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寄り添う心に新たな出会い

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 母屋にあるリビングに入り、キッチンに向かう。ソファーに座る伊吹いぶきが、野菜ジュースを片手に、食器棚からお皿を取り出す私を視線で追ってくる。

「ちょっと寝坊しちゃったみたい」

 物言いたげな伊吹に、先手を打って話しかける。

 彼女は、妹の綾城伊吹。高校2年生になる。私はいつか、名家に嫁ぐのだからと厳しく育てられたけれど、彼女はどこにでもいる普通の高校生のように、自由を謳歌している。それこそ、起きる時間も、恋も。

「お姉ちゃんにしては珍しいね。あ、でもさ、昨日は大変だったんでしょ? 西園寺家って、うちと違って堅苦しそーだし」

 キッチンカウンターの前までやってきた伊吹は、野菜ジュースをチューッと飲むと、肩をすくめる。

「そうね。慣れない方との会食は、大変」
「会食だったんだー。たくさん車が出入りしてたから、何かトラブルでも起きたのかと思ってた」

 時々、伊吹は鋭い勘を働かせる。

「出入りしてた?」
「うん。昨日は部活なかったから、ずっと部屋にいたでしょー。窓から、道路が見えるから」
「あんまりのぞくようなことしたら、ダメよ」
「のぞいてないって。見えちゃうの」

 ペロッと舌を出す伊吹は、私の手元に視線を落とす。

「遅くまで会食だったのに、お腹すいてるの? すごい量だよ」

 母の用意した朝食の惣菜を、お皿に多めに盛り付けてるからか、目を丸くしている。

「あんまり食べられなくて。まだちょっと眠たいから、離れで食べるね」
「ほんと、お姉ちゃんにしては珍しいね。今からそんなんじゃ、結婚したら大変そうだね」
「大丈夫よ。なんとかするから」
「なんとかなるじゃなくて、するかー。私はできないな。お姉ちゃん、尊敬する」

 結婚なんてまだ先の先の未来だと思ってる伊吹は、私の動向に興味を失ったようで、ふたたびソファに戻る。

「夕方まで離れにいるわ」

 スマートフォンを見入る伊吹に声をかけると、「はーい」と、こちらを見ないままの彼女から、間伸びした返事がかえってくる。

 二人分の白米をおひつに入れ、惣菜の乗るお皿をお盆に乗せると、足早にリビングをあとにした。
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