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結婚したけど、別居します!

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 夏木立を抜けた先にある神社の本殿は、結婚式を控えて浮き足立つ私を落ち着かせる荘厳さと、学生の身で結婚する不安を消し去ってくれる慈愛に満ちた空気に包まれていた。

 白無垢を身にまとい、紋付袴姿の彼と対面したとき、ようやく、ずっとずっと思い焦がれていた一ノ瀬貴彦いちのせたかひこさんと結婚するんだという実感が湧いた。

 差し向けられる赤い和傘の下、まぶたを伏せて本殿へと進み入る。雅楽の演奏でますます気持ちをたかぶらせる私を、貴彦さんは涼やかなまなざしで見つめている。

 彼となら幸せな結婚生活が築けるだろう。そう確信して、お神酒を飲み交わし、結婚指輪をはめた指で玉串を奉納した初夜に、まさか何も起きないなんて、誰が想像できただろう。

 無事に結婚式を終え、新居となる屋敷へ帰ってきたのは、夜の8時。疲れてはいたけれど、気持ちは高揚していた。キングサイズの真新しいベッドに横になっていると、遅れて貴彦さんはやってきた。

 男の人と過ごす夜は初めてで、高鳴る胸の音に気づかれないように息をひそめていると、彼は私のとなりへ体を横たえ、「疲れただろう」と、気遣うようなひとりごとを言ったまま、すぐに寝入ってしまった。

 貴彦さんは7歳年上の28歳。まだ大学生の私なんて子どもに見えるだろう、とても落ち着いた大人の男の人。

 久宝くぼう製薬会社の一人娘である、私こと久宝美奈子みなこの結婚の申し出を、彼が受けてくれたときには本当に驚いた。これは契約結婚ともいうべき形だけれど、彼が断ることは容易だったから。

 結婚相手として私に会ってほしいと、あくまでもお願いベースでお見合いしたその日に、結婚してもかまわないと返事をくれるなんて思ってもなかったのだ。

 それから、結婚にまつわるすべてのことが、とんとん拍子で決まっていった。人前でのキスは恥ずかしいという私に、神前式での挙式を勧めてくれた彼の段取りで、大学最後の夏休みに挙式と新婚旅行を計画した。その新婚旅行は来週に控えている。

 そうよ。今日はちょっと疲れてるだけ。旅行までお楽しみは取っておいてくれてるんだわ。あまたの女の人とうわさのある彼に、性欲がないわけがないんだもの。

 私はそう自分をなぐさめると、彼に背を向けて目を閉じた。
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