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星月夜
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*
「あれ? おかしいな、鍵がかかってる……」
明日嘉くんはアパートのドアノブをつかんだまま首をひねった後、ポケットから鍵を取り出した。
「お姉さん、いないの?」
「もう帰ったのかもしれない」
「……そう、なんだ」
安堵していいのかわからず戸惑う。お姉さんに会うのは緊張してしまうけど、明日嘉くんと部屋で二人きりというのはもっと緊張する。
ドアを開けて部屋の中へ入っていった明日嘉くんは、しばらくすると戻ってきて私を呼ぶ。
「やっぱりいないみたいだ。近くにいるか連絡してみるよ。日菜詩ちゃんも中に入って」
「あ……、うん。……どうしよう、足も汚れてるの」
そう言いながら玄関に入ると、携帯電話を耳に当てたまま明日嘉くんがタオルを持ってきてくれる。
「タオル使って。ああそうだ。どうせだからシャワー浴びていいよ。……あ、姉さん? 今、どこ?」
どうやらお姉さんと電話がつながったようだ。
私は靴を脱いで足を拭き、部屋の中へと入る。夏休みに来た時も綺麗な部屋だったけれど、今日もとても片付いている。お姉さんが掃除したのだろう。
濡れた服のまま座るわけにもいかずに、電話している明日嘉くんの横に行くと、彼はバスルームを指差す。
「ああ……そうか。わかったよ。……ああ、大丈夫。え? 合鍵はまだ持っておく? まあ、いいよ。ああ、うん……じゃあまた来週ね、了解」
明日嘉くんはそう言って電話を切ると、私から上着を受け取り背中を押す。
「義兄さんが車で迎えに来たらしくて、もう姉さん来れないらしい。服が乾くまで俺のシャツでも着ててよ」
「明日嘉くんの……? でも……」
「先にシャワーを浴びていいよ。シャツ出しておくから。俺もちょっと寒くなってきたし、着替えるよ」
「……あの、明日嘉くん」
「なに? 俺の着替え、見たい?」
「えっ! あ、違う、違うよ。じゃあ、ちょっとシャワー借りるね。足が砂でザラザラだから……」
まだ話している私の前で明日嘉くんがティーシャツを脱ごうとする。割れた腹筋に思わず目がいく私が真っ赤になるのを見て、彼は愉快げに目を細める。
「シャ、シャワー借りるねっ」
彼が何か言い出さないうちに、私は慌ててバスルームに逃げ込むと、ドキドキする胸を押さえた。
「あれ? おかしいな、鍵がかかってる……」
明日嘉くんはアパートのドアノブをつかんだまま首をひねった後、ポケットから鍵を取り出した。
「お姉さん、いないの?」
「もう帰ったのかもしれない」
「……そう、なんだ」
安堵していいのかわからず戸惑う。お姉さんに会うのは緊張してしまうけど、明日嘉くんと部屋で二人きりというのはもっと緊張する。
ドアを開けて部屋の中へ入っていった明日嘉くんは、しばらくすると戻ってきて私を呼ぶ。
「やっぱりいないみたいだ。近くにいるか連絡してみるよ。日菜詩ちゃんも中に入って」
「あ……、うん。……どうしよう、足も汚れてるの」
そう言いながら玄関に入ると、携帯電話を耳に当てたまま明日嘉くんがタオルを持ってきてくれる。
「タオル使って。ああそうだ。どうせだからシャワー浴びていいよ。……あ、姉さん? 今、どこ?」
どうやらお姉さんと電話がつながったようだ。
私は靴を脱いで足を拭き、部屋の中へと入る。夏休みに来た時も綺麗な部屋だったけれど、今日もとても片付いている。お姉さんが掃除したのだろう。
濡れた服のまま座るわけにもいかずに、電話している明日嘉くんの横に行くと、彼はバスルームを指差す。
「ああ……そうか。わかったよ。……ああ、大丈夫。え? 合鍵はまだ持っておく? まあ、いいよ。ああ、うん……じゃあまた来週ね、了解」
明日嘉くんはそう言って電話を切ると、私から上着を受け取り背中を押す。
「義兄さんが車で迎えに来たらしくて、もう姉さん来れないらしい。服が乾くまで俺のシャツでも着ててよ」
「明日嘉くんの……? でも……」
「先にシャワーを浴びていいよ。シャツ出しておくから。俺もちょっと寒くなってきたし、着替えるよ」
「……あの、明日嘉くん」
「なに? 俺の着替え、見たい?」
「えっ! あ、違う、違うよ。じゃあ、ちょっとシャワー借りるね。足が砂でザラザラだから……」
まだ話している私の前で明日嘉くんがティーシャツを脱ごうとする。割れた腹筋に思わず目がいく私が真っ赤になるのを見て、彼は愉快げに目を細める。
「シャ、シャワー借りるねっ」
彼が何か言い出さないうちに、私は慌ててバスルームに逃げ込むと、ドキドキする胸を押さえた。
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