佐藤くんは覗きたい

喜多朱里

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更衣室を覗きたい(後編)

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 放課後、教室を出ていく有村さんを尾行すると、職員室に立ち寄りどこかの鍵を持ち出してきた。そして辿り着いた先は用務員室だった。
 用務員室は事務部屋と物置の二つに分かれている。事務部屋と物置は繋がっているのだが、生徒が物置を利用する場合は職員室で鍵を借りて外側の扉から出入りする決まりになっていた。

 用務員室は生徒のほとんど近付かない特別棟一階にあるので、有村さんが物置に入った後、内側から鍵を締めた音が隠れて様子を窺う僕のところまで聞こえてきた。
 それから数分ほど待っていると、有村さんが空のプランターを抱えて物置から出てきた。

「あっ……!」

 鍵を閉めた理由が分かった。
 有村さんは制服から体操着に着替えていたのだ。
 二階に引き返して有村さんをやり過ごすと、僕は物置に向かった。扉に手を掛ければ鍵は開いていた。
 本来は用務員が使う道具の置き場であったが、現在は使われなくなった机や椅子、体育祭や文化祭用の看板など数年に一度しか使われない物が押し込まれていた。美化委員も肥料やプランターの置き場として間借りしているようだ。

「なるほどね、更衣室として前から使われてたのか」

 古くなったロッカーが幾つか並んで設置されていた。
 一つずつ開けていくと、その内の一つに有村さんの荷物と制服が入っていた。

「あのロッカーの中に隠れれば着替えを覗けるんじゃないか?」

 有村さんの着替えが入っていたロッカーとの位置関係を確認して、僕は手応えを感じていた。
 物置奥のロッカー前には机と椅子が積まれていた。表面に埃が積もっているので、しばらく放置されているのが分かる。
 内側から机を引いて元の配置に戻せば、わざわざ埃の積もった場所まで近付こうとする人は居ない筈だ。

「これは使えるな」

 僕は棚に置かれたビニール紐の束を手に取る。
 梱包作業やダンボールのゴミ捨てに使った記憶がある。この紐なら目立たないし、机の足に括り付けて引っ張れば元の位置に戻して偽装できる。ちょうどロッカーの足元には隙間があるので紐を引き込めるだろう。
 出る時は単純にロッカーの扉で押せばいいだけなので、難しい工夫は必要ない。我ながらシンプルで良いアイディアだ。

    *

 身を屈めてゆっくりと腰を捻る。
 寒さと緊張で凝り固まった身体がバキバキと音を立てた。
 まともに身動きを取れない狭い場所で、長時間ただ突っ立っている今の状況は、自分からやったことでなければ立派な拷問になる。

「ふぅぅ……きっとまだチャンスはある……」

 僕は声を潜めて自分に言い聞かせた。
 一日目の調査で覗くことは可能だと判断した僕は、二日目に意を決して覗きを決行した。
 用務員室の隅に置かれたロッカーに一時間ほど潜伏していた。
 しかし、期待と緊張に激しく鼓動していた心臓も今となっては静かになっている。

「はぁぁ……浮かれ過ぎてすっかり忘れてたね」

 何人か女子生徒が着替えをしていったが、誰もが制服内に体操着を着ており、ただブレザー、ブラウス、スカートを脱いでジャージを着直すだけだった。露出の欠片も存在しなかった。
 最初の内は着替えているというだけでドキドキしていたが、最大の露出度が夏服レベルとなれば期待の大きさも相まって萎えてしまう。
 そりゃあスカートの下に体操着を穿いて防寒しているんだから、上にも体操着を着ていても何も不思議じゃないよね。寧ろ自分だって体操着を制服の下に着ていた。

 もうさっさと家に帰りたかったが、この覗き方法の致命的な欠点は中断が難しいことだ。
 廊下に耳を澄ませて誰にも気付かれず抜け出せるタイミングを計っていると、足音が近付いてきた。

「美化委員の仕事って重労働ですね」
「そうなんだよね。七江ちゃんが働き者で助かるよ」

 入ってきたのは、有村さんと見覚えのある先輩女子だった。最初にパンツを拝ませてもらった時に居た名もなき先輩――帰り道の雑談で伊藤先輩だと有村さんから教えてもらった。

「寒いと思いましたけど、意外と汗をかいちゃいました」

 有村さんはジャージを脱いで、少しだけ湿ったシャツの首元をパタパタとさせた。引っ張られたシャツの隙間から肩に掛かるブラ紐にドキリとする。しっとりした体操着のお陰で桃色のブラジャーが少しだけ透けていた。

