20 / 64
19話 一方その頃 (三人称視点)
しおりを挟む
これは、デリラ・デイアネイラが大規模戦闘を開始する数時間ほど前のことであった。
「ずるいずるいずるーい!」
植物族のDランクモンスターであるローザローザ・ヴィンシーは、『ラグネルの迷宮』内の一室、簡素な飾り付けと巨大なベッドのみが置かれたその部屋で、これでもかというほど激しく駄々をこねていた。
「だぁー!やかましいっ!かまってほしいからって絡みついてくるな」
絡んだ相手は竜族のモンスターであるロジーナ・ブラッドンである……彼女は自室で寝ているところを上からのしかかられ、その駄々を聞かされていたのであった。
声と状況描写のみであれば、2人の少女がじゃれあっている光景に思えるが、実際には「喋る毒々しい紫色をした蔦」としか形容しようがないローザローザが、銅色をした巨大な竜であるロジーナの全身を覆っているという異様な光景が、その部屋には広がっていた。
……ローザローザはアルデガンノという種類の、純度100%で蔦そのもののモンスターであった。しかし、器用に触手のような蔦を絡み合わせて少女の形を作ると、「だってぇ」と猫撫で声を出した。
「マルガリータちゃんがロザロザちゃんを……私達をハブにしたんだよ!ハブ!」
自身のことをロザロザちゃんと呼ぶ少女に、その話か、とロジーナは目を瞑った。
マルガリータが森の獣を狩る許可をウィトから受けたという話は大きなトピックとして、ダンジョン中に広がっていた。
皆何か思うところがあるのだろうか、口にする話題は大抵がそのことについてばかりだった。
「じゃが、王がマルガリータに命令したのだから仕方がないじゃろう」
ロジーナは自由な生き方を信条とする尊大な竜族らしい性格をしていたが、それでも自身が王と敬うウィトの命令は絶対であった。彼女にとって王であるウィトが言葉を発せば、それはその時点で下々には覆すことのできない絶対の命令となる。
しかし、ローザローザの認識は、少々違ったようだった。
「でもでもだよ?マルガリータちゃんってさ!ぜっったい人選に私情挟んでるよね?人事失格だよね!」
そういうと、ステレオ音声のようにもう片方の蔦からロザロザの声が聞こえた。……蔦でしかないアルデガンノのローザローザは、言語を話すための器官があるわけではない。
植物語は葉のざわめきで会話できるため、ローザローザは身体の何処からでも声を発することができるのだ。そして、ローザローザはロジーナに絡みついたその蔦の全身から声を出すのだが、ロジーナにはその音の振動で身体がゾワゾワする感じがうざくてたまらなかった。
「マルガリータは……真面目じゃから大丈夫じゃろ」
その不快感に耐えながら、ロジーナは声を振り絞った。
そんな大きな話題がダンジョンで流行っているなかロジーナがこうしてぼーっと寝転んでいる理由は、ウィトの敵を殲滅することに興味がないからではない。
同僚が一人でも本気を出せば、誰でもこの森程度は殲滅できると知っており、であれば任せてもよいじゃろう、と信じて託していたからだった。
しかし、どこまでも落ち着いているロジーナの首元まで登り、ローザローザは耳元で話を続ける。
「いやいや、私もマルガリータちゃんが仕事を失敗するだなんて思ってないよ?てか、お兄ちゃんの交渉人を目指してるのに、森の雑魚どもにいいようにされてちゃ……うん、向こう二ヶ月はいじれるかな」
ローザローザはそういって邪悪に笑った……。いや、邪悪な形状をした黄色の花を咲かせた。普通の植物族モンスターにはそんな芸当はできないが、ローザローザは感情表現のために多様な色と多様な形の花を咲かせることができる。
ユニークスキルではない。人間と常に生活してきた彼女の身体が、そうなることを願ってランクアップした結果だった。
「……じゃろうな。そもそも、デリラとヘーゼルを連れて行ったんじゃぞ。敵なんぞ一匹も残らんわ」
マルガリータはあまり戦闘向きではない……それでも森の連中相手に負けることはないだろうが、逃してしまう可能性は残る。
けれど、デリラの『縁』を辿る力と、ヘーゼルの飛翔と生体感知というレーダースキルがあれば、もう負ける要素は一つたりともないと、ダンジョン内の見解は一致していたのだった。
だからこそ、自分もついていきたいなどと言うものが今の今までいなかったのだ。過剰戦力は基本的に防衛線となる今後のダンジョン運営において、愚策である。
「でもでもだよ?森の連中を殲滅するなら、絶対に私呼ぶべきじゃない?だってさ、デリラちゃんよりずーーーっとバレずにやれると思うよ!」
そういって、ローザローザにひときわ大きく、赤い花が咲く。
つまるところ彼女は、自分の手柄がほしいのだった。
……ローザローザは植物族モンスターの誇りとして、森のモンスターを最もうまく殺すことが可能であると自負していた。
しかし、彼女が作戦への参加を求めた一番の理由は、自身がお兄ちゃんと呼び慕うウィトに褒められるためだった。
「ふん。それはそうじゃろうな。「こっそりたくさん殺す」という今回の目的に、お主のスキルほど向いているものはないじゃろうし」
大規模な殲滅作戦は、その手段も大仰なものとなる。ある程度の隠密性を維持しつつ、MAP兵器としての性能を誇るローザローザは、今回の作戦に向いているということは、ロジーナも認めざるを得ないところだった。
「でしょでしょ?だから思うんだけどさ、マルガリータちゃんはお兄ちゃんに褒めてほしくて、主張の強くない子ばっかり連れて行ってるんだよ!デリラちゃんは絶対お兄ちゃんに褒めて褒めて~ってできないし、ヘーゼル姉はマルガリータちゃんに譲ってあげるだろうしね!私を連れていったら、私がいっちばん褒められるに決まってるもん」
(うぜえ)
ロジーナはローザローザの、「ウィトに最も愛されているのはロザロザちゃんなんだよ♪」という態度に苛立ちを覚えたが、ここで嫌がる素振りをしてもローザローザを喜ばせるだけだと思い、黙るしかなかった。
……ローザローザは、同僚やウィトの困った顔を好む。
それは、ウィトが十年間もの間、何度ローザローザの毒によって死亡しても、「愛の証」と称して再び抱きしめたことによって生じた、彼女の歪の恋愛観が原因だった。
それを知っているからこそ、ロジーナはなるべく無関心を装って、ローザローザとの会話を続ける。
「そもそも、王に褒めてとねだるような奴はお前しかおらんしな」
その言葉に、ローザローザが模った少女型の蔦が、えっへんと胸を張った。
ローザローザはGランクだったころに毒でウィトを殺した時からずっと、ウィトにくっついて甘える珍しいタイプだった。
他のモンスターが「嫌われたらどうしよう」と尻込みするなか、ローザローザだけは「殺したのに愛してくれたのだから、もう何をしても嫌われない」という「絶対の愛」を信じていたのだ。
一応、彼女も最初はウィトを傷つける度に自身の持つ毒性に悩んでいたのだが、数十回死んでも抱きしめてくるウィトにほだされ、今はウィトの「絶対の愛」の存在を自身のアイデンティティとしていたし、自身も「絶対の愛」をもってウィトにお返しするためにはどんな拒絶も無視してひっつくべきだと考えている、物騒な甘えん坊なのだった。
そんな彼女が、作戦に無理やりであっても参加をしようと試みることは、ある意味当然であるといえた。
「いやいや、みんな直接言えないだけでさ、褒められたいってのバレバレだから!わざわざ頑張りましたとか報告しちゃってさ~。お尻振って求愛してんの。ま、それはいいんだけどね。でも、欲張りはだめだよぅ。みんな仲良く愛されないと」
ローザローザはやれやれと両手を広げるジェスチャーを、蔦で再現した。
ロジーナは、いつも陰からウィトを見ているマルガリータと、会話が可能となってますますウィトにひっついているローザローザの姿を脳内で見比べて、マルガリータに強い同情を覚えた。
「で、どうするんじゃ?指揮権はマルガリータにあるんじゃろ?」
ロジーナは、愚痴はそれくらいで十分だろうと話を切り上げる。基本的にロジーナは小さいことを気にしないためか悩みが少なく、ずっと動かず部屋で寝転んでいる。そのためか、愚痴の相手に選ばれることが多かったのだ。こうした切り上げ方は、彼女の持つ唯一の処世術だった。
というか、そろそろ眠たかった。
その結論を求めるロジーナの言葉を聞いて、待ってましたとばかりに身体中にまとわりついた蔦が全て眼前に集中する。そして、人間の子供型となったかと思うと、お次にツンと胸をそらした。
「ふっふーん。サリュちゃんにきいて私知ってるんだー。マルガリータちゃんも、友達がほしいとか嘘ついて今回の任務をおねだりしたんだって!お願いダーリンしちゃったんだってぇ!」
15歳程度の女の子の形を模っているローザローザの背面から、2本の蔦が伸び、ハートを作る。
それをきいて、ロジーナはローザローザの意図が全て読めてしまった。あ、コイツ、それをパクる気なんだな、と。
「……マルガリータときちんと連絡を取り合うんじゃぞ」
ロジーナは、必死に森の勢力図を描いていたマルガリータの姿を思い出し、そして、今からその全ての努力を無に返されてしまう彼女に、哀悼の念を送った。
しかし、ローザローザはロジーナの考えすら上回る自由人だった。
「何言ってんのロジーナちゃん!サリュちゃんも誘って、三人で任務にいくんだよ!ほら、サリュちゃん森の獣の殺し方ずっと練習してたのに、かわいそうじゃん!」
その唐突な提案に、ロジーナはダンジョン内だというのに竜のブレスを漏らしそうになった。
「確かに、サリュは森の連中との戦闘プランを考えておった。じゃから、それを試させてあげたいというのはわかる。じゃがなぜわしが同行せねばいかんのじゃ」
