嘘よりも真実よりも

水城ひさぎ

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手放したくない幸福

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 一人っ子だと言っていた総司さんに、兄弟がいるかどうか再確認して、どうしようと思ったのだろう。

 後継ぎでなければ、私をもっと知りたいと言ってくれた彼と、いつか結婚できるかもしれないなんて信じようとしたのだろうか。

 彼を好きになってしまったから、迷惑かけたくなくて、嘘をつく決意をした。この決断は正しいと思っていた。

 仁志さんはいつか真実を話せる日が来ると言ってくれたけれど、それはいつなのだろう。話したら、結局終わるんじゃないかと思うと言い出せない。

 言わないことは、嘘をつくのと同等で、私はずっと彼に嘘をつき続けて生きていくしかできない。

「あ、みちる、おはよう。テレビ、見てみろよ。結婚祝福の次は、粗探しだよ」
「テレビ?」

 リビングでコーヒーを飲みながら、清貴さんがテレビを指差す。

 視線を移すと、目に飛び込んできたのは、四乃森直己の顔写真だった。

『いやー、驚きましたね。隠し子がいるなんて、イメージにもない方ですよね、四乃森直己さんは』
『それがそうでもなかったりするんですよ。四乃森直己さんは、今や正統派名バイプレーヤーですが、若い頃はそうそうたる女優の方たちとうわさのある、お騒がせの方でしたから。今回、週刊誌に報じられましたのは、一般女性の方との間に生まれたお子さんがいらっしゃるということですが___』

「くだらないよな。30年も前の話を掘り返して。あっちもこっちもかき乱して、騒ぎたいだけみたいだ」

 清貴さんは肩をすくめると、テレビを消した。それ以上の情報はなく、ただ繰り返し繰り返し報道してるだけなのだろう。

「マスコミはまだみちるに気づいてないよ。誰かが隠し子がいるってリークしたんだろう。四乃森直己が結婚して、金になるって思ったんだろうな」
「時間の問題ですね……」

 母の万里が、同い年の四乃森直己と付き合い始めたのは、19歳の時だった。大学時代に、売れないモデルだった直己と出会い、交際していた。

 20歳で万里は両親を亡くし、その後、21歳の時に直己は代表作『つまらない夢』で好青年を演じ、ブレイク。モデルから俳優へと転身したが、それでもふたりは別れることなく交際を続けていた。

 しかし、直己が売れれば売れるほど、万里はマスコミに狙われた。富山家に匿われるようにして暮らしていたが、心身ともに疲弊した万里は、直己と次第に疎遠になり、23歳で未婚の母となった。

「この日がいつか来るとわかってて、四乃森直己はずっとみちるに会わずに生きてきたんだ。バレるようなへまはしてない」
「……本当に?」

 不安になる私を、清貴さんは険しい表情で見つめる。

「富山ビルの受付にいる椎名さん……」
「椎名?」
「彼女、私を見て驚いてたんです。なんであんな表情したんだろうって、気になって」
「椎名って、椎名さゆみの妹?」
「はい、そうです」

 仁志さんから聞かされた椎名さゆみの話は、清貴さんも全部承知なのだろう。

「四乃森直己と私が似てるって、気づいたんでしょうか。だから、マスコミに……」
「だからって、いきなり親子だとは思わないだろう。それは心配しすぎだ」
「じゃあ、誰がマスコミに」
「30年前のことを知るやつはいるだろう。四乃森直己を妬んでるやつだっているはずだ」

 それはそうかもしれない。
 四乃森直己は探れば探るほど、スキャンダルの出る俳優でもある。

「うわさの出どころを追うのは難しいかもしれないが、四乃森直己を取材する価値はありそうだな」
「取材?」

 清貴さんはうなずいて、にやりと笑う。

「六花社の週刊キャストで、とびきりのスクープを飯沼に書かせるさ」
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