悪鬼羅刹の如く

nekuro

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第3章 ロキ編

11話 残念な結果

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 それは、九条達の死闘から一週間の月日が経過した早朝の出来事であった。

 ようやく夜が明け、世界に明るさを照らす太陽が現れた時間。穏やかな陽光が照らす早朝。未だ町は眠っていると言っても過言ではない。
 町のある一件の小さな喫茶店。入口には当然閉店を示す「closed」の文字が書かれた看板が吊るされていた。
 店の中に客はおらず、ガランとしている。しかし、誰もいない筈の店内に何故か二人の人影があった。

 店の中はカウンター席とテーブル席に分かれている。カウンター席の方に、肩を並べて座っていた。
 男と女。それは、一文字とジュリの姿であった。
 お互いスーツ姿に身を包み、会話をしていた。


「九条さんから話を聞きましたよ。何やら、彼女がロキと接触したそうじゃないですか?」
「ええ。にわかに信じがたい話ではありますが」
「信じがたい、と言うのは?」
「ロキと出会った事。そして、生きて帰ってきたという事」
「同感です。まさか、アレと出会って生きて帰ってこれるとは。それだけで珍しいですからね。ただ、倒せなかったとは言ってましたね」
「倒す、倒せないの次元ではないバケモノですのに」


 二人の前には一杯のコーヒーが置かれており、それをジュリは手に取り、一度口をつける。


「ですが、そうなると残念な事になってしまいましたね」
「残念な事?」
「ほら、以前賭けをしていたじゃないですか。ジュリと」


 言われて思い出すジュリ。


「そういえば、そうでしたね……この場合どうなります? ユラさん」
「倒したわけでも、敗れたわけでも無い。まぁ、引き分けが妥当でしょうね」
「そうなると以前の賭けは……」
「無し、ですね。どちらも外れですから」


 今度は一文字が目の前にあるコーヒーに口をつけ、そのカップを静かに置く。


「さて、この関係もここで終わりにしますか?」
「しません」


 問いに対し、迷うことなくジュリは言う。


「確かに、ロキに関しての事はここで終わります。ですが、お互いの職業の関係上利益があるものと私は判断しております」
「それは、クラウン情報部責任者の判断という事ですか?」
「そう受け取ってもらって構いません。ユラさんはどう思いますか」
「実は私も同じ考えでした」
「え?」
「ですから断られた場合、どうやって取り繕うか悩んでいたんですが……助かりましたよ」
「ユラさん、最低。こういうのはそちらからお願いするべきではないですか?」
「では、お願いします」
「結果が分かってから言うのと、分からずに言うのでは全然重みが違いますよ!」


 ジュリは一文字の肩を小突く。むすっとするジュリとは反対に、笑みを浮かべる一文字。


「しかし、もしかしたら私が賭けに勝っていた可能性もあった事を考慮すれば、少し残念に思いますね」
「何がですか?」
「貴女が好きな男性を知る機会が無くなったからですよ」


 それに対し、冷静を装っていたジュリの顔が崩れる。どこか慌てる様子。


「ど、どうしてユラさんはそんな事が知りたいんですか?」
「貴女ほどの女性を好きにさせた男性。気にならない方がおかしいでしょ?」
「え! そ、それは……その」
「ですが、その男性には少し気の毒でなりませんね」
「それはどういう意味でしょうか? ユラさん?」


 ムッ、とした表情で聞き返すジュリ。


「それはそうでしょう。だって、貴女と肩を並べる相応しい男性になるというのは大変でしょうからね」
「ふえっ?」
「私なら、他の男性にとられないか気が気でなりませんよ」


 ジュリの顔は真っ赤になっていた。
 自分自身も顔が赤い事に気づいたのか、一文字から顔を反らして手を当てて必死にその熱を冷まそうとしていた。


「あ、あの……ゆ、ユラさん」
「ん? どうしましたジュリ?」
「私の、す、好きな人はですね……その、その!」


 想いの丈をぶつけようとした瞬間、間が悪く電話の着信音が響く。
 それはどうやら、ジュリの服から聞こえてきていた。


「電話、鳴ってますよジュリ」
「っ……! 分かってます! はい、もしもし!」


 乱暴にその電話に出るジュリ。


『あ、ジュリ管理官! 大変です!』


 電話の先から聞こえてくる女性の声。それはどうやらクラウン所属の部下である事がわかる。だが、電話の向こうからは切羽詰まったような声色であった。


「どうしたの?」
『今日、大事な会議がある事を忘れていませんか? 何か電話がひっきりなしにかかってくるんです!』


 あ、と大口を開けるジュリ。
 彼女は今日一文字に会う事だけを考えていた為、大事な会議がある事をすっかり忘れていた。


「その様子だと、急ぎの用事みたいですね」
「ご、ごめんなさいユラさん! この埋め合わせは必ず!」
「構いませんよ。また今度時間が合えば話でもしましょう……しかし、偶然と言うのは思いのほか起こりやすいものみたいですね。貴女と一緒に働いている時、何時も話をしていると、急な用事が入ってくるのを思い出しましたよ」


 それでは、と一文字はジュリに対して別れの挨拶と会釈をして店を出る。
 ジュリは知っていた。それが偶然ではない事を。
 彼女は何時も一文字と一緒に居た時、必ず良い所で他のちょっかいが入る事を。それは最早不幸体質と考える程に出来すぎたものであった。
 だからこそ、彼女は誰も邪魔が入らないように二人だけの空間を作っていた。
 恨めしそうに持っていた携帯をマジマジと眺めるジュリ。


「……今度から携帯の電源も確認しとかないといけないわね」




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