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太宰府・二日市編
『天神さまのお膝元』
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梅雨明け宣言が発表された九州北部地方。今日はよく晴れた真夏日だ。
私は一人、私鉄電車に乗って太宰府まで来ていた。
太宰府。
おなじみ太宰府天満宮に、年号ゆかりの坂本八幡宮。九州国立博物館に、授与所がお洒落で某鬼退治でも有名な竈門神社。
古くから政治の中心地だったこの土地は、今でも福岡のアイコン的存在だ。
平日でも電車の中は観光客で混み合っていて、私は失礼にならない程度に周りを見回し感嘆を吐く。
ーー天満宮に近づくに連れて、明らかに人間以外のあやかしが見えるようになった。
耳がぴょこっと飛び出した獣のあやかしや、足元がふわふわと消えている女性のあやかし。手足が蛸の男性に、すごい長い髭を蓄えたおじいちゃん。……こんなに、あやかしって存在したのね……。
篠崎さん曰く、普段の私は篠崎さんの霊力で、なるべくあやかしが見えないようになっているらしい。
私はクライアントと待ち合わせしている喫茶店を目指し、真夏の参道を歩いた。
ーーー
二度目のキス以降も変わらず、篠崎さんはいつも通り平然と仕事をしている。
私は篠崎さんを見る度に、ぎこちない気持ちになるし、ドラマのキスシーンも観られなくなった。
意識しているのは私ばかりで、篠崎さんにとってはキスなんて「狐が噛んだ」程度のノーカンなのが、なんだか悲しい。
なんで悲しいと思うのかも、自分でよくわからない。私は自分のモヤモヤとした気持ちを持て余していた。
「そろそろ慣れただろ?」
「全く慣れないです」
「そうか? 仕事随分慣れてきたように思ってたんだが」
「あっ!? 仕事の話ですね!?」
「それ以外に何かあるかよ」
真っ赤になって慌てる私に、篠崎さんは怪訝な顔をしながら仕事を頼んできた。
「一件、太宰府の仕事を頼まれて欲しい。あやかしーーまあ、元人間だからあやかしというか、ちょっと曖昧なラインなんだが、その方の入職手続きを頼む。先方とは仔細確認済だから、後は最終確認と事務処理ってところだ」
「それを……一人で、ということですか?」
「ああ」
入社してすぐに対応した、糸島の磯女ーー雫紅さんの件は完全なイレギュラーだった。そもそもは既に移住が完了していたあやかし、清音さんの御用聞きという名目だったからだ。これ以外の仕事は大抵、篠崎さんの同行つきで行っていた。
もう既に事前に色々決まっている仕事とはいえ、珍しく完全に1から10まで自分で対応することになる。
「そういえば……太宰府といえばあの人がいますよね。お知り合いですか?」
「あの人?」
「すがわ、」
「言うな!!!!!」
私が名前を言いかけた瞬間、真っ青になった篠崎さんが口を塞ぐ。
「もご!?!?!」
私は一人、私鉄電車に乗って太宰府まで来ていた。
太宰府。
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平日でも電車の中は観光客で混み合っていて、私は失礼にならない程度に周りを見回し感嘆を吐く。
ーー天満宮に近づくに連れて、明らかに人間以外のあやかしが見えるようになった。
耳がぴょこっと飛び出した獣のあやかしや、足元がふわふわと消えている女性のあやかし。手足が蛸の男性に、すごい長い髭を蓄えたおじいちゃん。……こんなに、あやかしって存在したのね……。
篠崎さん曰く、普段の私は篠崎さんの霊力で、なるべくあやかしが見えないようになっているらしい。
私はクライアントと待ち合わせしている喫茶店を目指し、真夏の参道を歩いた。
ーーー
二度目のキス以降も変わらず、篠崎さんはいつも通り平然と仕事をしている。
私は篠崎さんを見る度に、ぎこちない気持ちになるし、ドラマのキスシーンも観られなくなった。
意識しているのは私ばかりで、篠崎さんにとってはキスなんて「狐が噛んだ」程度のノーカンなのが、なんだか悲しい。
なんで悲しいと思うのかも、自分でよくわからない。私は自分のモヤモヤとした気持ちを持て余していた。
「そろそろ慣れただろ?」
「全く慣れないです」
「そうか? 仕事随分慣れてきたように思ってたんだが」
「あっ!? 仕事の話ですね!?」
「それ以外に何かあるかよ」
真っ赤になって慌てる私に、篠崎さんは怪訝な顔をしながら仕事を頼んできた。
「一件、太宰府の仕事を頼まれて欲しい。あやかしーーまあ、元人間だからあやかしというか、ちょっと曖昧なラインなんだが、その方の入職手続きを頼む。先方とは仔細確認済だから、後は最終確認と事務処理ってところだ」
「それを……一人で、ということですか?」
「ああ」
入社してすぐに対応した、糸島の磯女ーー雫紅さんの件は完全なイレギュラーだった。そもそもは既に移住が完了していたあやかし、清音さんの御用聞きという名目だったからだ。これ以外の仕事は大抵、篠崎さんの同行つきで行っていた。
もう既に事前に色々決まっている仕事とはいえ、珍しく完全に1から10まで自分で対応することになる。
「そういえば……太宰府といえばあの人がいますよね。お知り合いですか?」
「あの人?」
「すがわ、」
「言うな!!!!!」
私が名前を言いかけた瞬間、真っ青になった篠崎さんが口を塞ぐ。
「もご!?!?!」
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