そのとうとう堪忍袋の緒が切れ、ややキレ気味なロジーナの言葉を、ローザローザは意に介することなく言い放った。
「空飛べるから!乗せてって!」
そういうと、ロジーナが愕然としているうちに、ローザローザは潮が引くように素早く、ロジーナの自室から離脱したのだった。
「待て!ローザローザ!馬鹿にしておるのか!」
しかし、ロジーナがそういうときには既にローザローザの姿はなく、遠くの部屋から、「ウィトお兄ちゃ~ん。ロザロザちゃんもお友達ほしい!あ、あとサリュちゃんとロジーナちゃんもほしいって言ってたよ!」という声が聞こえてきた。
ロジーナは、これでまたマルガリータの酒の量が増えるな。と嘆息したのだった。
「ずるいずるいずるーい!」
植物族のDランクモンスターであるローザローザ・ヴィンシーは、『ラグネルの迷宮』内の一室、簡素な飾り付けと巨大なベッドのみが置かれたその部屋で、これでもかというほど激しく駄々をこねていた。
「だぁー!やかましいっ!かまってほしいからって絡みついてくるな」
絡んだ相手は竜族のモンスターであるロジーナ・ブラッドンである……彼女は自室で寝ているところを上からのしかかられ、その駄々を聞かされていたのであった。
声と状況描写のみであれば、2人の少女がじゃれあっている光景に思えるが、実際には「喋る毒々しい紫色をした蔦」としか形容しようがないローザローザが、銅色をした巨大な竜であるロジーナの全身を覆っているという異様な光景が、その部屋には広がっていた。
……ローザローザはアルデガンノという種類の、純度100%で蔦そのもののモンスターであった。しかし、器用に触手のような蔦を絡み合わせて少女の形を作ると、「だってぇ」と猫撫で声を出した。
「マルガリータちゃんがロザロザちゃんを……私達をハブにしたんだよ!ハブ!」
自身のことをロザロザちゃんと呼ぶ少女に、その話か、とロジーナは目を瞑った。
マルガリータが森の獣を狩る許可をウィトから受けたという話は大きなトピックとして、ダンジョン中に広がっていた。
皆何か思うところがあるのだろうか、口にする話題は大抵がそのことについてばかりだった。
「じゃが、王がマルガリータに命令したのだから仕方がないじゃろう」
ロジーナは自由な生き方を信条とする尊大な竜族らしい性格をしていたが、それでも自身が王と敬うウィトの命令は絶対であった。彼女にとって王であるウィトが言葉を発せば、それはその時点で下々には覆すことのできない絶対の命令となる。
しかし、ローザローザの認識は、少々違ったようだった。
「でもでもだよ?マルガリータちゃんってさ!ぜっったい人選に私情挟んでるよね?人事失格だよね!」
そういうと、ステレオ音声のようにもう片方の蔦からロザロザの声が聞こえた。……蔦でしかないアルデガンノのローザローザは、言語を話すための器官があるわけではない。
植物語は葉のざわめきで会話できるため、ローザローザは身体の何処からでも声を発することができるのだ。そして、ローザローザはロジーナに絡みついたその蔦の全身から声を出すのだが、ロジーナにはその音の振動で身体がゾワゾワする感じがうざくてたまらなかった。
「マルガリータは……真面目じゃから大丈夫じゃろ」
その不快感に耐えながら、ロジーナは声を振り絞った。
そんな大きな話題がダンジョンで流行っているなかロジーナがこうしてぼーっと寝転んでいる理由は、ウィトの敵を殲滅することに興味がないからではない。
同僚が一人でも本気を出せば、誰でもこの森程度は殲滅できると知っており、であれば任せてもよいじゃろう、と信じて託していたからだった。
しかし、どこまでも落ち着いているロジーナの首元まで登り、ローザローザは耳元で話を続ける。
「いやいや、私もマルガリータちゃんが仕事を失敗するだなんて思ってないよ?てか、お兄ちゃんの交渉人を目指してるのに、森の雑魚どもにいいようにされてちゃ……うん、向こう二ヶ月はいじれるかな」
ローザローザはそういって邪悪に笑った……。いや、邪悪な形状をした黄色の花を咲かせた。普通の植物族モンスターにはそんな芸当はできないが、ローザローザは感情表現のために多様な色と多様な形の花を咲かせることができる。
ユニークスキルではない。人間と常に生活してきた彼女の身体が、そうなることを願ってランクアップした結果だった。
「……じゃろうな。そもそも、デリラとヘーゼルを連れて行ったんじゃぞ。敵なんぞ一匹も残らんわ」
マルガリータはあまり戦闘向きではない……それでも森の連中相手に負けることはないだろうが、逃してしまう可能性は残る。
けれど、デリラの『縁』を辿る力と、ヘーゼルの飛翔と生体感知というレーダースキルがあれば、もう負ける要素は一つたりともないと、ダンジョン内の見解は一致していたのだった。
