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第一章:魔王軍誕生
世界変革の光(4)
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バチッと大きな音を立てて火花が弾けた。
どうやら焚き火に使われた薪に乾燥の足りない枝木が混じっていたようだ。
火元に近かったフェリスは顔を腕で覆って上体を逸らすと、向かい側に座っていたライを睨み付けた。
「おい、フードで顔を隠すな。薪拾い担当したのはお前だろう」
目深に被ったフードでライの表情は隠れているが、いつものニヤケ面を浮かべているのは容易に想像できた。
「あっははー、ほら、夜の森は退屈だろう? フェリスちゃんも少しは刺激が欲しいとは思わないかい?」
「思わねーよ。ピクニックに来たんじゃねぇんだからな」
「マルクト丘陵が近いからって緊張してるのかい? あんまりかっかしなさんなって」
「誰のせいだよ」
「さてはて、一体誰かなー?」
「いいぜ、あたしの拳が教えてやるよ」
フェリスが見せ付けるように拳を握り締めると、ライが逃げる準備に腰を浮かせた。
「――お二人共、喧嘩はだめですよ」
小さな声だったが、その制止は不思議とよく響いた。
隣に目をやれば、セフィロト教会の敬虔な信者は祈りを中断していた。
暴力に発展するのは見過ごせなかったようだ。ほんの少しでも口を挟むのを遅れていれば、フェリスは望み通りライの腹に拳を打ち込めていた。
「はいはい、フリーダ様のお言葉には逆らいませんよ」
フェリスが恭しく跪いて見せれば、聖女として崇められていた幼い少女は眉根を寄せた。
「やめてください、私はもうただのフリーダなんですから」
「フリーダちゃんのお陰で命拾いしたよー、ありがとー!」
「ライさんも言葉を尽くしていないことを反省してください」
フリーダの指摘にライがフードを外して肩を竦めてみせた。
「なんだい、聖女様の目は誤魔化せないか」
「仲間だから気付いたんです」
「おっと、一本取られちゃったな」
薪が乾燥されていないのには理由があると察して、フェリスの怒りは急速に萎んでいく。
「ったく、乾燥させる魔力を節約したかったなら、正直にそう言えばいいだろうが。それだけの何かがあるんだろう?」
「そうなんだけどさ、正直に言えばフェリスちゃんがビビっちゃうと思ってね」
「はぁ? てめぇ――」
怒りの再燃したフェリスは立ち上がろうとして、フリーダに腕を掴まれた。
「ちっ……分かってるよ、喧嘩はするなだろ」
「いいえ、そうではなくて……静か過ぎませんか?」
フェリスは聞き耳を立てると、夜の森を賑やかに盛り上げていた虫の大合唱が止まっていた。風鳴りすらも聞こえず、焚き火の中で枝木が弾ける音だけが世界のすべてだった。
とんと静かな物音が野営地に響く。
緊張を押し殺して振り向けば、膝を曲げて着地姿勢を取るバンの姿があった。
「上から何か見えたのか」
バンは小さく頷き返してくる。
肩に付いた木の葉をそのままにパーティメンバーをぐるりと見回す。
「――全員、すぐに動けるように準備しろ」
パーティリーダーであるバンの言葉に、全員が返事よりも早く装備に手を伸ばした。
*
冒険者パーティ『燈火』は、結成から僅か二年で上級まで昇格した新進気鋭の四人組である。
ルベリスタ王国を中心に活動しており、初期メンバーは軽戦士バンと魔術師ライの二人組で、同じ村出身の彼らは故郷での平凡な暮らしから抜け出したくて、家出同然に冒険者となった。
寒村出身の無知な若者が活躍できるほど世界は甘くなかったが、半年間の旅路で世渡りを学び、故郷の苦しい生活で磨いた能力によってすぐに頭角を現していく。
フェリスがパーティに所属したのは結成から半年後だった。
王都で貴族狙いの盗賊をしていたフェリスは、バンとライに依頼先で遭遇してしまい、偶発的に発生した戦闘で敗北した。
そのまま衛兵に突き出されていれば彼女の人生は終わっていたが、不条理な税に故郷を苦しめられていた二人は、悪徳な貴族だけを狙うフェリスに共感してくれたのか、牢屋行きの代わりにパーティに誘われることになった。
王都での活動に行き詰まりを感じていたフェリスは、借りを返すためにもパーティへと協力することにした。
三人組となったパーティは、順調に冒険者として成果を上げていった、
そして、とある依頼中に僧侶フリーダと共闘することになる。
フリーダはセフィロト教会の聖女として、幼い頃から厳しく育て上げられて厚い信仰心を持っていた。しかし教会の腐敗を目の当たりにして絶望していた。
三人との出逢いと教会との一悶着を経て、フリーダは教会の外で自分の信仰を見付け出すためにパーティへと加わった。
それが三ヶ月前の出来事だ。
冒険者ギルドのパーティ規定人数の四人以上となり――ずっと手を貸しているだけというスタンスを取っていたフェリスも折れて――正式なパーティとして『燈火』の名前で登録した。
