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君を守りたくて

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「親父さんから何か連絡あった?」

 カメラレンズにホコリを取るためのブロアーをかけながら、もはや日課となっている質問を、拓海は光莉に投げかけた。

 ここ何日か拓海と一緒に暮らしているが、彼は時折、カメラをぶら下げて、ふらっと出かける。撮影した写真には興味がないのか、はたまた、プロのカメラマンである光莉に見せられる写真はないと謙遜しているのか、何を撮ってきたのかは教えてくれない。

 ほかに出かけると言えば、バーのシオンぐらいだろうか。店長の基哉とは親しくしていたが、それでも、光莉を初めてシオンに連れていった時ほどの盛り上がりはなく、たわいない酒の話をして帰宅するのが常だ。

 来月から仕事復帰すると言っていたが、光莉の知る範囲では、同僚と連絡を取り合っている様子はない。

 こうして光莉と過ごす時間が、案外、彼にとって一番の息抜きになっているのではないかと思うほどの単調な生活をしている。必然と、話題が理乃に集中するのは仕方ないだろう。

「理乃に間違いないって、連絡あったきりだよ」

 父の話によれば、DNA鑑定の結果、東京湾で見つかったキャリーバッグに入った遺体は、松村理乃に間違いないとのことだった。

 何も心配しなくていい。ロサンゼルスに戻って母と一緒にいるように、と父には言われたが、すぐに帰る気になれなくて、光莉は拓海の好意に甘えて日本にとどまっている。

「捜査、どうなってるんだろうな。俺たちが知ってるのは、赤村って恋人がいたことだけだからな。どうしても疑っちゃうよな」
「やっぱり、赤村さんが関わってるのかな……」

 拓海はまだ、赤村を疑っているようだ。状況を考えれば、一番に疑われるのは赤村だろうと、光莉も思う。理乃との別れや、彼女が行った妻への嫌がらせは動機になるだろう。そして何より、赤村は激昂しやすい人物に見えた。

「可能性は高いよな。赤村の奥さんも松村を恨んでるみたいだけどさ、光莉を松村と勘違いしたってことは、松村の顔すら知らないってことだろ?」
「そうだよね。赤村さんの奥さんは違うと思う」

 もし、彼女が理乃を殺した犯人なら、アパートには来ないだろうし、光莉に手をあげた理由がわからなくなる。

「メールの件は親父さんに話した?」
「うん。警察に伝えてくれるって。あと、退職の電話の件も」
「それにしても、松村さ、なんで退社するって言い出したんだろうな? 丸山商事って一流企業だろ? それを辞めるなんてもったいないよな」

 いくら、上司と不倫していたからって、日本を代表する大企業を退社するメリットがないと、拓海は考えているようだ。だから、はなから退職の意思を告げる電話なんてなくて、赤村が嘘をついてると思ってる。

 しかし、光莉はどうしても赤村が嘘をついてるとは思えない。その差異が生まれているのは、まだ拓海に話してないことがあるからだ。

 光莉は思い悩む。拓海に話そうか。あのことを。

「ん? 光莉、どうした?」

 光莉の浮かない表情に気づいて、拓海が首をかしげる。そんな罪のない表情を見たら、ひるんでしまう。
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