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太宰府・二日市編
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「愛されたいとも思ってないさ」
本心だ。
契約でファーストキスを奪った俺が、今更愛されたいと思うのは傲慢だと、わかっている。
「ただ今生ではあやかしのせいで死ぬところは見たくない、それだけだ」
「健気だねえ。姉君はすっかり強い狐になっているのに。貴方は一人の人間に執着しすぎてまだ一介の妖狐のままーーそういう愚かしさも実に人間のようで可笑しいね」
「そろそろ終わるだろ。早く楓を連れてこい」
「ところで」
徐福は話をそらす。
「気になることがあるのだけど」
「早く言え」
「あんな目立つ子がいたらすぐにお姉さんが気づくよね?」
こちらの表情を見て丸メガネの奥の目を細め、徐福は茶を飲む。
「……また、あやかしの柵に巻き込まれて、あの子が死なないといいけれどね」
襦裙姿の従業員がやってきて、彼に傅いて何かを耳打ちする。徐福は彼女に頷くと立ち上がり、くるりと回した煙管の吸口でこちらの顎を捉えた。
くい、と顎を持ち上げ、徐福は目を細めて笑う。
「忠告してあげよう。君はいいかげん、あの娘をどうしたいのか決めた方がいい。姉弟喧嘩に巻き込まれる前にね」
「ご忠告どうも。さすが女を誤解させて、泣かせて死なせた色男の言葉は身に沁みるね」
徐福の目尻がピクリと動く。
佐賀には徐福の悲恋伝説が言い伝えられている。恋仲になった女と別れる際、徐福は「5年後に戻る」と伝えたが「50年後」と聞き間違えられ、失意のあまりに女が命を落としたという伝説だ。方士として人間の生を捨てて生きる悲劇を、彼もまた知る男だ。
「じゃ、俺はいくぜ。もうあいつに絡むんじゃねえぞ」
立ち上がる俺を徐福は黙って見送る。
部屋を出ようとした瞬間、徐福は独り言のように最後にこう呟いた。
「菊井、ねえ。墓前に備える菊花に、井戸の井。井戸に命を散らした前世にぴったりだ。次に遊びに来たらぼたもちでも出してやろう」
本心だ。
契約でファーストキスを奪った俺が、今更愛されたいと思うのは傲慢だと、わかっている。
「ただ今生ではあやかしのせいで死ぬところは見たくない、それだけだ」
「健気だねえ。姉君はすっかり強い狐になっているのに。貴方は一人の人間に執着しすぎてまだ一介の妖狐のままーーそういう愚かしさも実に人間のようで可笑しいね」
「そろそろ終わるだろ。早く楓を連れてこい」
「ところで」
徐福は話をそらす。
「気になることがあるのだけど」
「早く言え」
「あんな目立つ子がいたらすぐにお姉さんが気づくよね?」
こちらの表情を見て丸メガネの奥の目を細め、徐福は茶を飲む。
「……また、あやかしの柵に巻き込まれて、あの子が死なないといいけれどね」
襦裙姿の従業員がやってきて、彼に傅いて何かを耳打ちする。徐福は彼女に頷くと立ち上がり、くるりと回した煙管の吸口でこちらの顎を捉えた。
くい、と顎を持ち上げ、徐福は目を細めて笑う。
「忠告してあげよう。君はいいかげん、あの娘をどうしたいのか決めた方がいい。姉弟喧嘩に巻き込まれる前にね」
「ご忠告どうも。さすが女を誤解させて、泣かせて死なせた色男の言葉は身に沁みるね」
徐福の目尻がピクリと動く。
佐賀には徐福の悲恋伝説が言い伝えられている。恋仲になった女と別れる際、徐福は「5年後に戻る」と伝えたが「50年後」と聞き間違えられ、失意のあまりに女が命を落としたという伝説だ。方士として人間の生を捨てて生きる悲劇を、彼もまた知る男だ。
「じゃ、俺はいくぜ。もうあいつに絡むんじゃねえぞ」
立ち上がる俺を徐福は黙って見送る。
部屋を出ようとした瞬間、徐福は独り言のように最後にこう呟いた。
「菊井、ねえ。墓前に備える菊花に、井戸の井。井戸に命を散らした前世にぴったりだ。次に遊びに来たらぼたもちでも出してやろう」
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