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ねじれた愛をあばく時

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「千隼さんがいたら、不自然でしょう? 大丈夫ですから」

 腰をあげようとする千隼さんを制する。彼は心配そうにこちらを見上げたが、私は首を横に振ると離れの庭を抜けて門へ向かった。

 惣一郎さんがいなくなった今、私はひとりだ。

 いくら、千隼さんがそばにいてくれると言っても、彼は惣一郎さんの代わりにはならない。

 所詮、離れでしか会えない、箱の中の恋。箱に名前をつけるとしたら、やはり、パンドラだろうか。

 箱の中から千隼さんが一歩踏み出せば、何か良からぬ災いが起きる。そんな気がしてならない。

 これから先、西園寺家を背負う者として、強く生きていかなきゃいけない。毅然と背筋を伸ばし、門の前でそわそわと辺りをうかがう颯太に近づいた。

「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用向きでしょうか?」

 声をかけると、颯太はバツが悪そうに、後頭部に手を置いた。

「あっ、綾城さん……っ。すみません。すみれちゃんが綾城堂を訪ねたみたいで……。失礼なこと、言いましたよね。謝らなきゃと思いまして」
「謝罪しにいらしたんですか?」
「あんなに怒るとは思ってなかったんですよ。なんだろな……、叶羽が生まれて、いろいろ考えが変わったのは間違いないんですけど。俺のやり方が気に入らなかったみたいだ」

 私をデートに誘って婚約破棄を迫った。そのやり方が間違っていると、すみれは怒ったのだろうか。私たちが誰にも内緒で、ふたりきりで会ったことに対してではなく……。

「そう思うのなら、もうこちらに来られない方がよろしいのでは?」

 また誤解を招くのではないか。そう忠告すると、颯太は悩むようにうつむく。

 彼の葛藤が見える。きっと話せないことがあって、それでも私を傷つけようとしたすみれの行為を申し訳なく思っている。彼の目的が、私にはやはりわからない。

「もう、よろしいですか? 岩山さんが何を考えておられるかは存じませんが、奥さまを大切になさってください」

 失礼します、と立ち去ろうとすると、彼はあわてて私を引き止める。

「嘘をつきましたっ。綾城さんに俺、嘘をつきました」
「そうですか」

 そんなのわかっている、という表情をしただろうか。颯太は肩の力を抜いた。

「……そっか。冷静なんだな。わかってましたよね。綾城さんを好きだなんて嘘ついて、婚約解消を求めたこと」
「演技は、お上手ではないですよね。嘘がつけない方と言いますか」

 くすりと笑うと、颯太も前髪をくしゃりとつかんで苦笑した。

「全然ダメだな、俺」
「岩山さんの態度がどうであれ、婚約解消は無理なんですよ」
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