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ひたひたと迫る厄災
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千隼さんの子を産みたい。だけど、その実現は、彼との永遠の別れを意味する。だったら、駆け落ちしてしまいたい。
そうしてふたり、助け合って、ささやかでいいから幸せな家庭を築いて、子を育んでいけたら、どんなにいいか。
しかし、それはただの願望で、現実味が少しもない。駆け落ちの提案は、あくまでも、なぐさめだ。千隼さんが苦労して築いてきた地位や人生を、どうして私のために捨ててくれなどと言えるだろうか。
私を好きじゃなくてもいい。昔のよしみで情がある。その情だけで私を抱いてくれる彼の優しさに満足しないといけない。
好き合ったらいけない、と彼は言った。私の気持ちに薄々気づいていて、牽制したのかもしれない。
この気持ちを公にしたら、その情を持って、駆け落ちを現実のものにしようとするだろうから……。実のところ、そうはなりたくないから、牽制した。そう考えてしまう。
キスはしても、私を好きとは言わない。身体を重ねていても、愛してるとは絶対に言わない。心の交わりを望まない彼が、その証拠だろう。
千隼さんはどう思ってるのだろう。はやく子を作って、こんな生活終わらせたいと思ってるだろうか。
彼を束縛したいのに、解放してあげたいなんて、矛盾した気持ちが、心の中に浮いては消えている。
彼の子を授かれたら、それだけで生きていけると思っていた、ほんの少し前の私は今、ずいぶんと貪欲になった。
そっとお腹をなでる。やっぱり、どんなに悩んでも、私が取るべき道は、千隼さんとの子を授かり、惣一郎さんと結婚する道だけなのだ。欲深になったら、きっと、バチがあたる。
「あら、つゆり、またお腹が痛いの?」
母の天音が心配そうに、縁側に腰を下ろす私のお腹をのぞき込む。
「いいえ、大丈夫です」
「そう? 今朝から、気づくとお腹に手を当ててるわよ」
そんなつもりはなかったけれど、無意識のうちに何度か触れていたのだろう。
「体の調子はとてもいいんです」
心配しないで、と笑んで答える。
「なら、いいけれど。そういえば、先日、離れに惣一郎さんがいらしてた?」
「え……、えぇ……」
天音が離れの様子を詮索してくるなんて、今までたったの一度もなかった。千隼さんとのことを、気づかれたのだろうか。下手な返事はできなくて、あいまいにうなずいてしまう。
「検査入院されてるお話も、あれきりでしょう? もうお元気になったの?」
「あまり、具合はよろしくないそうですけれど、以前よりも頻繁に会いに来てくれてます……」
惣一郎さんは今、入院してることになってるだろうか。つじつまが合っているのか半信半疑のまま、言う。
「そう……。親交を深めるのはいいことだけれど、いつも正門から訪ねて来られる惣一郎さんにしては珍しいですよね。何か焦っておいでではないかと、心配してしまいますよ」
千隼さんの子を産みたい。だけど、その実現は、彼との永遠の別れを意味する。だったら、駆け落ちしてしまいたい。
そうしてふたり、助け合って、ささやかでいいから幸せな家庭を築いて、子を育んでいけたら、どんなにいいか。
しかし、それはただの願望で、現実味が少しもない。駆け落ちの提案は、あくまでも、なぐさめだ。千隼さんが苦労して築いてきた地位や人生を、どうして私のために捨ててくれなどと言えるだろうか。
私を好きじゃなくてもいい。昔のよしみで情がある。その情だけで私を抱いてくれる彼の優しさに満足しないといけない。
好き合ったらいけない、と彼は言った。私の気持ちに薄々気づいていて、牽制したのかもしれない。
この気持ちを公にしたら、その情を持って、駆け落ちを現実のものにしようとするだろうから……。実のところ、そうはなりたくないから、牽制した。そう考えてしまう。
キスはしても、私を好きとは言わない。身体を重ねていても、愛してるとは絶対に言わない。心の交わりを望まない彼が、その証拠だろう。
千隼さんはどう思ってるのだろう。はやく子を作って、こんな生活終わらせたいと思ってるだろうか。
彼を束縛したいのに、解放してあげたいなんて、矛盾した気持ちが、心の中に浮いては消えている。
彼の子を授かれたら、それだけで生きていけると思っていた、ほんの少し前の私は今、ずいぶんと貪欲になった。
そっとお腹をなでる。やっぱり、どんなに悩んでも、私が取るべき道は、千隼さんとの子を授かり、惣一郎さんと結婚する道だけなのだ。欲深になったら、きっと、バチがあたる。
「あら、つゆり、またお腹が痛いの?」
母の天音が心配そうに、縁側に腰を下ろす私のお腹をのぞき込む。
「いいえ、大丈夫です」
「そう? 今朝から、気づくとお腹に手を当ててるわよ」
そんなつもりはなかったけれど、無意識のうちに何度か触れていたのだろう。
「体の調子はとてもいいんです」
心配しないで、と笑んで答える。
「なら、いいけれど。そういえば、先日、離れに惣一郎さんがいらしてた?」
「え……、えぇ……」
天音が離れの様子を詮索してくるなんて、今までたったの一度もなかった。千隼さんとのことを、気づかれたのだろうか。下手な返事はできなくて、あいまいにうなずいてしまう。
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「あまり、具合はよろしくないそうですけれど、以前よりも頻繁に会いに来てくれてます……」
惣一郎さんは今、入院してることになってるだろうか。つじつまが合っているのか半信半疑のまま、言う。
「そう……。親交を深めるのはいいことだけれど、いつも正門から訪ねて来られる惣一郎さんにしては珍しいですよね。何か焦っておいでではないかと、心配してしまいますよ」
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