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ひたひたと迫る厄災

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 名前に込められた祈りを、私たちに知らしめたいような強さを含む声音に気圧されたのだ。

 名前を尋ねただけだ。それ以外に、すみれの機嫌を害すようなことはしてない。出産後でまだ精神的に不安定なところがあるのかもしれないと察した天音は、颯太に向かって、ふんわりと言う。

「良い名前をつけられましたね」

 彼は、「ええ」と素っ気なくうなずく。すみれとは正反対なほど淡白だった。これまた驚いて、私たちは顔を見合わせた。

 妙な温度差のある夫婦だ。どちらかというと、颯太の方が熱く語る夫婦なのに。

「さあ、つゆり、そろそろ生徒さんがお見えになるから、用意を手伝って」

 微妙な空気感を感じ取った天音は、すぐさま腰をあげて、道具が人数分あるか確認し始める。

「それじゃあ、叶羽は俺が抱っこしてるよ」

 颯太がいつもの明るい調子で申し出る。さっきまでの重苦しい空気が一掃されて、安堵する。

「颯太くん、ごめんね」
「なんで謝るんだよ」

 おかしいな、って笑って、颯太はすみれから叶羽を受け取ると、慣れた手つきで抱っこした。

「岩山さん、お隣の部屋で待たれますか? 暖房つけてありますので」

 隣の部屋につながるふすまを開けて、尋ねる。

「そうさせてもらおうかな。お気遣いありがとうございます」
「いいえ」

 私に頭をさげた颯太は、振り返ってすみれに言う。

「じゃあ、すみれちゃん。終わったら、呼んで。叶羽が寝てるなら、最後までいていいから」
「ううん。少しだけで大丈夫。叶羽が心配だから」
「そうだな。様子がわかったら、帰ろう。……すみません、綾城さん」
「かまいませんよ。できる限り、ご要望にお応えしますので」

 そう話すうちに、玄関の方から生徒さんたちのあいさつが聞こえてくる。

 彼女たちが叶羽に気づいて、騒がしくするのは岩山夫妻の願うところではないだろう。そう判断すると、叶羽を抱く颯太を連れて、隣の部屋へと移動した。
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