48 / 66
第二章:城塞都市クレイル
背信者(5)
しおりを挟む
「手荒い歓迎となり申し訳ございませぬ……しかし、賑やかな歓待ができぬことはご承知おきください」
黒狼族の司祭はアヴァドと名乗った。
「マーテル派に司祭は居ない筈では?」
「便宜上のものですよ」
ロゼの疑問にアヴァドは丁寧に説明をしてくれた。
本来はマーテル派に階級の概念はなく全員が平等の立場にある。
しかし、この森に住まうマーテル派の信者を取りまとめており、集団生活の中で明確なリーダーが居ないのは混乱を招くため、便宜上やむを得ず司祭と名乗っているのだという。
「こちらの梯子から上がってください」
マーテル派の集落は樹齢数千年に及ぶであろう大樹を中心に築かれていた。
近付くと大樹の威容に圧倒されてしまう。たった一本の木から伸びる枝葉によって空を塞ぎ切っていた。
大樹の枝の間にツリーハウスが建てられている。周囲の成長した木々にも小さなツリーハウスがあり、それぞれの木を吊り橋で繋げ合っていた。
「見事なものですね」
「これこそが自然の授かりものです」
ロゼの思わず漏らした言葉にアヴァドが微笑んだ。
本人がそんな意図を込めてなくてもアヴァドの言葉に皮肉を感じ取ってしまう。王室の端くれであるロゼにとっては文明の発展のために自然を犠牲にする王国を揶揄しているようだった。
「夜行性の魔獣が獲物を求めて徘徊するので、地面の上で夜を過ごすのは危険なのです。こういった形に集落が落ち着いたのは自然の成り行きというものですな」
森の中にある素材だけで作られた梯子や吊り橋、家屋はどれも頑丈で洗練されていた。長年の生活の中で加工技術が磨かれてきたのだろう。文明の発展を放棄はしているが、決して文明の一切を否定はしていない。マーテル派が線引きする境界を見極めることこそが重要そうだ。
「この建物は集会場として普段は使っております。里の中で人の集まれる場所はここぐらいしかないものでして、客人に相応しい居場所ではありませんが、どうかご理解ください」
アヴァドに招き入れられた集会場は、木の上という限られた空間に築かれた建物とは思えなかった。何段もの高低差を利用して、多くの人が収納できるように講壇を囲って扇形の座席が階段状に並んでいた。
交渉するには向いていない部屋の構造だったので、対等な立場を示すために講壇の周りに椅子を置き直す。クレイル側はロゼとブランカの二人だけが交渉の席に着いて護衛達は集会場の外に待機させた。
「門番を務めていたあの男は実直だ。彼が君たちに害意を向けたことは改めて謝罪しよう。しかし彼の紡いだ言葉は決して否定できない。古き友よ、我々の道は既に分かたれたのだ」
正面から向き合ったアヴァドは態度こそ柔和であるが気を抜けない相手だった。これまでも白狼族や王国を否定はしなかったが、決して歩み寄る態度は見せていない。
分かりやすく怒りを見せた門番の方がむしろやりやすかった。
アヴァドの黒い瞳には、言葉にできない澱のように積み重なった感情が見え隠れしていた。
黒狼族の司祭はアヴァドと名乗った。
「マーテル派に司祭は居ない筈では?」
「便宜上のものですよ」
ロゼの疑問にアヴァドは丁寧に説明をしてくれた。
本来はマーテル派に階級の概念はなく全員が平等の立場にある。
しかし、この森に住まうマーテル派の信者を取りまとめており、集団生活の中で明確なリーダーが居ないのは混乱を招くため、便宜上やむを得ず司祭と名乗っているのだという。
「こちらの梯子から上がってください」
マーテル派の集落は樹齢数千年に及ぶであろう大樹を中心に築かれていた。
近付くと大樹の威容に圧倒されてしまう。たった一本の木から伸びる枝葉によって空を塞ぎ切っていた。
大樹の枝の間にツリーハウスが建てられている。周囲の成長した木々にも小さなツリーハウスがあり、それぞれの木を吊り橋で繋げ合っていた。
「見事なものですね」
「これこそが自然の授かりものです」
ロゼの思わず漏らした言葉にアヴァドが微笑んだ。
本人がそんな意図を込めてなくてもアヴァドの言葉に皮肉を感じ取ってしまう。王室の端くれであるロゼにとっては文明の発展のために自然を犠牲にする王国を揶揄しているようだった。
「夜行性の魔獣が獲物を求めて徘徊するので、地面の上で夜を過ごすのは危険なのです。こういった形に集落が落ち着いたのは自然の成り行きというものですな」
森の中にある素材だけで作られた梯子や吊り橋、家屋はどれも頑丈で洗練されていた。長年の生活の中で加工技術が磨かれてきたのだろう。文明の発展を放棄はしているが、決して文明の一切を否定はしていない。マーテル派が線引きする境界を見極めることこそが重要そうだ。
「この建物は集会場として普段は使っております。里の中で人の集まれる場所はここぐらいしかないものでして、客人に相応しい居場所ではありませんが、どうかご理解ください」
アヴァドに招き入れられた集会場は、木の上という限られた空間に築かれた建物とは思えなかった。何段もの高低差を利用して、多くの人が収納できるように講壇を囲って扇形の座席が階段状に並んでいた。
交渉するには向いていない部屋の構造だったので、対等な立場を示すために講壇の周りに椅子を置き直す。クレイル側はロゼとブランカの二人だけが交渉の席に着いて護衛達は集会場の外に待機させた。
「門番を務めていたあの男は実直だ。彼が君たちに害意を向けたことは改めて謝罪しよう。しかし彼の紡いだ言葉は決して否定できない。古き友よ、我々の道は既に分かたれたのだ」
正面から向き合ったアヴァドは態度こそ柔和であるが気を抜けない相手だった。これまでも白狼族や王国を否定はしなかったが、決して歩み寄る態度は見せていない。
分かりやすく怒りを見せた門番の方がむしろやりやすかった。
アヴァドの黒い瞳には、言葉にできない澱のように積み重なった感情が見え隠れしていた。
0
■ X(旧Twitter)アカウント
・更新予定や作品のことを呟いたりしてますので、良ければフォローをお願い致します
・更新予定や作品のことを呟いたりしてますので、良ければフォローをお願い致します
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
猛焔滅斬の碧刃龍
ガスト
ファンタジー
ある日、背後から何者かに突然刺され死亡した主人公。
目覚めると神様的な存在に『転生』を迫られ 気付けば異世界に!
火を吐くドラゴン、動く大木、ダンジョンに魔王!!
有り触れた世界に転生したけど、身体は竜の姿で⋯!?
仲間と出会い、絆を深め、強敵を倒す⋯単なるファンタジーライフじゃない!
進むに連れて、どんどんおかしな方向に行く主人公の運命!
グルグルと回る世界で、一体どんな事が待ち受けているのか!
読んで観なきゃあ分からない!
異世界転生バトルファンタジー!ここに降臨す!
※「小説家になろう」でも投稿しております。
https://ncode.syosetu.com/n5903ga/
ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜
黒木箱 末宝
ファンタジー
これは、はみ出し者の物語。
現代の地球のとある県のある市に、社会に適合できず、その力と才能を腐らせた男が居た。
彼の名は山城 大器(やましろ たいき)。
今年でニート四年目の、見てくれだけは立派な二七歳の男である。
そんな社会からはみ出た大器が、現代に突如出現した上位存在の侵略施設である迷宮回廊──ダンジョンで自身の存在意義を見出だし、荒ぶり、溺れて染まるまでの物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる