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34話 到着
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「いやーなかなかいいとこなんじゃない?活気があってさ」
真っ昼間から働きもせず武器を携帯した男女が行き交う往来、学生による政治批判劇にまばらの観客。活気ある客引きに、無駄に豪華な噴水。うん。自由そうで、なかなか悪くない。
ロザロザちゃんが楽しく市井を眺めていたそんなとき。
「ローザローザ。あなたあんなつまらない男の住居など聞いてどうするの」
ビオンデッタが苛立たしげに言った。あれ、ロザロザちゃんが御者君の店の場所を聞いてたの、見てたんだ。
まあこの子はお兄ちゃんと一緒の時以外いつも切れてるんだけどね。
「別に何でもいいジャーン。袖触れ合うも他生の縁なんてね」
うーん。ナナヤの巫女達は全員、基本的にお兄ちゃん以外の男が嫌いだからなぁ。けどま、ロザロザちゃんの場合はあんな感じの普通の男の子が知り合いにいた方がいいんだよね。
それはロザロザちゃんのユニークスキル『毒会話』が、事前準備を物を言うからだ。なるべく友達を増やして、国中全員がロザロザちゃんの毒を飲んだことがあるようになってようやく、真価を発揮するのがロザロザちゃんのスキルなのだ!
ま、命を助けてあげたんだし、彼にはせいぜいいっぱい働いて貰おうっと。
「……あんな男が役に立つことなんてないと思うけど。ま、もう済んだことね。これから私はとにかく街の情報を集めて回るけど、ローザローザは?」
ビオンデッタちゃんは首を傾け、もう既に仕事を始めていた。初めてこんなにいっぱい人間がいるところに来たっていうのに勿体ないなぁと思うけど、確かに情報収集のついでに観光すりゃいっか。
「何するのって、当然ビオンデッタちゃんと一緒に情報集めするよ!」
一緒に来たのだからそりゃそのつもりだった。だからそういったんだけど、
「貴方が役に立つところ、ある?」
なんて、彼女は心底不思議だというように聞いた。
カッチーン。なんて失礼なこと言うんだ!こいつ!
ビオンデッタちゃんは基本的に無駄が嫌い。そして非効率が嫌い。お兄ちゃんは「キャリアウーマンみたいだよな」って言ってたけど、絶対ちきゅうってとこにはこんな奴いなかったと思う。
だってこの子、リポップした方が時間対効率いいって言って、遠出から帰るとき木にぶつかって自殺するような奴なんだもん。お兄ちゃんの前世にもそんな奴絶対いないっしょ!
「でも、ロザロザちゃんはビオンデッタちゃんのお目付け役だから、一緒にいるんだよっ!」
けれど怒りを押し殺して、ロザロザちゃんは彼女にしがみついた。
ロザロザちゃんはそんなつよつよ個性持ちの彼女も好きだったからだ。というかナナヤの巫女は全員好きなんだよねぇ。気心も知れているし、何より素直で、歪んでて、観察する分には世界一面白いと思う。
きっとお兄ちゃんと出会ってなくても、ロザロザちゃんはナナヤの巫女の一員に志願していたと思うくらい、このダンジョンの皆は面白いのだ。
しかし、ビオンデッタはそんなロザロザちゃんの愛情に気づきもせずに、しがみついたロザロザちゃんを汚いものを見るような目で見て言った。
「貴方。ウィト様があんなに苦しんでおられるのに正気?」
ビオンデッタが訝しむような口調で言った。この場合の「正気?」、というのは「お目付けなんて非効率すぎる仕事をするくらいなら、お兄ちゃんのために少しでも日銭を稼いでこいよ」という意味だ。
効率的すぎて言葉も思いやりも足りてないよ!
実際に効率重視で、ゆとりを持たずあちこちに本気で毒を撒きまくってもいいんだけど、大体そんなことをしても碌なことにならないことをロザロザちゃんは知っている。こちらがなりふり構わなければ、相手もなりふり構わなくなるものだ。
大体潜伏させた毒を一斉に発動させる能力なんて好き放題使ったら、危険度が高すぎて他国からも強力なハンターが送られてくるに決まってる。
だからこそ、ゆったり、じっくりと、毒のように蝕む動きが侵入捜査には求められる。ま、慌てん坊のビオンデッタちゃんはそんなこと全く理解を示さないけど。
だけど、そんな彼女を嗜めるのが、監視役であるロザロザちゃんの役目なのだ!
「だいじょーぶだってぇ!お兄ちゃんはぜっったい私達が仲良くしてる方が喜ぶから」
そもそも、あんまりお兄ちゃんはナナヤ女神にやられたことを気にしてない節があるしね。
「…………チッ」
好きな人のために一直線の行動が不正解になってしまい、ビオンデッタちゃんが舌打ちする。世界がビオンデッタちゃんの脳内くらい単純だといいんだけどねぇ。
「アハハ。こわーい」
不機嫌になったビオンデッタが面白くて笑っちゃったんだけど、そうすると彼女は黙りこんでしまった。
基本的な彼女の本質はお兄ちゃんのために一生懸命働きたいという社会性バリバリなだけの女の子だから、お兄ちゃんの名前を出せばすぐに大人しくなるのだ。
ロザロザちゃんなんて無軌道すぎて知略組のマルガリータちゃんとかから避けられてるのに、もしかして今回はブレイン係しないとかな?
「……いいわ。私が、情報を集めながら貴方と遊んで、思い出話を作っておきましょう」
彼女はそういうと溜息をつき、目を閉じないながらも首を傾けて集中する素振りをした。
……お兄ちゃんいわく、虫の中には脚に鼓膜を複数個持つものが数多くいるらしい。その影響だろうか、ビオンデッタちゃんもGランクのクワイエットスウォームだったころに、スキル『広範聴覚』を獲得していた。
Gランクモンスターには感覚を強化するスキルを持つことが多い。へーゼル姉の生体感知とかサリュちゃんの五感強化とかね。それは弱い彼らが生き残るためのものだ。
けれど、今や全言語のリスニングができるビオンデッタちゃんが『広範聴覚』を用いると、諜報活動と超強力のスパイとしての活動を可能とする超高性能なスキルとなっていた。
その諜報能力に彼女のユニークスキルが合わされば、まさに最強スパイになれるというわけなんだけど……何故お兄ちゃんから離れたがらない彼女がこんな潜入捜査向きの能力を手にしたのかは分からない。
ということだからまぁ、たしかに彼女一人いればオシント……一般に公開されている情報を調べるだけなら十分だと思う。
けれど今回は、秘匿された情報を集める必要があるのだ。
「ってちょっと待てーい」
ということで、ロザロザちゃんは手を上げた。
「違うってば!なんでそんな仮面夫婦みたいなことしなきゃなんないのさ。ハンターズギルドってところにいけば、ダンジョンの情報とお金って欲しい二つが集まるんだって!」
……私達が今回二人でナディナレズレに来た理由は、ジャクリーンちゃんのダンジョン『ナディナレズレの巨塔』を攻略するためである。
そのためには、周辺に拠点を構え、全員で攻め込むための土台を作り出す必要がある。
…………『ナディナレズレの巨塔』の戦力はジャクリーンちゃん曰く凄まじいものらしい。
基本的には防衛に特化していて、『ラグネルの迷宮』に反撃してくる可能性は少ないみたいだけど……。
というわけで、流石に2人では攻め込めないから、13人全員が一旦補給できる橋頭堡のため街に潜入したわけだ。
それに、『ナディナレズレの巨塔』を崩壊させた時に、一番利益を高められるような立場を築くことも必要だしね。
というわけで、その目的に最適な人材として情報収集能力が極めて高いビオンデッタちゃんと、事前準備が必要で、コミュ力に自信のあるロザロザちゃんが訪れたというわけだ。
「ハンターズギルドにいる連中って全員数百年『ナディナレズレの巨塔』に勝てない雑魚よね。そんな奴らに情報を乞わなきゃならないなんてね。頭が痛いわ」
そういって彼女は目頭を抑えた。
……最近のナナヤの巫女は、早くウィト様の安寧のためにナナヤ女神を凹ませようと、焦っている子が多い。多くの子達は自分が部屋で休む時間も、研鑽に日々を費やしている。
だからロザロザちゃんは彼女達が頑張っていてお兄ちゃんから離れた分、寂しいお兄ちゃんにもっとひっつけてるんだけど。
「……でもそうね。今までの話をまとめると、結局金を稼ぐにも身分証明が必要……。となると、ハンターズギルドに向かうのも悪くないのかしら」
彼女もその例に漏れず、お兄ちゃんへの奉仕で頭がいっぱいになって、ブツブツと呟いていてしまっていた。
「アハハ。焦ってるなぁ」
ロザロザちゃんはこういうとき、お兄ちゃんは私達が焦っているより遊んでた方が喜ぶよ。なんて言うことにしている。実際お兄ちゃんはあんまり呪いのこと気にしてないし。
でも、ビオンデッタちゃんの場合はそれに当てはまらないんだよね。
他のナナヤの巫女には多少なりとも趣味や、個人の目的はあるけれど、彼女の娯楽は唯一、お兄ちゃんにひっつくということだけ。
お兄ちゃんと一緒にいる時間以外を最大限短縮して、増えた時間の分はずっとお兄ちゃんにゴロニャンするのが彼女の生き様なのだ。
つまり、彼女がずっと急いでいるのは一見真面目なようにみえるけれど、ゲームをしたい子供が宿題を急いでやるようなものであり、突き詰めれば彼女自身のわがままなのである。
だからこそ私も、容赦なく彼女を誘導していく。
「ビオンデッタちゃん!それにね?ハンターの仕事は、死体漁りをするだけで、すっごくお金を稼げるらしいよ?向いてるジャーン」
ロザロザちゃんが彼女をハンターズギルドに誘ったのは、大金をまず手に入れたいからという理由がある。ハンターという職業は食っていけるようになるまで一年くらいかかるといわれているけど、ビオンデッタの効率厨スキルがあれば、絶対にそんなにかからない。
彼女の効率厨っぷりは、ロザロザちゃん達の十年の漁り屋生活において最大に発揮されており、ビオンデッタちゃんはなんと漁り屋の業績がナナヤの巫女のなかでナンバーワンだったのだ。
最後の方になると「もう今日は森に死体が一つもありませんので、終わりましょう」なんて言って、あの広大な森全ての死体を集めきってしまったのだ。そして余った時間でウィトにたっぷりとひっついていた。
……蜂の頃はよかったけど、大人びた美女となった今でも全力で甘えるものだから、もうそういうプレイにしか見えなかった。ま、そんな彼女のキショい側面を知ってるから、冷たくされても楽しく一緒にいられるんだけどね。
「お金、身分証明。そうね。とりあえず向かってみるのも悪くないでしょう。それに、必要な情報はもう大抵補足できたわ」
そういうと彼女は、頭のなかで何かを反駁するように指で頭をトントンとしていた。こういうときは味方にきちんと情報を知らせるのがスパイの役目だと思うんだけど、彼女は報連相とは無縁の存在なのだった。
ま、本当に必要な情報があると知らせてくれるでしょ。
「……そーだよ。それにね、ハンターズギルドでやりたいこともあるんだもん」
「やりたいこと?」
そういうと効率厨の彼女は、質問の返事を待たずに歩き始めてしまった。ロザロザちゃんは彼女の肩にしがみついた。こういうときは蔦の身体の方が便利なんだけどなあ。
けれどロザロザちゃんは、以前の身体のことを思い出すように、彼女の身体を這い上がり、耳元で囁いた。
「ハンターってさぁ、強けりゃそれだけでいいうえにぃ、人助けするから恩も売れるんだよ。『ナディナレズレの巨塔』を倒した後に、国を乗っ取るには持ってこいじゃない?」
ビオンデッタちゃんは「恩」とか、「仇」とかそんな不確定要素を判断に加えない。けど、それを気にしない彼女だからこそ、「恩」は、「感謝」は、集まっていくだろう。ロザロザちゃんにはそれが楽しみで仕方がないのだ。
ポケットにしまった毒ちゃん達が、楽しそうにじゃらじゃらとはしゃいでいるのが聞こえた。
真っ昼間から働きもせず武器を携帯した男女が行き交う往来、学生による政治批判劇にまばらの観客。活気ある客引きに、無駄に豪華な噴水。うん。自由そうで、なかなか悪くない。
ロザロザちゃんが楽しく市井を眺めていたそんなとき。
「ローザローザ。あなたあんなつまらない男の住居など聞いてどうするの」
ビオンデッタが苛立たしげに言った。あれ、ロザロザちゃんが御者君の店の場所を聞いてたの、見てたんだ。
まあこの子はお兄ちゃんと一緒の時以外いつも切れてるんだけどね。
「別に何でもいいジャーン。袖触れ合うも他生の縁なんてね」
うーん。ナナヤの巫女達は全員、基本的にお兄ちゃん以外の男が嫌いだからなぁ。けどま、ロザロザちゃんの場合はあんな感じの普通の男の子が知り合いにいた方がいいんだよね。
それはロザロザちゃんのユニークスキル『毒会話』が、事前準備を物を言うからだ。なるべく友達を増やして、国中全員がロザロザちゃんの毒を飲んだことがあるようになってようやく、真価を発揮するのがロザロザちゃんのスキルなのだ!
ま、命を助けてあげたんだし、彼にはせいぜいいっぱい働いて貰おうっと。
「……あんな男が役に立つことなんてないと思うけど。ま、もう済んだことね。これから私はとにかく街の情報を集めて回るけど、ローザローザは?」
ビオンデッタちゃんは首を傾け、もう既に仕事を始めていた。初めてこんなにいっぱい人間がいるところに来たっていうのに勿体ないなぁと思うけど、確かに情報収集のついでに観光すりゃいっか。
「何するのって、当然ビオンデッタちゃんと一緒に情報集めするよ!」
一緒に来たのだからそりゃそのつもりだった。だからそういったんだけど、
「貴方が役に立つところ、ある?」
なんて、彼女は心底不思議だというように聞いた。
カッチーン。なんて失礼なこと言うんだ!こいつ!
ビオンデッタちゃんは基本的に無駄が嫌い。そして非効率が嫌い。お兄ちゃんは「キャリアウーマンみたいだよな」って言ってたけど、絶対ちきゅうってとこにはこんな奴いなかったと思う。
だってこの子、リポップした方が時間対効率いいって言って、遠出から帰るとき木にぶつかって自殺するような奴なんだもん。お兄ちゃんの前世にもそんな奴絶対いないっしょ!
「でも、ロザロザちゃんはビオンデッタちゃんのお目付け役だから、一緒にいるんだよっ!」
けれど怒りを押し殺して、ロザロザちゃんは彼女にしがみついた。
ロザロザちゃんはそんなつよつよ個性持ちの彼女も好きだったからだ。というかナナヤの巫女は全員好きなんだよねぇ。気心も知れているし、何より素直で、歪んでて、観察する分には世界一面白いと思う。
きっとお兄ちゃんと出会ってなくても、ロザロザちゃんはナナヤの巫女の一員に志願していたと思うくらい、このダンジョンの皆は面白いのだ。
しかし、ビオンデッタはそんなロザロザちゃんの愛情に気づきもせずに、しがみついたロザロザちゃんを汚いものを見るような目で見て言った。
「貴方。ウィト様があんなに苦しんでおられるのに正気?」
ビオンデッタが訝しむような口調で言った。この場合の「正気?」、というのは「お目付けなんて非効率すぎる仕事をするくらいなら、お兄ちゃんのために少しでも日銭を稼いでこいよ」という意味だ。
効率的すぎて言葉も思いやりも足りてないよ!
実際に効率重視で、ゆとりを持たずあちこちに本気で毒を撒きまくってもいいんだけど、大体そんなことをしても碌なことにならないことをロザロザちゃんは知っている。こちらがなりふり構わなければ、相手もなりふり構わなくなるものだ。
大体潜伏させた毒を一斉に発動させる能力なんて好き放題使ったら、危険度が高すぎて他国からも強力なハンターが送られてくるに決まってる。
だからこそ、ゆったり、じっくりと、毒のように蝕む動きが侵入捜査には求められる。ま、慌てん坊のビオンデッタちゃんはそんなこと全く理解を示さないけど。
だけど、そんな彼女を嗜めるのが、監視役であるロザロザちゃんの役目なのだ!
「だいじょーぶだってぇ!お兄ちゃんはぜっったい私達が仲良くしてる方が喜ぶから」
そもそも、あんまりお兄ちゃんはナナヤ女神にやられたことを気にしてない節があるしね。
「…………チッ」
好きな人のために一直線の行動が不正解になってしまい、ビオンデッタちゃんが舌打ちする。世界がビオンデッタちゃんの脳内くらい単純だといいんだけどねぇ。
「アハハ。こわーい」
不機嫌になったビオンデッタが面白くて笑っちゃったんだけど、そうすると彼女は黙りこんでしまった。
基本的な彼女の本質はお兄ちゃんのために一生懸命働きたいという社会性バリバリなだけの女の子だから、お兄ちゃんの名前を出せばすぐに大人しくなるのだ。
ロザロザちゃんなんて無軌道すぎて知略組のマルガリータちゃんとかから避けられてるのに、もしかして今回はブレイン係しないとかな?
「……いいわ。私が、情報を集めながら貴方と遊んで、思い出話を作っておきましょう」
彼女はそういうと溜息をつき、目を閉じないながらも首を傾けて集中する素振りをした。
……お兄ちゃんいわく、虫の中には脚に鼓膜を複数個持つものが数多くいるらしい。その影響だろうか、ビオンデッタちゃんもGランクのクワイエットスウォームだったころに、スキル『広範聴覚』を獲得していた。
Gランクモンスターには感覚を強化するスキルを持つことが多い。へーゼル姉の生体感知とかサリュちゃんの五感強化とかね。それは弱い彼らが生き残るためのものだ。
けれど、今や全言語のリスニングができるビオンデッタちゃんが『広範聴覚』を用いると、諜報活動と超強力のスパイとしての活動を可能とする超高性能なスキルとなっていた。
その諜報能力に彼女のユニークスキルが合わされば、まさに最強スパイになれるというわけなんだけど……何故お兄ちゃんから離れたがらない彼女がこんな潜入捜査向きの能力を手にしたのかは分からない。
ということだからまぁ、たしかに彼女一人いればオシント……一般に公開されている情報を調べるだけなら十分だと思う。
けれど今回は、秘匿された情報を集める必要があるのだ。
「ってちょっと待てーい」
ということで、ロザロザちゃんは手を上げた。
「違うってば!なんでそんな仮面夫婦みたいなことしなきゃなんないのさ。ハンターズギルドってところにいけば、ダンジョンの情報とお金って欲しい二つが集まるんだって!」
……私達が今回二人でナディナレズレに来た理由は、ジャクリーンちゃんのダンジョン『ナディナレズレの巨塔』を攻略するためである。
そのためには、周辺に拠点を構え、全員で攻め込むための土台を作り出す必要がある。
…………『ナディナレズレの巨塔』の戦力はジャクリーンちゃん曰く凄まじいものらしい。
基本的には防衛に特化していて、『ラグネルの迷宮』に反撃してくる可能性は少ないみたいだけど……。
というわけで、流石に2人では攻め込めないから、13人全員が一旦補給できる橋頭堡のため街に潜入したわけだ。
それに、『ナディナレズレの巨塔』を崩壊させた時に、一番利益を高められるような立場を築くことも必要だしね。
というわけで、その目的に最適な人材として情報収集能力が極めて高いビオンデッタちゃんと、事前準備が必要で、コミュ力に自信のあるロザロザちゃんが訪れたというわけだ。
「ハンターズギルドにいる連中って全員数百年『ナディナレズレの巨塔』に勝てない雑魚よね。そんな奴らに情報を乞わなきゃならないなんてね。頭が痛いわ」
そういって彼女は目頭を抑えた。
……最近のナナヤの巫女は、早くウィト様の安寧のためにナナヤ女神を凹ませようと、焦っている子が多い。多くの子達は自分が部屋で休む時間も、研鑽に日々を費やしている。
だからロザロザちゃんは彼女達が頑張っていてお兄ちゃんから離れた分、寂しいお兄ちゃんにもっとひっつけてるんだけど。
「……でもそうね。今までの話をまとめると、結局金を稼ぐにも身分証明が必要……。となると、ハンターズギルドに向かうのも悪くないのかしら」
彼女もその例に漏れず、お兄ちゃんへの奉仕で頭がいっぱいになって、ブツブツと呟いていてしまっていた。
「アハハ。焦ってるなぁ」
ロザロザちゃんはこういうとき、お兄ちゃんは私達が焦っているより遊んでた方が喜ぶよ。なんて言うことにしている。実際お兄ちゃんはあんまり呪いのこと気にしてないし。
でも、ビオンデッタちゃんの場合はそれに当てはまらないんだよね。
他のナナヤの巫女には多少なりとも趣味や、個人の目的はあるけれど、彼女の娯楽は唯一、お兄ちゃんにひっつくということだけ。
お兄ちゃんと一緒にいる時間以外を最大限短縮して、増えた時間の分はずっとお兄ちゃんにゴロニャンするのが彼女の生き様なのだ。
つまり、彼女がずっと急いでいるのは一見真面目なようにみえるけれど、ゲームをしたい子供が宿題を急いでやるようなものであり、突き詰めれば彼女自身のわがままなのである。
だからこそ私も、容赦なく彼女を誘導していく。
「ビオンデッタちゃん!それにね?ハンターの仕事は、死体漁りをするだけで、すっごくお金を稼げるらしいよ?向いてるジャーン」
ロザロザちゃんが彼女をハンターズギルドに誘ったのは、大金をまず手に入れたいからという理由がある。ハンターという職業は食っていけるようになるまで一年くらいかかるといわれているけど、ビオンデッタの効率厨スキルがあれば、絶対にそんなにかからない。
彼女の効率厨っぷりは、ロザロザちゃん達の十年の漁り屋生活において最大に発揮されており、ビオンデッタちゃんはなんと漁り屋の業績がナナヤの巫女のなかでナンバーワンだったのだ。
最後の方になると「もう今日は森に死体が一つもありませんので、終わりましょう」なんて言って、あの広大な森全ての死体を集めきってしまったのだ。そして余った時間でウィトにたっぷりとひっついていた。
……蜂の頃はよかったけど、大人びた美女となった今でも全力で甘えるものだから、もうそういうプレイにしか見えなかった。ま、そんな彼女のキショい側面を知ってるから、冷たくされても楽しく一緒にいられるんだけどね。
「お金、身分証明。そうね。とりあえず向かってみるのも悪くないでしょう。それに、必要な情報はもう大抵補足できたわ」
そういうと彼女は、頭のなかで何かを反駁するように指で頭をトントンとしていた。こういうときは味方にきちんと情報を知らせるのがスパイの役目だと思うんだけど、彼女は報連相とは無縁の存在なのだった。
ま、本当に必要な情報があると知らせてくれるでしょ。
「……そーだよ。それにね、ハンターズギルドでやりたいこともあるんだもん」
「やりたいこと?」
そういうと効率厨の彼女は、質問の返事を待たずに歩き始めてしまった。ロザロザちゃんは彼女の肩にしがみついた。こういうときは蔦の身体の方が便利なんだけどなあ。
けれどロザロザちゃんは、以前の身体のことを思い出すように、彼女の身体を這い上がり、耳元で囁いた。
「ハンターってさぁ、強けりゃそれだけでいいうえにぃ、人助けするから恩も売れるんだよ。『ナディナレズレの巨塔』を倒した後に、国を乗っ取るには持ってこいじゃない?」
ビオンデッタちゃんは「恩」とか、「仇」とかそんな不確定要素を判断に加えない。けど、それを気にしない彼女だからこそ、「恩」は、「感謝」は、集まっていくだろう。ロザロザちゃんにはそれが楽しみで仕方がないのだ。
ポケットにしまった毒ちゃん達が、楽しそうにじゃらじゃらとはしゃいでいるのが聞こえた。
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