だからこそ、自分もついていきたいなどと言うものが今の今までいなかったのだ。過剰戦力は基本的に防衛線となる今後のダンジョン運営において、愚策である。
「でもでもだよ?森の連中を殲滅するなら、絶対に私呼ぶべきじゃない?だってさ、デリラちゃんよりずーーーっとバレずにやれると思うよ!」
そういって、ローザローザにひときわ大きく、赤い花が咲く。
つまるところ彼女は、自分の手柄がほしいのだった。
……ローザローザは植物族モンスターの誇りとして、森のモンスターを最もうまく殺すことが可能であると自負していた。
しかし、彼女が作戦への参加を求めた一番の理由は、自身がお兄ちゃんと呼び慕うウィトに褒められるためだった。
「ふん。それはそうじゃろうな。「こっそりたくさん殺す」という今回の目的に、お主のスキルほど向いているものはないじゃろうし」
大規模な殲滅作戦は、その手段も大仰なものとなる。ある程度の隠密性を維持しつつ、MAP兵器としての性能を誇るローザローザは、今回の作戦に向いているということは、ロジーナも認めざるを得ないところだった。
「でしょでしょ?だから思うんだけどさ、マルガリータちゃんはお兄ちゃんに褒めてほしくて、主張の強くない子ばっかり連れて行ってるんだよ!デリラちゃんは絶対お兄ちゃんに褒めて褒めて~ってできないし、ヘーゼル姉はマルガリータちゃんに譲ってあげるだろうしね!私を連れていったら、私がいっちばん褒められるに決まってるもん」
(うぜえ)
ロジーナはローザローザの、「ウィトに最も愛されているのはロザロザちゃんなんだよ♪」という態度に苛立ちを覚えたが、ここで嫌がる素振りをしてもローザローザを喜ばせるだけだと思い、黙るしかなかった。
……ローザローザは、同僚やウィトの困った顔を好む。
それは、ウィトが十年間もの間、何度ローザローザの毒によって死亡しても、「愛の証」と称して再び抱きしめたことによって生じた、彼女の歪の恋愛観が原因だった。
それを知っているからこそ、ロジーナはなるべく無関心を装って、ローザローザとの会話を続ける。
「そもそも、王に褒めてとねだるような奴はお前しかおらんしな」
その言葉に、ローザローザが模った少女型の蔦が、えっへんと胸を張った。
ローザローザはGランクだったころに毒でウィトを殺した時からずっと、ウィトにくっついて甘える珍しいタイプだった。
他のモンスターが「嫌われたらどうしよう」と尻込みするなか、ローザローザだけは「殺したのに愛してくれたのだから、もう何をしても嫌われない」という「絶対の愛」を信じていたのだ。
一応、彼女も最初はウィトを傷つける度に自身の持つ毒性に悩んでいたのだが、数十回死んでも抱きしめてくるウィトにほだされ、今はウィトの「絶対の愛」の存在を自身のアイデンティティとしていたし、自身も「絶対の愛」をもってウィトにお返しするためにはどんな拒絶も無視してひっつくべきだと考えている、物騒な甘えん坊なのだった。
そんな彼女が、作戦に無理やりであっても参加をしようと試みることは、ある意味当然であるといえた。
「いやいや、みんな直接言えないだけでさ、褒められたいってのバレバレだから!わざわざ頑張りましたとか報告しちゃってさ~。お尻振って求愛してんの。ま、それはいいんだけどね。でも、欲張りはだめだよぅ。みんな仲良く愛されないと」
ローザローザはやれやれと両手を広げるジェスチャーを、蔦で再現した。
ロジーナは、いつも陰からウィトを見ているマルガリータと、会話が可能となってますますウィトにひっついているローザローザの姿を脳内で見比べて、マルガリータに強い同情を覚えた。
「で、どうするんじゃ?指揮権はマルガリータにあるんじゃろ?」
ロジーナは、愚痴はそれくらいで十分だろうと話を切り上げる。基本的にロジーナは小さいことを気にしないためか悩みが少なく、ずっと動かず部屋で寝転んでいる。そのためか、愚痴の相手に選ばれることが多かったのだ。こうした切り上げ方は、彼女の持つ唯一の処世術だった。
というか、そろそろ眠たかった。
その結論を求めるロジーナの言葉を聞いて、待ってましたとばかりに身体中にまとわりついた蔦が全て眼前に集中する。そして、人間の子供型となったかと思うと、お次にツンと胸をそらした。
「ふっふーん。サリュちゃんにきいて私知ってるんだー。マルガリータちゃんも、友達がほしいとか嘘ついて今回の任務をおねだりしたんだって!お願いダーリンしちゃったんだってぇ!」
15歳程度の女の子の形を模っているローザローザの背面から、2本の蔦が伸び、ハートを作る。
それをきいて、ロジーナはローザローザの意図が全て読めてしまった。あ、コイツ、それをパクる気なんだな、と。
「……マルガリータときちんと連絡を取り合うんじゃぞ」
ロジーナは、必死に森の勢力図を描いていたマルガリータの姿を思い出し、そして、今からその全ての努力を無に返されてしまう彼女に、哀悼の念を送った。
しかし、ローザローザはロジーナの考えすら上回る自由人だった。
「何言ってんのロジーナちゃん!サリュちゃんも誘って、三人で任務にいくんだよ!ほら、サリュちゃん森の獣の殺し方ずっと練習してたのに、かわいそうじゃん!」
その唐突な提案に、ロジーナはダンジョン内だというのに竜のブレスを漏らしそうになった。
「確かに、サリュは森の連中との戦闘プランを考えておった。じゃから、それを試させてあげたいというのはわかる。じゃがなぜわしが同行せねばいかんのじゃ」
そのとうとう堪忍袋の緒が切れ、ややキレ気味なロジーナの言葉を、ローザローザは意に介することなく言い放った。
「空飛べるから!乗せてって!」
そういうと、ロジーナが愕然としているうちに、ローザローザは潮が引くように素早く、ロジーナの自室から離脱したのだった。
「待て!ローザローザ!馬鹿にしておるのか!」
しかし、ロジーナがそういうときには既にローザローザの姿はなく、遠くの部屋から、「ウィトお兄ちゃ~ん。ロザロザちゃんもお友達ほしい!あ、あとサリュちゃんとロジーナちゃんもほしいって言ってたよ!」という声が聞こえてきた。
ロジーナは、これでまたマルガリータの酒の量が増えるな。と嘆息したのだった。
0
お気に入りに追加
1,385
あなたにおすすめの小説
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
本条蒼依
ファンタジー
山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、
残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして
遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。
そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を
拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、
町から逃げ出すところから始まる。
魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~
鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」
未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。
国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。
追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ゲーム序盤で死ぬモブ炎使いに転生したので、主人公に先回りしてイベントをクリアしたらヒロインが俺について来た
ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで日間・週間・月間総合1位獲得!ありがとうございます。
社畜として働き、いつものように寝て起きると、俺はゲーム『ブレイブクエストファンタジー』とよく似た世界のモブ『ゲット』に転生していた。俺は物語序盤で盗賊に襲われて死ぬ運命だ。しかも主人公のダストは俺を手下のようにこき使う。
「主人公にこき使われるのはもうごめんだ!死ぬのもごめんだ!俺がゲームのストーリーを覆してやる!」
幼いころから努力を続けていると、ゲームヒロインが俺に好意を寄せている?
いや、気のせいだ。俺はしょせんモブ!
今は死亡フラグを解決する!そして次のステップに進む!
一方、同じく転生したダストは主人公キャラを利用して成り上がろうとするが、ダンジョンのお宝はすでに無く、仲間にするはずの美人キャラには見限られ、努力を嫌ったことでどんどん衰退していく。
このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~
夢幻の翼
ファンタジー
典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。
男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。
それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。
一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。
持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる