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太宰府・二日市編
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元の俺の主人、桜は霊力に振り回されて生きて、そして死んだ女だ。
強大な霊力で巫女として拾われ、霊力で600年の霊狐と使役関係になり。そして別れ。
彼女は巫女として姫城督を守って命を散らした。
霊力がなければ、巫女として拾われず、筑紫野の霊狐なんかと出会うこともなかった。
霊力がなければ、普通の女として生きられた。
霊力がなければ、呪いで命を散らすこともなかった。
ーー天正年間。
普通ではない桜は、普通の生き方を選べない時代だった。
けれど生まれ変わったこの時代ならば彼女も生き方も幸福の形も選べる。
霊力の使いこなし方を学び、彼女が「普通」に生きられるのならば、それが楓にとって最も幸福なのではないか?
それに。
楓にとって、自分は赤の他人だ。
俺にとって桜と楓は連綿と繋がる一つの魂だとしても、人間である楓にとって、桜と楓はノットイコールだ。
全く身に覚えのない前世を持ち出して、好きだと云うのが見当違いなことくらいーー人里に暮らして千年あまり、俺はとっくに理解している。
何度生まれ変わっても結局、俺は懲りずにあの変な女に惹かれている。
だからこそ不安になる。
楓に今回の人生でも、あやかしと霊力に振り回され続ける人生を歩ませるのか?
俺は自分の選択をズルズルと引き伸ばしていた。
甚大な霊力を持て余した彼女と、再び番になって共に生きるべきか。
もう普通の人生を得ている彼女ならば、霊力の問題を解決したらそっと「普通」の世界に帰すべきか。
「言える訳ねえだろうが。前世からお前が好きだった、なんて」
自分でも情けなくなるほど、ひとりごちた声音は弱かった。
いっそ元主人はお前だよ、と言ってやる方が親切なのだろうか。
けれど、俺の気持ちを知った楓がどう思うか。元主人を重ねている男に唇を奪われた事実にショックを受けやしないか。
もしくは許してくれたとしてもーー彼女がまた、「普通」の人生を捨てる事になったら?
井戸の底で死んだ桜を思い出す。
俺の知らない場所で、全てを引き受けて、どんなに苦しんで、一人で昏い水底で死んでいったのだろうか。
人間として規格外な力を持つ人間が、あやかしに入れ込みすぎると、死を招く。
知っているのに。愛しい女を守れなかった自分が、今世もまた、守れなかった女と一緒にいていいのか。
「よかねえよな、……やっぱり……」
信号が変わる。ハンドルを握りなおす。
まずは、あの商売敵から楓を取り返すのが先だ。
強大な霊力で巫女として拾われ、霊力で600年の霊狐と使役関係になり。そして別れ。
彼女は巫女として姫城督を守って命を散らした。
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霊力がなければ、普通の女として生きられた。
霊力がなければ、呪いで命を散らすこともなかった。
ーー天正年間。
普通ではない桜は、普通の生き方を選べない時代だった。
けれど生まれ変わったこの時代ならば彼女も生き方も幸福の形も選べる。
霊力の使いこなし方を学び、彼女が「普通」に生きられるのならば、それが楓にとって最も幸福なのではないか?
それに。
楓にとって、自分は赤の他人だ。
俺にとって桜と楓は連綿と繋がる一つの魂だとしても、人間である楓にとって、桜と楓はノットイコールだ。
全く身に覚えのない前世を持ち出して、好きだと云うのが見当違いなことくらいーー人里に暮らして千年あまり、俺はとっくに理解している。
何度生まれ変わっても結局、俺は懲りずにあの変な女に惹かれている。
だからこそ不安になる。
楓に今回の人生でも、あやかしと霊力に振り回され続ける人生を歩ませるのか?
俺は自分の選択をズルズルと引き伸ばしていた。
甚大な霊力を持て余した彼女と、再び番になって共に生きるべきか。
もう普通の人生を得ている彼女ならば、霊力の問題を解決したらそっと「普通」の世界に帰すべきか。
「言える訳ねえだろうが。前世からお前が好きだった、なんて」
自分でも情けなくなるほど、ひとりごちた声音は弱かった。
いっそ元主人はお前だよ、と言ってやる方が親切なのだろうか。
けれど、俺の気持ちを知った楓がどう思うか。元主人を重ねている男に唇を奪われた事実にショックを受けやしないか。
もしくは許してくれたとしてもーー彼女がまた、「普通」の人生を捨てる事になったら?
井戸の底で死んだ桜を思い出す。
俺の知らない場所で、全てを引き受けて、どんなに苦しんで、一人で昏い水底で死んでいったのだろうか。
人間として規格外な力を持つ人間が、あやかしに入れ込みすぎると、死を招く。
知っているのに。愛しい女を守れなかった自分が、今世もまた、守れなかった女と一緒にいていいのか。
「よかねえよな、……やっぱり……」
信号が変わる。ハンドルを握りなおす。
まずは、あの商売敵から楓を取り返すのが先だ。
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