58 / 75
10年後の約束
6
しおりを挟む
おずおずと言うが、前山は神妙な様子を崩さない。
「本田さんは佐伯基哉さんの恋人に心あたりがあって、何か不審に思われてる?」
「……調べてもらえますか? シオンの前には防犯カメラがありますよね?」
思い切って、光莉は願い出る。
「残念ですが、防犯カメラの保存期間は30日間です。夏頃となると、すでに二ヶ月以上経っていますから」
「それじゃあ、残ってないですよね。やっぱり、基哉さんに直接確かめるしか……」
「今日はそれを確かめに、シオンへ行かれた?」
「……実は。でも、聞けなくて、わかりませんでした」
「わかりました。調べてみます」
「本当ですか?」
光莉がパッと顔をあげると、前山は力強くうなずく。
「任せてください。ですから、本田さんはあまり無茶はされませんように」
「無茶したつもりはないんですけど」
肩をすくめると、前山はおかしそうに目尻を下げる。
「やはり、これから世界に羽ばたくフォトグラファーとなると、非凡な好奇心がおありのようですね」
いきなりそう言われると、照れくさいような気分になる。
「それは言い過ぎです」
「いずれ、そうなられますよ。本田さんのお人柄や仕事ぶりは調べさせてもらいましたから。ええ、そう。夕暮れの作品は素晴らしかったです。悲哀のあるオレンジの光が、なぜか希望の光にも見える海辺の景色。陰と陽の混ざり合う不可思議な感覚に陥る……あの作品は圧巻です」
思いもよらない感想に、光莉は目を丸くする。同時に、とある作品が思い浮かぶ。
「きっと、カリフォルニアで撮影した夕暮れだと思います」
「そうですか。普段はアメリカでの撮影が多いようですね。今回の事件が解決されるまでは日本に滞在して、お仕事を控えていると聞きましたが?」
「……そうですね。なかなか写真を撮る気持ちになれなくて。ああ、そうです。前山さん、この辺りで夜景が綺麗なスポットはありますか?」
思い立って、光莉は尋ねた。警察官である前山なら、端山の地理に詳しいだろうと思ったのだ。
「この辺りですか?」
「はい。新しいカメラを手にしたら、ふらっと出かけて撮りたくなるんです。歩いていける距離にそういう場所はないかと」
「そうですねぇ。つかさ公園なんてどうでしょうか? 地元の人しか知らないような小さな公園なんですが、市街地の灯りが届かない高台にあって、端山の街が見下ろせます。本田さんの腕なら、絶景スポットになるかもしれません」
思った通り、前山はすぐに光莉の求めるスポットを提案してくれる。
「つかさ公園ですね。ありがとうございます。行ってみます」
笑顔を見せると、彼女も同様に目を細めて笑む。
「これからの季節の夜景は特に綺麗でしょう。行かれるときは、月島さんとぜひ」
そう言って、立ち去ろうとする前山を光莉は呼び止める。
「もう一つだけ。拓海なんですが、カメラの盗難届を出してませんか?」
「いえ。そんな話はありませんが、何か?」
けげんそうにするから、すぐさま首を横に振る。
「ないなら大丈夫です。私の勘違いだと思います」
「本田さんは佐伯基哉さんの恋人に心あたりがあって、何か不審に思われてる?」
「……調べてもらえますか? シオンの前には防犯カメラがありますよね?」
思い切って、光莉は願い出る。
「残念ですが、防犯カメラの保存期間は30日間です。夏頃となると、すでに二ヶ月以上経っていますから」
「それじゃあ、残ってないですよね。やっぱり、基哉さんに直接確かめるしか……」
「今日はそれを確かめに、シオンへ行かれた?」
「……実は。でも、聞けなくて、わかりませんでした」
「わかりました。調べてみます」
「本当ですか?」
光莉がパッと顔をあげると、前山は力強くうなずく。
「任せてください。ですから、本田さんはあまり無茶はされませんように」
「無茶したつもりはないんですけど」
肩をすくめると、前山はおかしそうに目尻を下げる。
「やはり、これから世界に羽ばたくフォトグラファーとなると、非凡な好奇心がおありのようですね」
いきなりそう言われると、照れくさいような気分になる。
「それは言い過ぎです」
「いずれ、そうなられますよ。本田さんのお人柄や仕事ぶりは調べさせてもらいましたから。ええ、そう。夕暮れの作品は素晴らしかったです。悲哀のあるオレンジの光が、なぜか希望の光にも見える海辺の景色。陰と陽の混ざり合う不可思議な感覚に陥る……あの作品は圧巻です」
思いもよらない感想に、光莉は目を丸くする。同時に、とある作品が思い浮かぶ。
「きっと、カリフォルニアで撮影した夕暮れだと思います」
「そうですか。普段はアメリカでの撮影が多いようですね。今回の事件が解決されるまでは日本に滞在して、お仕事を控えていると聞きましたが?」
「……そうですね。なかなか写真を撮る気持ちになれなくて。ああ、そうです。前山さん、この辺りで夜景が綺麗なスポットはありますか?」
思い立って、光莉は尋ねた。警察官である前山なら、端山の地理に詳しいだろうと思ったのだ。
「この辺りですか?」
「はい。新しいカメラを手にしたら、ふらっと出かけて撮りたくなるんです。歩いていける距離にそういう場所はないかと」
「そうですねぇ。つかさ公園なんてどうでしょうか? 地元の人しか知らないような小さな公園なんですが、市街地の灯りが届かない高台にあって、端山の街が見下ろせます。本田さんの腕なら、絶景スポットになるかもしれません」
思った通り、前山はすぐに光莉の求めるスポットを提案してくれる。
「つかさ公園ですね。ありがとうございます。行ってみます」
笑顔を見せると、彼女も同様に目を細めて笑む。
「これからの季節の夜景は特に綺麗でしょう。行かれるときは、月島さんとぜひ」
そう言って、立ち去ろうとする前山を光莉は呼び止める。
「もう一つだけ。拓海なんですが、カメラの盗難届を出してませんか?」
「いえ。そんな話はありませんが、何か?」
けげんそうにするから、すぐさま首を横に振る。
「ないなら大丈夫です。私の勘違いだと思います」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
旦那様、離婚してくださいませ!
ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。
まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。
離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。
今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。
夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。
それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。
お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに……
なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる