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強欲な甘い過去
あの日の真相(2)
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「和希が戻ったら、レストランへ行こうか」
「はい。佑磨さんと外食するの、久しぶりですね。楽しみです」
にこっとほほえむと、一瞬だけ真顔を見せた佑磨さんの手が伸びてきて、ほおに触れた。
「佑磨さん?」
「なあ、つばさ。ジュエリーデザイナーにならないか?」
彼はいつだって唐突だ。
「え?」
「遥香さんに言った通りだ。エマのもとで勉強して、いずれ、自分のブランドを持つといい」
「でも……」
「海堂佑磨の妻という肩書きとの二足のわらじは大変だが、つばさの可能性もつぶしたくない。どうだろう。俺たちの結婚指輪は、つばさがデザインしないか?」
「わ、私が?」
びっくりして、声がひっくり返る。しかし、同時に胸もおどってる。
私たちの結婚指輪を、私がデザインしていいの? って。
「婚約指輪はつばさの好きなブランドで購入しようと思ってるんだけどね」
「……重ねづけすること考えたら、同じブランドがいいかなって思ってたけど、佑磨さんがそう言ってくれるなら……、やってみようかな」
「そうか」
ほっと安堵したように、彼は息をつく。私の負担になるんじゃないかって心配してたみたい。
「私も、わがまま言っていいですか?」
おずおずと切り出す。
「なんだ?」
「婚約指輪は、リトルグレイスで購入したいです。美梨さんのセンス、大好きなんです」
「ああ、いいよ。あの店の商品は質がいい。もっと評判になっていい店だが、店主が望まないのだろう」
「ひとりで切り盛りできるぐらいのお店がちょうどいいって言ってました」
「はっきりしてるな」
くすりと笑う彼を見ていたら、今なら聞けるかもと、ふと思い立って口を開く。
「佑磨さんは気づいてたんですか?」
「ん?」
「10年前に出会った女の子が、私だって気づいてましたか?」
真実を知ったとき、彼が驚いてるように見えなかったから、少々気になっていた。
「ああ、知っていた。最近だけどな」
「最近なの?」
「和希に探させていたんだ。花かんむりを編んでいた女の子が忘れられない。もう一度会いたいが、どこの誰だかわからないと」
「えっ!」
探してたの? って驚く私を、佑磨さんは目を細めて、愛おしげに見つめてくる。
「あれが、初恋だ。あんなにも田舎の田園風景が似合わない垢抜けた美少女に、これまで俺はなかなか出会えなかった」
手こずったけど、付き合ってもらえた。そう言っていたのは、私のことだったのだ。
佑磨さんの心にずっと、私がいた。それが、かわいらしくも淡い恋心だとしても、私の胸は高鳴った。
私だって、同じ。高校時代の佑磨さんにあこがれの気持ちがあった。初恋かもしれない。だって、あんなにきれいな顔立ちの男の子を私はほかに知らない。
「和希はつばさの着ていたセーラー服の特徴を頼りに長野の中学を調べていたが、見つかるわけなかったな。あれは東京の中学校のものだった」
「じゃあ、どうして私だって……」
「ずっとわからずに月日だけが過ぎた。あれは、試着会のひと月前だ。花里菊が亡くなり、長野を訪れた。そこで、葬儀にかわいらしい女の子が来ていたと、花里の親戚がうわさしていると聞いた。もしかしたらとよぎってね、和希が内偵していたんだ」
「内偵って、私を調べてたの?」
佑磨さんはどれほど私に黙って、さまざまなことをしているのだろう。彼の思慮深さと行動力には、素直に驚嘆する。
「調べは和希に任せていたから、正直俺は何も知らなかったよ。和希は、葬儀に来ていたのは花里真由の娘で、その娘があの日の美少女じゃないかと目星をつけた。その矢先、試着会でつばさが和希を指名したんだ」
「だから、あんな大変な撮影、協力してくれたんですね」
「10年前、長野に来ていたのか、和希は聞くつもりだったが、俺が邪魔して聞けなかったそうだ」
佑磨さんは苦笑する。
「じゃあ、私が花里真由の娘だって知ったのは……」
「ああ、つばさに試着会でひとめぼれした後だ。つまり……」
「つまり?」
彼は首をかしげる私のほおを両手で包み込むと、そっと顔を近づけてきてささやく。