そして現在、ギルドからの指名依頼で『マルクト丘陵生態系の定期調査』のために北方の未開拓地域に足を踏み入れていた。
どうやら焚き火に使われた薪に乾燥の足りない枝木が混じっていたようだ。
火元に近かったフェリスは顔を腕で覆って上体を逸らすと、向かい側に座っていたライを睨み付けた。
「おい、フードで顔を隠すな。薪拾い担当したのはお前だろう」
目深に被ったフードでライの表情は隠れているが、いつものニヤケ面を浮かべているのは容易に想像できた。
「あっははー、ほら、夜の森は退屈だろう? フェリスちゃんも少しは刺激が欲しいとは思わないかい?」
「思わねーよ。ピクニックに来たんじゃねぇんだからな」
「マルクト丘陵が近いからって緊張してるのかい? あんまりかっかしなさんなって」
「誰のせいだよ」
「さてはて、一体誰かなー?」
「いいぜ、あたしの拳が教えてやるよ」
フェリスが見せ付けるように拳を握り締めると、ライが逃げる準備に腰を浮かせた。
「――お二人共、喧嘩はだめですよ」
小さな声だったが、その制止は不思議とよく響いた。
隣に目をやれば、セフィロト教会の敬虔な信者は祈りを中断していた。
暴力に発展するのは見過ごせなかったようだ。ほんの少しでも口を挟むのを遅れていれば、フェリスは望み通りライの腹に拳を打ち込めていた。
「はいはい、フリーダ様のお言葉には逆らいませんよ」
フェリスが恭しく跪いて見せれば、聖女として崇められていた幼い少女は眉根を寄せた。
「やめてください、私はもうただのフリーダなんですから」
「フリーダちゃんのお陰で命拾いしたよー、ありがとー!」
「ライさんも言葉を尽くしていないことを反省してください」
フリーダの指摘にライがフードを外して肩を竦めてみせた。
「なんだい、聖女様の目は誤魔化せないか」
「仲間だから気付いたんです」
「おっと、一本取られちゃったな」
薪が乾燥されていないのには理由があると察して、フェリスの怒りは急速に萎んでいく。
「ったく、乾燥させる魔力を節約したかったなら、正直にそう言えばいいだろうが。それだけの何かがあるんだろう?」
「そうなんだけどさ、正直に言えばフェリスちゃんがビビっちゃうと思ってね」
「はぁ? てめぇ――」
怒りの再燃したフェリスは立ち上がろうとして、フリーダに腕を掴まれた。
「ちっ……分かってるよ、喧嘩はするなだろ」
「いいえ、そうではなくて……静か過ぎませんか?」
フェリスは聞き耳を立てると、夜の森を賑やかに盛り上げていた虫の大合唱が止まっていた。風鳴りすらも聞こえず、焚き火の中で枝木が弾ける音だけが世界のすべてだった。
とんと静かな物音が野営地に響く。
緊張を押し殺して振り向けば、膝を曲げて着地姿勢を取るバンの姿があった。
「上から何か見えたのか」
バンは小さく頷き返してくる。
肩に付いた木の葉をそのままにパーティメンバーをぐるりと見回す。
「――全員、すぐに動けるように準備しろ」
パーティリーダーであるバンの言葉に、全員が返事よりも早く装備に手を伸ばした。
*
冒険者パーティ『燈火』は、結成から僅か二年で上級まで昇格した新進気鋭の四人組である。
ルベリスタ王国を中心に活動しており、初期メンバーは軽戦士バンと魔術師ライの二人組で、同じ村出身の彼らは故郷での平凡な暮らしから抜け出したくて、家出同然に冒険者となった。
寒村出身の無知な若者が活躍できるほど世界は甘くなかったが、半年間の旅路で世渡りを学び、故郷の苦しい生活で磨いた能力によってすぐに頭角を現していく。
フェリスがパーティに所属したのは結成から半年後だった。
王都で貴族狙いの盗賊をしていたフェリスは、バンとライに依頼先で遭遇してしまい、偶発的に発生した戦闘で敗北した。
そのまま衛兵に突き出されていれば彼女の人生は終わっていたが、不条理な税に故郷を苦しめられていた二人は、悪徳な貴族だけを狙うフェリスに共感してくれたのか、牢屋行きの代わりにパーティに誘われることになった。
王都での活動に行き詰まりを感じていたフェリスは、借りを返すためにもパーティへと協力することにした。
三人組となったパーティは、順調に冒険者として成果を上げていった、
そして、とある依頼中に僧侶フリーダと共闘することになる。
フリーダはセフィロト教会の聖女として、幼い頃から厳しく育て上げられて厚い信仰心を持っていた。しかし教会の腐敗を目の当たりにして絶望していた。
三人との出逢いと教会との一悶着を経て、フリーダは教会の外で自分の信仰を見付け出すためにパーティへと加わった。
それが三ヶ月前の出来事だ。
冒険者ギルドのパーティ規定人数の四人以上となり――ずっと手を貸しているだけというスタンスを取っていたフェリスも折れて――正式なパーティとして『燈火』の名前で登録した。
そして現在、ギルドからの指名依頼で『マルクト丘陵生態系の定期調査』のために北方の未開拓地域に足を踏み入れていた。
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