上 下
28 / 75
君を守りたくて

9

しおりを挟む
「警視庁の刑事さん?」

 拓海はけげんそうに若村という刑事をしげしげと眺めた。しかし、招かれざる客の扱いを受けるのは慣れているのだろう、男はまったく表情を変えないまま、こちらへ顔を向けた。光莉より年上に見えるが、若い男だ。

 形式的に頭を下げられ、光莉はドアをすり抜けて拓海の背中に歩み寄る。

「本田光莉さんですね? 本田陽介さんからこちらにいらっしゃるとうかがいました」
「……そうですけど、私に、何か?」

 拓海ではなくて、最初から光莉を訪ねてきたようだ。

「少しお尋ねしたいことがありまして。お時間よろしいですか?」
「理乃のことで?」
「ええ。松村理乃さんに関して、いくつか」

 若村は穏やかな笑みを浮かべてうなずく。そうやって、相手が気を許すのを待っているような笑みだ。好意的なようで、そうではない。どういうわけか、警戒心が高まる。

 光莉は拓海のシャツを無意識につかんでいた。彼もそれに気づいて、安心させるように背中に手を回してくる。

「俺も、話聞いていいですか?」
「かまいません。あなたは月島拓海さんですね。確認ですが、本田さんとは高校時代からのお付き合い?」
「そうですよ」
「はっきりと覚えていらっしゃる?」

 妙な言い方をするものだ。拓海もそう思ったのだろう。眉をひそめ、不快感をにじませる声音で言う。

「記憶喪失なんだから、覚えてるわけないって言いたそうですね。それなのに、光莉をここに住まわせてるのは何か意味があるんじゃないかって疑ってるんですか?」
「まあまあ、そう不機嫌にならないでくださいよ。あくまでも、確認です」

 若村はうっすらと笑みを浮かべて彼をなだめるが、どこか挑発的に見えるのは彼の性分だろうか。

「記憶喪失って言っても、覚えてることもあるんです」

 ぶっきらぼうに拓海はそう答える。

「それじゃあ、本田さんのことは覚えていらした? 高校時代のことは覚えていないと聞いていますが」
「そうですよ。俺だって全部忘れたって思ってたから驚いてるんです。……っていうか、その話、誰に聞いたんですか?」
前山まえやまっ」

 若村はいきなり振り返ると、ドアの後ろへ向かって誰かを呼びつける。

 現れたのは、白シャツと黒のスラックスの女の人だった。キリリとしたまなざしの、人を寄せ付けない雰囲気を持つ女の人だが、彼女を見るなり、拓海がすっとんきょうな声をあげた。

「端山署の前山さん?」
「元気そうですね、月島さん。あれから、特にお変わりなく?」

 前山は微笑する。彼女も警察官のようだ。

「拓海、お知り合い?」

 驚いて尋ねると、拓海は気を許した笑顔でうなずく。

「俺が川に落ちたときにお世話になったんだ」
「お世話にって?」
「俺、酒に酔って川に落ちただろ? 一応、事件性がないか調べてくれてさ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。

藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。 集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。 器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。 転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。 〜main cast〜 ・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26 ・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26 ・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26 ・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26 ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...