30 / 119
寝室までの距離
10
しおりを挟む
*
玄関ドアを開いた途端、目に飛び込んできたのは、横向きに倒れて交差したベージュのパンプスだった。
沙耶の靴だ。今朝履いていったものだろう。まだ帰っていないのだとばかり思っていたが、先に帰宅していたようだ。
しかし、彼女らしくない。脱いだ靴はきちんとそろえる女性なのに。
俺はすぐにリビングへ向かった。明かりはついている。
「沙耶、帰ってるのか?」
明かりをつけたまま、俺に連絡もしないで先に寝てしまったのだろうか。寝ているのなら、寝室をノックして起こすのも気が引けた。
お風呂やトイレに人気がないのを確認して、ネクタイを緩めながらソファーへ向かう。そして、ため息を吐き出す。
「沙耶……」
コートも脱いでいない、帰ってきたままの格好で、ソファーに沙耶は横たえていた。手足を無防備に投げ出して、すっかり眠ってしまっているようだ。
「沙耶、風邪引くよ」
肩をそっと揺らすと、沙耶はハッとして目を開いた。驚いた顔で俺を見つめる。思ったより寝起きは良さそうだ。
「飲み過ぎたか?」
「湊くん……。私、寝てた?」
「みたいだな」
沙耶はパチパチとまばたきをして、目元を押さえる。
「コンタクト外さなきゃ……」
「風呂も入ってないだろう?」
「あ、私……、なんにも……」
コートを探って、沙耶はいきなり体を起こすと、何かを思い出したように洗面所へ走っていく。
「まだ寝ぼけてるのか?」
唐突な行動を取る彼女がおかしくて笑ってしまう。またどこかで急に眠ってしまうといけないと思い、後を追いかけた。
「シャワーだけ浴びるか?」
洗面所でコンタクトレンズを片付けている彼女の背中に声をかけると、沙耶は案の定眠くなったのか、めまいを覚えたようにうずくまった。
「沙耶、大丈夫か?」
後ろから両腕に手を添えると、沙耶はゆっくりうなずく。
「いつも飲むとこんな風か?」
また一つうなずく。曖昧な態度だ。適当にうなずいているのだろう。そう思った瞬間、沙耶は急に俺の首に抱きついてきた。
いきなりのことに驚いてよろめき、彼女の身体を支える手が滑る。しりもちをついた俺を押し倒す勢いで、沙耶はすがり付いてくる。
「湊くん……、ベッドに連れてって」
沙耶はそうつぶやいて、俺の胸に顔をうずめた。
玄関ドアを開いた途端、目に飛び込んできたのは、横向きに倒れて交差したベージュのパンプスだった。
沙耶の靴だ。今朝履いていったものだろう。まだ帰っていないのだとばかり思っていたが、先に帰宅していたようだ。
しかし、彼女らしくない。脱いだ靴はきちんとそろえる女性なのに。
俺はすぐにリビングへ向かった。明かりはついている。
「沙耶、帰ってるのか?」
明かりをつけたまま、俺に連絡もしないで先に寝てしまったのだろうか。寝ているのなら、寝室をノックして起こすのも気が引けた。
お風呂やトイレに人気がないのを確認して、ネクタイを緩めながらソファーへ向かう。そして、ため息を吐き出す。
「沙耶……」
コートも脱いでいない、帰ってきたままの格好で、ソファーに沙耶は横たえていた。手足を無防備に投げ出して、すっかり眠ってしまっているようだ。
「沙耶、風邪引くよ」
肩をそっと揺らすと、沙耶はハッとして目を開いた。驚いた顔で俺を見つめる。思ったより寝起きは良さそうだ。
「飲み過ぎたか?」
「湊くん……。私、寝てた?」
「みたいだな」
沙耶はパチパチとまばたきをして、目元を押さえる。
「コンタクト外さなきゃ……」
「風呂も入ってないだろう?」
「あ、私……、なんにも……」
コートを探って、沙耶はいきなり体を起こすと、何かを思い出したように洗面所へ走っていく。
「まだ寝ぼけてるのか?」
唐突な行動を取る彼女がおかしくて笑ってしまう。またどこかで急に眠ってしまうといけないと思い、後を追いかけた。
「シャワーだけ浴びるか?」
洗面所でコンタクトレンズを片付けている彼女の背中に声をかけると、沙耶は案の定眠くなったのか、めまいを覚えたようにうずくまった。
「沙耶、大丈夫か?」
後ろから両腕に手を添えると、沙耶はゆっくりうなずく。
「いつも飲むとこんな風か?」
また一つうなずく。曖昧な態度だ。適当にうなずいているのだろう。そう思った瞬間、沙耶は急に俺の首に抱きついてきた。
いきなりのことに驚いてよろめき、彼女の身体を支える手が滑る。しりもちをついた俺を押し倒す勢いで、沙耶はすがり付いてくる。
「湊くん……、ベッドに連れてって」
沙耶はそうつぶやいて、俺の胸に顔をうずめた。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる