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強欲な甘い初夜
花里家にて(1) ※佑磨side
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「出ないか……」
電話の切れたスマートフォンをポケットに戻し、コーヒーカップを持ち上げる。
急な予定変更は、つばさにいらない疑心を抱かせるんじゃないかと不安だったが、的中したようだ。
結婚した途端に、仕事を理由に会わないでいたのを、ないがしろにされてると思われても仕方がなかった。きっと今回も、同じだ。
違うんだと抱きしめて、早く誤解をすべて解いてやりたい。しかし、そのためには、あと一泊するという選択肢を取るしかなかったのだ。
長野空港近くのカフェは、家族連れや若い女性客でにぎわっている。近くにある美術館へ出かけた客が立ち寄るそうだ。
「どうしました?」
親父との電話を終えた和希は、カフェの中へやってくると、浮かない顔をしてるだろう俺にそう尋ねてきた。
「いや。親父はなんだって?」
「休日返上覚悟なら好きにしろ、だそうですよ」
「それだけか?」
「花里さんがよく会ってくれる気になったものだと驚いてました。これも、つばささんとの結婚のおかげかと」
「交流はないと聞いてるけどな」
つばさはあまり話したがらないが、花里家とは疎遠だと言っていた。花里成一が、つばさの結婚に思い入れを持つとは思えない。
俺も大した期待はせずに花里家へ電話をかけたのだが、成一はあっさりと、会うことを了承した。むしろ、連絡が来るだろうと予期していたかのような対応だった。
会う日は、三日後だ。出張が一日延びたことで、金曜日に取ろうと思っていた有給休暇が返上になってしまう。せっかく、つばさとのんびり過ごせる週末になると思っていたのに。
「つばささんにとって良いお話が聞けるといいですね」
「まあ、そうだな。これ以上、すれ違うのは困る」
「すれ違いばかりのようですからね」
結婚してまですれ違うのかと、和希はおかしそうに笑い、伝票を持ち上げた。コーヒーの一杯でも飲んでいけばいいのに、あいかわらず、仕事熱心な男だ。
「本日はどういった御用でしょうか? 例の土地は海堂リゾートさんに売却したと、姉から連絡をもらいましたが」
花里成一は穏やかな風貌の男だった。
畑仕事を終えたばかりだという彼は、紺のシャツとベージュのチノパンというラフな格好で、俺の前に現れた。
花里家の住人は皆、がんこ者だと聞いていたが、想像していたよりも気さくな男で、正直、拍子抜けするほどだった。
「年明けには建設工事に着手します。お知らせしておかなければと思いまして、こうしてお伺いいたしました」
「それはご丁寧に、どうも。ほかには、何か?」
あらかじめ用意しておいた来訪目的を告げた俺に興味がないようだ。そんなことは知ってるとでもいいたげに、俺をうながす。
この村で起きる変化は、すぐに彼の耳に入るようになっているのかもしれない。
「すでにご存知かもしれませんが、西川つばささんと結婚しました。結婚式は来年の春を予定しています。改めて、招待状をお送りしますので、どうぞよろしくお願いします」
物腰は柔らかだが、どこか、突き放すような話し方をする成一の気持ちを和らげようと、そう申し出た。
「ああ、姪の。そうですか。海堂さんとご結婚を。おめでとうございます」
ほんの少し、表情がやわらぐ。
海堂リゾートの海堂には会いたくないが、親戚となる海堂には会ってもいいと思ってくれたのだろうと感じられた。
「ありがとうございます。こちらにはあまり来たことがないというので、近いうちに二人そろってご挨拶にうかがいたいと思っています」
「そうですね。祖父が亡くなったときに近くまで来てくれていたそうですが、会わずじまいでした。祖母のお葬式には来てくれましたよ。花里がした仕打ちを思えば、私どもには会いたくないでしょうし、お気遣いなく」
「仕打ち……ですか」
つぶやくと、成一は苦笑いして、枯山水が見事な庭へと目を移す。
「祖父……、私の父ですがね、とてもがんこでして。お恥ずかしい限りです。姉が西川さんに惹かれているのは、誰が見ても明白でした。許していれば、このような面倒はさけられたと思っていますよ」
「つばささんのご両親は、結婚を反対されて、長野を出るしかなかったのでしょうか?」
つばさにとって、長野という土地はどんな存在だろうと、思いをめぐらす。やはり、両親を追い出した花里が住む村でしかないだろうか。
「出ないか……」
電話の切れたスマートフォンをポケットに戻し、コーヒーカップを持ち上げる。
急な予定変更は、つばさにいらない疑心を抱かせるんじゃないかと不安だったが、的中したようだ。
結婚した途端に、仕事を理由に会わないでいたのを、ないがしろにされてると思われても仕方がなかった。きっと今回も、同じだ。
違うんだと抱きしめて、早く誤解をすべて解いてやりたい。しかし、そのためには、あと一泊するという選択肢を取るしかなかったのだ。
長野空港近くのカフェは、家族連れや若い女性客でにぎわっている。近くにある美術館へ出かけた客が立ち寄るそうだ。
「どうしました?」
親父との電話を終えた和希は、カフェの中へやってくると、浮かない顔をしてるだろう俺にそう尋ねてきた。
「いや。親父はなんだって?」
「休日返上覚悟なら好きにしろ、だそうですよ」
「それだけか?」
「花里さんがよく会ってくれる気になったものだと驚いてました。これも、つばささんとの結婚のおかげかと」
「交流はないと聞いてるけどな」
つばさはあまり話したがらないが、花里家とは疎遠だと言っていた。花里成一が、つばさの結婚に思い入れを持つとは思えない。
俺も大した期待はせずに花里家へ電話をかけたのだが、成一はあっさりと、会うことを了承した。むしろ、連絡が来るだろうと予期していたかのような対応だった。
会う日は、三日後だ。出張が一日延びたことで、金曜日に取ろうと思っていた有給休暇が返上になってしまう。せっかく、つばさとのんびり過ごせる週末になると思っていたのに。
「つばささんにとって良いお話が聞けるといいですね」
「まあ、そうだな。これ以上、すれ違うのは困る」
「すれ違いばかりのようですからね」
結婚してまですれ違うのかと、和希はおかしそうに笑い、伝票を持ち上げた。コーヒーの一杯でも飲んでいけばいいのに、あいかわらず、仕事熱心な男だ。
「本日はどういった御用でしょうか? 例の土地は海堂リゾートさんに売却したと、姉から連絡をもらいましたが」
花里成一は穏やかな風貌の男だった。
畑仕事を終えたばかりだという彼は、紺のシャツとベージュのチノパンというラフな格好で、俺の前に現れた。
花里家の住人は皆、がんこ者だと聞いていたが、想像していたよりも気さくな男で、正直、拍子抜けするほどだった。
「年明けには建設工事に着手します。お知らせしておかなければと思いまして、こうしてお伺いいたしました」
「それはご丁寧に、どうも。ほかには、何か?」
あらかじめ用意しておいた来訪目的を告げた俺に興味がないようだ。そんなことは知ってるとでもいいたげに、俺をうながす。
この村で起きる変化は、すぐに彼の耳に入るようになっているのかもしれない。
「すでにご存知かもしれませんが、西川つばささんと結婚しました。結婚式は来年の春を予定しています。改めて、招待状をお送りしますので、どうぞよろしくお願いします」
物腰は柔らかだが、どこか、突き放すような話し方をする成一の気持ちを和らげようと、そう申し出た。
「ああ、姪の。そうですか。海堂さんとご結婚を。おめでとうございます」
ほんの少し、表情がやわらぐ。
海堂リゾートの海堂には会いたくないが、親戚となる海堂には会ってもいいと思ってくれたのだろうと感じられた。
「ありがとうございます。こちらにはあまり来たことがないというので、近いうちに二人そろってご挨拶にうかがいたいと思っています」
「そうですね。祖父が亡くなったときに近くまで来てくれていたそうですが、会わずじまいでした。祖母のお葬式には来てくれましたよ。花里がした仕打ちを思えば、私どもには会いたくないでしょうし、お気遣いなく」
「仕打ち……ですか」
つぶやくと、成一は苦笑いして、枯山水が見事な庭へと目を移す。
「祖父……、私の父ですがね、とてもがんこでして。お恥ずかしい限りです。姉が西川さんに惹かれているのは、誰が見ても明白でした。許していれば、このような面倒はさけられたと思っていますよ」
「つばささんのご両親は、結婚を反対されて、長野を出るしかなかったのでしょうか?」
つばさにとって、長野という土地はどんな存在だろうと、思いをめぐらす。やはり、両親を追い出した花里が住む村でしかないだろうか。
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