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春を一番に愛してくれる人

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「……私?」

 どきりとする。私だって、隼人さんに会えた日は、別れた直後から会いたくなる。

「昨日さ、クリニックに枡枝さんが来たよ」

 隼人は私から目をそらし、そう言う。

「何をしに?」
「羽純をあきらめたって言ってたよ。守ってやらなきゃいけないはずだった羽純が、いつの間にか強くなってて、なんか可愛げがないなって思ったらしいよ」
「なんですか、それ」

 あきれると、彼も苦笑するが、すぐに真顔になる。

「でもさ、けじめのために来たんだと思う。会えてよかったよ。俺も決断する気になったから」
「決断って?」
「春くんの入園式、俺も行っていいかな?」
「それは全然。来てくれたら、春、喜ぶかも」
「父親として参加しても?」

 隼人はグッと顔を近づけて、私の目をのぞき込んでくる。そこに浮かんでるであろう動揺を見つけるみたいに。

「それって、どういう意味?」
「羽純と結婚したい。羽純は結婚しなくてもいいって言ったけど、それは俺が嫌だから」
「私だって、したくないわけじゃないけど……」

 ううん。むしろ、隼人とずっと一緒にいたいって願ってる。ただ欲深になったらいけないと思ってただけで。

「俺だってさ、春くんが嫌がるなら仕方ないって思ってる。俺が羽純から離れた罪のせいだから。でももし、春くんがいいって言うなら、すぐにでも一緒に暮らしたい」
「性急ですね」
「そうだよ。今の状況を変えたいから。羽純がもっとたくさん春くんと過ごせる時間を持てるように、うちのクリニックで働いてほしいとも思ってる。そこまで考えてるよ」
「そんなことまで?」

 彼なりに悩んでくれていたのだろう。驚く私に、彼は頭を左右に振って言う。

「ああ、違う。もっと考えてる。いつか、春くんには俺が本当の父親なんだって話すつもりでいるし、俺、ひとりっ子だからさ、たくさんの家族にあこがれてるから、羽純の気持ちが一番だけど、春くんに弟妹がいたらいいなって思うし、羽純には俺がいなくなったあともさみしくないように家族をたくさん残したいとも思ってる」

 一気に吐き出す思いは、全部彼の本当の気持ちだろう。うれしい気持ちばかりだけど、引っかかりを覚えてしまう。

「俺がいなくなるとか……言わないで」
「もちろん、羽純のために生きるよ、俺は」
「隼人さん……」

 手を伸ばす。彼のほおに触れて、ささやく。

「あなたのために、生きて」
「もちろん、そうだ」

 力強く言うから、ほっとする。手をつなぎ、ふたりでタイミングを合わせたかのように、春へと目を向ける。

 フラフープを地面に置いた春が両手を広げて駆けてくる。

「ぼくも」

 そう言って、私に抱きつきながら、隼人の手を握る。その小さな手が愛おしい。隼人もそう思ったのだろう。しっかりと手を握り返し、言う。

「ママと結婚したいんだけど、いいかな?」

 きょとんとしながら、春は私と隼人を交互に見つめる。結婚の意味がわかっているのかわからないけれど、その愛くるしい目に浮かんでくるのは、好奇心と期待のようなキラキラしたもの。

「パパ、なる?」

 春の言葉で隼人の顔はほころび、照れくさそうに私に抱きつく春ごと、柔らかく包み込んでくれる。

「なるよ」

 私たちはお互いに見つめ合い、ひたいを寄せ合い、笑い合う。新しい日々が、ここから始まるのだと感じながら。





【完】

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