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隠し切れぬ思いの未来

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 西園寺惣一郎と綾城つゆりの婚約は、松室弁護士立会いのもと、解消された。そして、同日、勅使河原叶羽は西園寺家との養子縁組を果たし、西園寺叶羽となった。

 惣一郎さんの望んだ未来がやってきたのではないか。そう考えないでもなかったが、彼の命を代償にした、婚約解消や養子縁組を喜ぶにはまだはやく、複雑だった。

 私の新しい日常が始まったのは、惣一郎さんのお別れ会が催されてから、ひと月ほど過ぎた頃だろうか。

 綾城堂での手伝いを再開した私は、週に一度、私が講師となる、華道教室を持たせてもらえるようになっていた。

 充実とまではいかない毎日でも、平穏な日々を送っている。

 そんなある日のこと、布団を敷きながら、ふと、窓枠からのぞく空を見上げた。

 今夜は、満月だ。今となっては、満月が吉兆であったのか、凶兆であったのかはわからない。

 惣一郎さんとのお別れはつらかったが、千隼さんと過ごせた日々に、少なくとも私は幸せを感じていただろう。

 縁側を降りて、西園寺邸と綾城邸の裏庭をつなぐ裏口へ向かった。役割を終えた扉は封鎖されている。

 二度と開かないよう、扉に貼られた板に触れる。婚約解消が決まった日から、千隼さんには会えていない。当然だ。彼が私に会う理由は、もうない。

「あ、つゆり」

 突如、頭上から声が降ってくる。

「えっ? あ、えっ、千隼さんっ?」

 上を見上げると、塀から顔を出した千隼さんが、うれしげな笑みを浮かべる。

 後ろへさがると、塀の上を軽やかに乗り越えて、彼は地面に飛び降りる。なんというしなやかな身のこなしだろう。

「久しぶりに来てみたら、ふさがれてて驚きましたよ」

 乱れたスーツを整えながら、千隼さんはあけすけに笑う。

「裏から来られたりして……、西園寺さまはご存知なの?」
「さっきまで、一緒にいましてね。今回の件を詫びられました。もう会うことはないでしょうが、少しは話せてよかったのかもしれない」

 千隼さんは西園寺家との関わりを望まない。それなのに、無理なお願いを聞いてくれていたのだと思い知らされる。

「そうだったんですか。でも、こちらへ来られては……」
「すぐに帰ります。つゆりが心配で様子を見に来ただけです」
「心配だなんて。私は元気ですよ」
「本当ですか?」

 にこりと微笑んでみせるが、彼は心配げに寄せた眉をゆるめなかった。

「あの、お夕飯は?」

 あまり深入りされたくなくて、話をそらす。

「西園寺でいただきました」
「では、お茶をお出ししますね」
「つゆりの淹れるお茶はおいしいので、楽しみです」
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