「着替えは大丈夫?」
「はいっ! 前の時も汗かいたので備えで着替えのシャツを余分に持ってきました」

 僕は話の流れから失い掛けていた希望を取り戻す。
 そして有村さんは期待に応えてくれた。
 腕を交差させるようにシャツの裾を掴んで一気に引き上げようとして、

「わ、わわー!」
「ふふ、なにやってるのもう」

 有村さんは一息に脱ぐつもりだったのだろう。しかし豊満な胸に引っ掛かり腕が顔に当たって腰を反るような体勢になっていた。
 大きな胸に反してキュッと締まったお腹とちょこんと顔を出すお臍。
 プールや海に行けばビキニ姿で見られる部分なのに、脱ぎ掛けを意識すると妙にドギマギとしてしまう。
 やがて伊藤先輩の手助けを受けて、有村さんはシャツを脱ぎ終える。

 ロッカーの扉に顔を押し付けて、ブラジャー姿になった有村さんを凝視した。
 制服越しにも主張の激しかった巨乳を遂に拝むことができた。
 以前に見た水色のパンツと一緒で、花の刺繍が施された可愛らしいデザインだ。色違いの上下セットを幾つか揃えているのかもしれない。

 ブラジャーに隠れていない上乳の白さが眩しく映る。
 制汗スプレーを吹き掛けるのに腕を上げ下げしたり、身体の動きに合わせて僅かに胸が揺れる。
 僕は有村さんの生着替えに思わず股間に手が伸びていた。

「やっぱり七江ちゃんの胸って羨ましいな」
「これはこれで不便なんですよ」
「ほーう、言ってくれるじゃないのー」
「ひゃっ!? くすぐったいですって!」

 伊藤先輩の魔の手が背後から有村さんを襲った。
 両手でむんずと巨乳を掴み上げる。手の平には収まり切っておらず余計に大きさの主張が激しくなった。

「うっ……! やっておいて私のがダメージ大きいわ」
「だったら余計にやめてくださいー!」
「素直なのに生意気な身体をしておってからにー!」
「ひゃー!?!?」

 伊藤先輩の手が有村さんの乳房をいやらしく捏ね回す。

(んっ――――!?!?!?)

 激しい動きにブラジャーがズレた瞬間を僕は余さず網膜に焼き付けた。
 たゆんたゆんと激しく上下する胸。桃色の下着からはみ出した乳房の先端と周りの鮮やかなピンク。羞恥心から真っ赤に染まる顔。
 有村さんのすべてが艶めかしく映った。

「おおっー!」

 無意識に声が漏れてしまい慌てて口元を押さえる。

「はぁはぁはぁ……先輩、次やったら怒りますからね」
「怖い怖い、これからはもうちょっと控え目に攻めるよ」
「やったらだめって言ってるんですよー!」

 吹き出した汗が額からこぼれ落ちる。
 どうやら伊藤先輩と有村さんが騒いでいたお陰で気付かれずに済んだようだ。
 それにしても乱れた呼吸を整える有村さんは色っぽい。

「早く着替えましょう、もう皆を待たせちゃいますよ」

 有村さんは替えのシャツを着直して、その上にブラウスを羽織る。それからハーフパンツを脱いだ。
 ブラジャーと合わせた桃色のショーツを穿いていた。

(んんっ――――――!?!?!?!?)

 再び衝撃が襲う。
 じゃれついた時に足を激しく動かしていたためか、鼠径部のショーツが捲れ上がり、クロッチ部分がくっきりと秘部のスリットに沿って食い込んでいた。

 ブレザーを纏い、乱れた髪を手鏡を見ながら整え終われば、教室でいつも見ている有村さんの姿に戻る。
 でも今の僕には制服姿ですらドキドキしてしまう。下着や肌を見て妄想の解像度が高まったお陰で、まるで透視しているような気分だった。これまで授業中に有村さんの後ろ姿を見ながら繰り広げていた妄想に確かな質感が伴うようになることだろう。

「それじゃあ急ぎましょうか、先輩」

 着替え終えた有村さんと伊藤先輩が物置を出ていく。
 外側から鍵が閉められる音を聞いて、僕はようやく緊張していたことに気付いた。全身の力を抜いてロッカーから静かに出る。

「……あっ」

 遅れて大問題に気付いた。
 内側からなら問題なく鍵を開けられるが、外に出た後に閉め直す方法を考えていなかった。
 一度ぐらいは閉め忘れた、と誤魔化せるとは思う。でも何度も続ければ流石に疑われるだろう。
 折角の覗きスポットだったが、この問題を解決できるまでは再び使うことはできないことに肩を落とした。
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