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第二章:城塞都市クレイル

背信者(7)

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 アヴァドはずっと閉じていた瞼を開いた。

「古き友よ……白狼よ、そのような話をするためにやって来たのではなかろう」
「ええ、アヴァド司祭……我々は目の前の問題について話すべきですね」
「冒険者の件ですな」
「ご推察の通りです。こちらから使者を送った際に、古き聖地を穢した罪で捕らえたと返答を受けました」

 ブランカの言葉にアヴァドは深く頷いた。

「解放の条件も伝えましたな」
「あの夜に描かれた巨大な魔法陣、そして流星雨。その術者が彼らの可能性があるという話でしたね」
「左様、無実の証明できない限りは彼らを解放するわけにはいきますまい」
「……信仰の違い、過去の仲違い。我々の間には大きな溝があります。しかしあの魔法――【流星魔法】については協力を頼みたい」

 アヴァドは目を細めた。

「ほう、術者に心当たりがあるのですかな」
「最終的にそこまでできれば良いのですが、現状はもっと手前の段階です。我々はまだ【流星魔法】の正体にすら辿り着けていません。しかし謎を解き明かすことで、自ずと捕らえられた冒険者が無実だと証明できる筈です」
「それは喜ばしいことですが、解放はその証明がされた後でもよろしかろう」
「今すぐに解放までは求めません。ただ話をさせて頂けないでしょうか。彼らは【流星魔法】を現場で目撃していた可能性があります。その情報があれば少しは正体に迫れる筈です」
「正直に申し上げましょう。私は冒険者の背後にもっと大きな力が動いていると考えております。それが何かまでは明言はしませんが……ご理解頂けますね」

 交渉の場を沈黙が包み込んだ。
 ロゼは違和感を覚えていた。
 疑心暗鬼のせいでお互いを信用できないというには空気が刺々しくない。
 ブランカとアヴァドは過去のわだかまりに囚われることなく理性的に会話をしている。揶揄したり揚げ足を取るような真似もしていない。丁寧な言葉で包み込まれた隙のない交渉だ。

 この空気とよく似たものを知っている。
 王城で繰り広げられる政争だ。
 流石に貴族連中の方が悪質ではあるが方向性に近いものを感じる。

 敬虔な信仰者であるアヴァドは権力を求めているとは思えない。
 裏の顔があって周囲の信者を騙し続けているというのもしっくりこない。マーテル派の戒律で冬を越えるのは命懸けだ。それに司祭を名乗れるほど信者に慕われるためには常に演技しなければならないだろう。今日のような状況のために潜り込んだのだとしたら相当な忍耐力だ。

 もっと単純にアヴァドの目的を考えるとしたら、王国に対して森を守るために冒険者の身柄を手札にしているとは考えられないだろうか。冒険者は政治に不干渉ではあるが中立の存在も扱い次第だ。都市長から冒険者の身柄を求めている時点で相手も察するところだろう。

 視線を感じ取り顔を上げる。
 アヴァドと目が合って、大樹のような泰然とした力強さに呑み込まれそうになった。

「お客人、あなたはこの部屋に入ってからは一言も発しておられません。白狼の子孫が今も尚あの都市の長であるのは承知しておりますが……その白狼が敬う存在だとすると、その存在は限られるでしょうな」
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