈りを捧げるのに集中した。
交渉中にアヴァドが不自然に向いた壁の方向を思い出して、現在地から方角を割り出すと、そちらに向かって一心不乱に祈りを捧げ続けていた。
門番との話を終えてマーテルの里に引き返すかどうか――結局は立ち去ることを選んだ。
何も成し遂げられない無力な自分を呪い、救いの手を差し伸べてくれる誰かに祈ろうとして、不意にフリーダの聖術を思い出した。
“導きの聖女”フリーダ。
王族の一人としてセフィロト教の神事に参加することがあり、何度かフリーダとは顔を合わせていた。彼女が教会内のいざこざで冒険者になったのも知っていたので冒険者パーティ『燈火』の名前に聞き覚えがあった。
囚われている片割れの女性がフリーダであるならば、もしかしたら祈りは届くかもしれない。
彼女は神樹に授けられた聖術によって迷える信者に道を示す。
その過程で人々の心を読み取るのだが、遠く離れていても強い感情や真摯な祈りであればフリーダのもとに届くのだという。だから身動きの取れない者はフリーダに神樹を重ねて必死に祈りを捧げるそうだ。
ロゼは祈った。
冒険者が囚われているであろう森の奥へと届くように。
――必ずあなた達を助け出します。
助けを求めるのではなく、助けるための誓いの祈り。
純真無垢な心の紡ぐ真摯なる想い。
果たして届いたのかどうなのか、ロゼには分からなかったが言葉に言い表せられない手応えを感じ取った。
無言で手を組んだまま立ち尽くすロゼに対して、ブランカや護衛達は困惑していた。
上手な説明が思い浮かばず、誤魔化すように微笑み掛ける。
「急ぎましょう」
「王女殿下、先程は何を?」
「戻ってくるための道導を刻みました」
「は、はぁ……それは一体」
「私もよく分かってないのです。ただ必要なことだと思いました」
*
「つまり誰かが助けに向かってきていると?」
「もっとぼんやりとしていました。助け出すという意思表示なのだと思います」
「信じられる祈りかな」
「力強さと真摯な想いが宿っていました。私は信じたいです」
「信じたい、か……」
ライはフリーダが聖術で感じ取った祈りについて考える。
どうやらバンやフェリスの送ってきた合図ではないようだが、何者かがマーテルの里の近くまで二人を助け出そうとやってきたのは確かなようだ。もしかしたら里の中まで入ったのかもしれない。それならば監視役が離れたのも納得が行く。
「ライさんは、私を信じてくださいますか」
出逢った頃を思い出す問い掛けだった。
疚しい考えを持つ者はフリーダを恐れる。教会内で起きたいざこざも聖術の効果が原因の一つだった。
聖女認定を受けるに相応しい人格者であるフリーダは、他人の秘密を覗き見てもそれを言い触らすことはない。しかしそれは同時に、悪を見て見ぬ振りをし続けなければならない苦しみを彼女に与え続けた。
ライ達のパーティは教会の騒動に関わったので、フリーダの苦々しさを一緒に味わっていた。
人は誰しも仄暗い感情を持っている。
それを行動に移さない限り罰する法は存在しない。
発露する前の悪逆は無実であるべきなのだ。もしかしたら直前になって踏み留まるかもしれない。最後まで善意に期待するのがセフィロト教の在り方だった。
フリーダが教会を離れる原因となった事件は、そんな在り方を嘲笑うような悪意に満ちていた。
「信じるに決まっているじゃないか、フリーダちゃん」
不安に揺れていた瞳に光が宿る。
ライは『燈火』の仲間を誰よりも信頼していた。
「そうと決まれば少しでも休もうか。いざって時に動けなくちゃ救助隊に申し訳ないからね」
寝床の準備をするライに、フリーダが神妙な面持ちで囁いた。
「その前にもう少しだけ話をさせてください」
「……監視が戻ってきた?」
「あっ、いえ……まだです」
声を潜めたのでてっきり監視が再開されたのかと思ったが、どうやら違うようだった。