「意図せず、何度出会っても、つばさに恋をするってことだ」
「はい。佑磨さんと外食するの、久しぶりですね。楽しみです」
にこっとほほえむと、一瞬だけ真顔を見せた佑磨さんの手が伸びてきて、ほおに触れた。
「佑磨さん?」
「なあ、つばさ。ジュエリーデザイナーにならないか?」
彼はいつだって唐突だ。
「え?」
「遥香さんに言った通りだ。エマのもとで勉強して、いずれ、自分のブランドを持つといい」
「でも……」
「海堂佑磨の妻という肩書きとの二足のわらじは大変だが、つばさの可能性もつぶしたくない。どうだろう。俺たちの結婚指輪は、つばさがデザインしないか?」
「わ、私が?」
びっくりして、声がひっくり返る。しかし、同時に胸もおどってる。
私たちの結婚指輪を、私がデザインしていいの? って。
「婚約指輪はつばさの好きなブランドで購入しようと思ってるんだけどね」
「……重ねづけすること考えたら、同じブランドがいいかなって思ってたけど、佑磨さんがそう言ってくれるなら……、やってみようかな」
「そうか」
ほっと安堵したように、彼は息をつく。私の負担になるんじゃないかって心配してたみたい。
「私も、わがまま言っていいですか?」
おずおずと切り出す。
「なんだ?」
「婚約指輪は、リトルグレイスで購入したいです。美梨さんのセンス、大好きなんです」
「ああ、いいよ。あの店の商品は質がいい。もっと評判になっていい店だが、店主が望まないのだろう」
「ひとりで切り盛りできるぐらいのお店がちょうどいいって言ってました」
「はっきりしてるな」
くすりと笑う彼を見ていたら、今なら聞けるかもと、ふと思い立って口を開く。
「佑磨さんは気づいてたんですか?」
「ん?」
「10年前に出会った女の子が、私だって気づいてましたか?」
真実を知ったとき、彼が驚いてるように見えなかったから、少々気になっていた。
「ああ、知っていた。最近だけどな」
「最近なの?」
「和希に探させていたんだ。花かんむりを編んでいた女の子が忘れられない。もう一度会いたいが、どこの誰だかわからないと」
「えっ!」
探してたの? って驚く私を、佑磨さんは目を細めて、愛おしげに見つめてくる。
「あれが、初恋だ。あんなにも田舎の田園風景が似合わない垢抜けた美少女に、これまで俺はなかなか出会えなかった」
手こずったけど、付き合ってもらえた。そう言っていたのは、私のことだったのだ。
佑磨さんの心にずっと、私がいた。それが、かわいらしくも淡い恋心だとしても、私の胸は高鳴った。
私だって、同じ。高校時代の佑磨さんにあこがれの気持ちがあった。初恋かもしれない。だって、あんなにきれいな顔立ちの男の子を私はほかに知らない。
「和希はつばさの着ていたセーラー服の特徴を頼りに長野の中学を調べていたが、見つかるわけなかったな。あれは東京の中学校のものだった」
「じゃあ、どうして私だって……」
「ずっとわからずに月日だけが過ぎた。あれは、試着会のひと月前だ。花里菊が亡くなり、長野を訪れた。そこで、葬儀にかわいらしい女の子が来ていたと、花里の親戚がうわさしていると聞いた。もしかしたらとよぎってね、和希が内偵していたんだ」
「内偵って、私を調べてたの?」
佑磨さんはどれほど私に黙って、さまざまなことをしているのだろう。彼の思慮深さと行動力には、素直に驚嘆する。
「調べは和希に任せていたから、正直俺は何も知らなかったよ。和希は、葬儀に来ていたのは花里真由の娘で、その娘があの日の美少女じゃないかと目星をつけた。その矢先、試着会でつばさが和希を指名したんだ」
「だから、あんな大変な撮影、協力してくれたんですね」
「10年前、長野に来ていたのか、和希は聞くつもりだったが、俺が邪魔して聞けなかったそうだ」
佑磨さんは苦笑する。
「じゃあ、私が花里真由の娘だって知ったのは……」
「ああ、つばさに試着会でひとめぼれした後だ。つまり……」
「つまり?」
彼は首をかしげる私のほおを両手で包み込むと、そっと顔を近づけてきてささやく。
「意図せず、何度出会っても、つばさに恋をするってことだ」
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