「小声で離すのは良いけど、もっとリラックスした態度を取ろうか。監視役が離れていたことにこっちが気付いていたってのを親切に教えてやる必要はないからね」
「なるほど、流石ですね、ライさん」
「いやーもっと褒めてくれていいんだよ」
素直に褒めちぎってくれるので思わず頬が緩む。
フェリスが居れば白い目を向けてきただろう。あるいはからかってきたかもしれない。それで喧嘩に発展したところをフリーダが止めに入る。一連の流れを黙って眺めるバンを巻き込んで馬鹿騒ぎに発展――そこまで考えて我ながら重症だなと苦笑を浮かべる。
「実は話したかったのは監視についてなんです」
「彼らも気合が入ってるよね、相手が重罪人だからって朝から晩まで監視を続けるなんて」
「そこなんです!」
「そこ……?」
「ずっと奇妙だと思っていたんです。だってそこまで念入りに監視をして脱走を防ごうとするぐらいなら、牢屋を強固にした方が良いじゃないですか」
「手の込んだものを教典に反するとか?」
フリーダは森の樹木で作られた格子壁に触れる。
「大切な森を材料にしているんです。マーテル派にこれ以上の罪深い素材はありません。だからもっと厳重に魔法を掛けて、出られないようにすればいいのに簡易の【施錠魔法】を掛けるだけでした」
「逃げられること前提で森を出る前に捕らえれば良いって考えじゃ……ああ、そうか、その場合も念入りな監視はいらないのか」
「はい、時間を決めて巡回をするだけでいい筈です」
「そうなると監視役は何を目的にしてるんだ」
フリーダは首を横に振った。
そして恐る恐る告げられた言葉にライは驚愕した。
「監視役の人達はマーテル派とは別口なのかもしれません」
直前まで見ていた夢の雪景色に見覚えがあるのも当然だった。
あの場所は故郷のシン村だ。
夢の中でバンとフェリスが背を向けて去っていった。
その姿に不吉な予感を覚えたが、フェリスに不安を悟らせるわけにはいかないので、ライは手元に意識を向けた。
少しでも作業に集中して、最悪の想像を頭から追い出したかった。
扉が物理的に塞がれているだけならば、無理矢理に突破する方法は幾らでもある。
しかし魔法が相手の場合はそうもいかない。法則を理解して対処しなければ事態を悪化させかねないのだ。
最も単純な仕掛けで思い付くのは、魔術式に組み込まれた『警報』だ。正規の手順以外で魔法を解除しようとしたり、術者以外が魔術式に干渉した場合に、術者の元へその事実を伝える魔法だ。
「旅の魔法使い……その方に師事をされたから、たくさんの魔法を扱えるのですね」
作業の手が止まったところで、フリーダが納得するように言葉を口にした。
ライは苦笑を浮かべる。
「どうだろう? 最後まで先生って呼ばれるのを嫌がってたというか……なんとも言えない感じだったから」
「魔法は教えてくださったんですよね?」
「そうだね」
牢屋の鍵を解析している【解錠魔法】も先生から習った魔法の一つだ。
「でも魔法を教えるつもりじゃなくて、旅の手段として魔法を教えたんじゃないかな。村から出たくてしょうがないお年頃だったからね。きっと無駄死にさせるのも気が引けたんだよ。相棒も色々と教わっていたみたいだし」
「バンさんも?」
「先生はパーティを組んで旅をしていたこともあったらしくて、剣の使い方とか前衛職の立ち回りも知ってたんだ」
「物知りな方だったんですね」
「村の子どもが先生って呼ぶようになったのも、元はと言えば大人達が先生って呼んでたのがうつったんだよ」
シン村は王国にの辺境にある寒村だ。
名産品になるようなものはなく、行商の通り道からも離れた土地で、そんな村に外部から注目を向けるのは税金を徴収する役人ぐらいだ。
誰もがその日を生きるのに精一杯で外の世界を知る者は居なかった。
だから先生の存在は、村にとっては余りにも眩しかったのだ。
「……よし、警報の類も仕掛けられてない。これなら解除できそうだ」
ライは作業を終えて気を抜くと目眩に襲われた。
倒れそうになる体をフリーダが支えてくれる。
「大丈夫ですか!?」
「魔力不足でちょっとふらりと来ただけだから心配しないで」
「それなら良いのですが……」
フリーダは嘘に気付いた様子だったが追及はしてこなかった。
どれだけ軽口を叩こうとも、ライの限界も近い。
「……すぐに脱出しますか?」
フリーダの言葉には焦燥感が滲み出ていた。
「監視はまだ離れたままなんだね」
「はい、戻って来てないみたいです」
「……この状況自体が罠の可能性はあったりするかな?」
「距離があったので正確に把握はできていませんが、監視をしていた人は慌てていたような気がします」
動くべきか、待つべきか――果たして今こそが絶好の好機なのか見極めなければならない。
重要な場面で決断を下してきたのは、いつもバンだった。
そしてパーティはバンの決断には迷わず従えた。
「やれやれ、付けが回ってきたね」
どれだけ考えても結論に辿り着けない。
マーテル派の戦士は脱走を見付ければ、もはや祈りの罰では済ませず、即座に命を奪ってくるかもしれない。
そうなれば犠牲になるのはライだけでは済まされない。
他人の命というのはどうしてここまで重いのか。
失敗した未来を想像するだけで、バンに押し付けてきた責任に――本来はライも背負うべきだった重みに押し潰されてしまいそうだった。
「……えっ、これはっ!?」
フリーダが祈りの体勢を取ったのを目にして口を噤む。
呼吸音すらも邪魔にならないように口元を押さえ込んだ。
祈りはしばらく続いた。
その間、ライは魔力の自然回復を促す瞑想を行っていた。
他に何もできないなら瞑想をしておくように、というのは先生の教えの一つだった。旅の最中はいつどこで休めるか分からない。だから少しでも魔力を温存できるように癖を付けろと口を酸っぱくして注意を受けた。
「――神樹の導きに感謝を致します」
フリーダは祈りの体勢を崩すと、零れ落ちる涙を指先で掬い取った。
顔を上げたフリーダと目が合うと満面の笑みを返される。
「吉報かな?」
「はいっ、確かに聞き届けました」
*
「王女殿下、どうされましたか」
ロゼはブランカの呼び掛けに応えず、祈りを捧げるのに集中した。
交渉中にアヴァドが不自然に向いた壁の方向を思い出して、現在地から方角を割り出すと、そちらに向かって一心不乱に祈りを捧げ続けていた。
門番との話を終えてマーテルの里に引き返すかどうか――結局は立ち去ることを選んだ。
何も成し遂げられない無力な自分を呪い、救いの手を差し伸べてくれる誰かに祈ろうとして、不意にフリーダの聖術を思い出した。
“導きの聖女”フリーダ。
王族の一人としてセフィロト教の神事に参加することがあり、何度かフリーダとは顔を合わせていた。彼女が教会内のいざこざで冒険者になったのも知っていたので冒険者パーティ『燈火』の名前に聞き覚えがあった。
囚われている片割れの女性がフリーダであるならば、もしかしたら祈りは届くかもしれない。
彼女は神樹に授けられた聖術によって迷える信者に道を示す。
その過程で人々の心を読み取るのだが、遠く離れていても強い感情や真摯な祈りであればフリーダのもとに届くのだという。だから身動きの取れない者はフリーダに神樹を重ねて必死に祈りを捧げるそうだ。
ロゼは祈った。
冒険者が囚われているであろう森の奥へと届くように。
――必ずあなた達を助け出します。
助けを求めるのではなく、助けるための誓いの祈り。
純真無垢な心の紡ぐ真摯なる想い。
果たして届いたのかどうなのか、ロゼには分からなかったが言葉に言い表せられない手応えを感じ取った。
無言で手を組んだまま立ち尽くすロゼに対して、ブランカや護衛達は困惑していた。
上手な説明が思い浮かばず、誤魔化すように微笑み掛ける。
「急ぎましょう」
「王女殿下、先程は何を?」
「戻ってくるための道導を刻みました」
「は、はぁ……それは一体」
「私もよく分かってないのです。ただ必要なことだと思いました」
*
「つまり誰かが助けに向かってきていると?」
「もっとぼんやりとしていました。助け出すという意思表示なのだと思います」
「信じられる祈りかな」
「力強さと真摯な想いが宿っていました。私は信じたいです」
「信じたい、か……」
ライはフリーダが聖術で感じ取った祈りについて考える。
どうやらバンやフェリスの送ってきた合図ではないようだが、何者かがマーテルの里の近くまで二人を助け出そうとやってきたのは確かなようだ。もしかしたら里の中まで入ったのかもしれない。それならば監視役が離れたのも納得が行く。
「ライさんは、私を信じてくださいますか」
出逢った頃を思い出す問い掛けだった。
疚しい考えを持つ者はフリーダを恐れる。教会内で起きたいざこざも聖術の効果が原因の一つだった。
聖女認定を受けるに相応しい人格者であるフリーダは、他人の秘密を覗き見てもそれを言い触らすことはない。しかしそれは同時に、悪を見て見ぬ振りをし続けなければならない苦しみを彼女に与え続けた。
ライ達のパーティは教会の騒動に関わったので、フリーダの苦々しさを一緒に味わっていた。
人は誰しも仄暗い感情を持っている。
それを行動に移さない限り罰する法は存在しない。
発露する前の悪逆は無実であるべきなのだ。もしかしたら直前になって踏み留まるかもしれない。最後まで善意に期待するのがセフィロト教の在り方だった。
フリーダが教会を離れる原因となった事件は、そんな在り方を嘲笑うような悪意に満ちていた。
「信じるに決まっているじゃないか、フリーダちゃん」
不安に揺れていた瞳に光が宿る。
ライは『燈火』の仲間を誰よりも信頼していた。
「そうと決まれば少しでも休もうか。いざって時に動けなくちゃ救助隊に申し訳ないからね」
寝床の準備をするライに、フリーダが神妙な面持ちで囁いた。
「その前にもう少しだけ話をさせてください」
「……監視が戻ってきた?」
「あっ、いえ……まだです」
声を潜めたのでてっきり監視が再開されたのかと思ったが、どうやら違うようだった。
「小声で離すのは良いけど、もっとリラックスした態度を取ろうか。監視役が離れていたことにこっちが気付いていたってのを親切に教えてやる必要はないからね」
「なるほど、流石ですね、ライさん」
「いやーもっと褒めてくれていいんだよ」
素直に褒めちぎってくれるので思わず頬が緩む。
フェリスが居れば白い目を向けてきただろう。あるいはからかってきたかもしれない。それで喧嘩に発展したところをフリーダが止めに入る。一連の流れを黙って眺めるバンを巻き込んで馬鹿騒ぎに発展――そこまで考えて我ながら重症だなと苦笑を浮かべる。
「実は話したかったのは監視についてなんです」
「彼らも気合が入ってるよね、相手が重罪人だからって朝から晩まで監視を続けるなんて」
「そこなんです!」
「そこ……?」
「ずっと奇妙だと思っていたんです。だってそこまで念入りに監視をして脱走を防ごうとするぐらいなら、牢屋を強固にした方が良いじゃないですか」
「手の込んだものを教典に反するとか?」
フリーダは森の樹木で作られた格子壁に触れる。
「大切な森を材料にしているんです。マーテル派にこれ以上の罪深い素材はありません。だからもっと厳重に魔法を掛けて、出られないようにすればいいのに簡易の【施錠魔法】を掛けるだけでした」
「逃げられること前提で森を出る前に捕らえれば良いって考えじゃ……ああ、そうか、その場合も念入りな監視はいらないのか」
「はい、時間を決めて巡回をするだけでいい筈です」
「そうなると監視役は何を目的にしてるんだ」
フリーダは首を横に振った。
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