66 / 145
中洲編
急転直下。猛禽の神様と、舞い降りる水神様。
しおりを挟む
篠崎さんは沢山の鬼火を纏わせ、闇夜に浮かび上がるように佇んでいた。
篠崎さんが来てくれた。
安堵で膝が笑いそうになるのを堪え、私は引き続きICカードを構え続ける。
主任が忌々しげに舌打ちした。
「どうして、私の事を一本尻尾の霊狐如きが……」
「あんたと違って、こっちは行き当たりばったりで生きてないものでね」
篠崎さんは鬼火を手に取り口付けながら、ゆっくりと此方に近づいてくる。
「下級の水術を使う巫女。巫女としてはあり触れた術だが、犯人を辿れない訳じゃない。そこの楓みたいなイレギュラー以外は、大抵の能力者は特別な家系育ちだ」
ちらりと私に目を向け、そして再び彼は話を続ける。
「この土地は『天神様のお膝元』。福岡に精通した巫女なら絶対やらかさない場所だ。つまり、通り魔巫女は、土地勘のない、下級水術を使う巫女。そこから目星をつけて、県庁の土木課の知り合いに問い合わせれば、素性はすぐにわかる」
「あやかしと……公務員が、繋がっているって言うの?」
「表向きは払い払われの関係だがな。まあ、大人の事情ってもんさ。土地の謂れや霊力についてはあやかしの方が熟知している事も多いんだ」
篠崎さんは片目を眇めて笑う。
「あんたの事はご親戚がすぐに話してくれたぜ? 島の本家の生まれでありながら、水神に選ばれなかった巫女。巫女として失敗作扱いされて妹に当主を奪われ、公務員試験も落ちて、やけくそになって縁故頼りで福岡に就職したが、自分の立場に納得できないまま会社も辞め、今はふらふら通り魔巫女ってわけだ」
「知ったふうな口を……私が、どれだけ苦しんできたのか、知らないくせに」
「苦しんできた、それがどうした」
鋭く否定した篠崎さんは私の隣に立ち、更に力強く言葉を続けた。
「あんただって、あんたが傷つけたあやかしが何を考え、生きてきたか知らねえだろ。あんたが勝手に拗らせて攻撃している、菊井楓もそれなりに苦労してきてんだ」
篠崎さんの手が、ふわりと私の肩に触れる。
その優しい気遣いに胸がぎゅっと苦しくなる。彼は真剣に、主任に向かって反論した。
「特別な血だから楽に生きられる訳じゃねえって、あんたなら知ってるはずだ。楓も自分の能力で「普通」に生きられず苦労してきた。それでも長所を伸ばして、必死に自分らしく人の役に立とうと努力してる。あんたも現実を見て、地に足を付けて頑張ったらどうだ」
顔が真っ赤。
「うるさい、うるさいうるさい! じゃあ私は、どうしろって言うのよ!」
衝撃波が飛ばされる。
しかし、篠崎さんが口の中で何かを呟くだけで、衝撃は反射して主任に跳ね返る。
「きゃっ……!!」
へたり込んだ主任に、私は訴えた。
「お辛い気持ちはきっと色々あるんだと思います、けれど、人の幸福を否定してちゃ……先には進めませんよ!!」
その時。
「そうじゃ。巫女よーー自分を認めて、そこからできることを探していく為に島を出たのではないのか?」
篠崎さんが来てくれた。
安堵で膝が笑いそうになるのを堪え、私は引き続きICカードを構え続ける。
主任が忌々しげに舌打ちした。
「どうして、私の事を一本尻尾の霊狐如きが……」
「あんたと違って、こっちは行き当たりばったりで生きてないものでね」
篠崎さんは鬼火を手に取り口付けながら、ゆっくりと此方に近づいてくる。
「下級の水術を使う巫女。巫女としてはあり触れた術だが、犯人を辿れない訳じゃない。そこの楓みたいなイレギュラー以外は、大抵の能力者は特別な家系育ちだ」
ちらりと私に目を向け、そして再び彼は話を続ける。
「この土地は『天神様のお膝元』。福岡に精通した巫女なら絶対やらかさない場所だ。つまり、通り魔巫女は、土地勘のない、下級水術を使う巫女。そこから目星をつけて、県庁の土木課の知り合いに問い合わせれば、素性はすぐにわかる」
「あやかしと……公務員が、繋がっているって言うの?」
「表向きは払い払われの関係だがな。まあ、大人の事情ってもんさ。土地の謂れや霊力についてはあやかしの方が熟知している事も多いんだ」
篠崎さんは片目を眇めて笑う。
「あんたの事はご親戚がすぐに話してくれたぜ? 島の本家の生まれでありながら、水神に選ばれなかった巫女。巫女として失敗作扱いされて妹に当主を奪われ、公務員試験も落ちて、やけくそになって縁故頼りで福岡に就職したが、自分の立場に納得できないまま会社も辞め、今はふらふら通り魔巫女ってわけだ」
「知ったふうな口を……私が、どれだけ苦しんできたのか、知らないくせに」
「苦しんできた、それがどうした」
鋭く否定した篠崎さんは私の隣に立ち、更に力強く言葉を続けた。
「あんただって、あんたが傷つけたあやかしが何を考え、生きてきたか知らねえだろ。あんたが勝手に拗らせて攻撃している、菊井楓もそれなりに苦労してきてんだ」
篠崎さんの手が、ふわりと私の肩に触れる。
その優しい気遣いに胸がぎゅっと苦しくなる。彼は真剣に、主任に向かって反論した。
「特別な血だから楽に生きられる訳じゃねえって、あんたなら知ってるはずだ。楓も自分の能力で「普通」に生きられず苦労してきた。それでも長所を伸ばして、必死に自分らしく人の役に立とうと努力してる。あんたも現実を見て、地に足を付けて頑張ったらどうだ」
顔が真っ赤。
「うるさい、うるさいうるさい! じゃあ私は、どうしろって言うのよ!」
衝撃波が飛ばされる。
しかし、篠崎さんが口の中で何かを呟くだけで、衝撃は反射して主任に跳ね返る。
「きゃっ……!!」
へたり込んだ主任に、私は訴えた。
「お辛い気持ちはきっと色々あるんだと思います、けれど、人の幸福を否定してちゃ……先には進めませんよ!!」
その時。
「そうじゃ。巫女よーー自分を認めて、そこからできることを探していく為に島を出たのではないのか?」
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
下宿屋 東風荘 6
浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*°☆.。.:*・°☆*:..
楽しい旅行のあと、陰陽師を名乗る男から奇襲を受けた下宿屋 東風荘。
それぞれの社のお狐達が守ってくれる中、幼馴染航平もお狐様の養子となり、新たに新学期を迎えるが______
雪翔に平穏な日々はいつ訪れるのか……
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆
表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
久遠の呪祓師―― 怪異探偵犬神零の大正帝都アヤカシ奇譚
山岸マロニィ
キャラ文芸
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
第伍話 連載中
【持病悪化のため休載】
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
モダンガールを目指して上京した椎葉桜子が勤めだした仕事先は、奇妙な探偵社。
浮世離れした美貌の探偵・犬神零と、式神を使う生意気な居候・ハルアキと共に、不可解な事件の解決に奔走する。
◤ 大正 × 妖 × ミステリー ◢
大正ロマン溢れる帝都・東京の裏通りを舞台に、冒険活劇が幕を開ける!
【シリーズ詳細】
第壱話――扉(書籍・レンタルに収録)
第弐話――鴉揚羽(書籍・レンタルに収録)
第参話――九十九ノ段(完結・公開中)
第肆話――壺(完結・公開中)
第伍話――箪笥(連載準備中)
番外編・百合御殿ノ三姉妹(完結・別ページにて公開中)
※各話とも、単独でお楽しみ頂ける内容となっております。
【第4回 キャラ文芸大賞】
旧タイトル『犬神心霊探偵社 第壱話【扉】』が、奨励賞に選ばれました。
【備考(第壱話――扉)】
初稿 2010年 ブログ及びHPにて別名義で掲載
改稿① 2015年 小説家になろうにて別名義で掲載
改稿② 2020年 ノベルデイズ、ノベルアップ+にて掲載
※以上、現在は公開しておりません。
改稿③ 2021年 第4回 キャラ文芸大賞 奨励賞に選出
改稿④ 2021年
改稿⑤ 2022年 書籍化
母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―
吉野屋
キャラ文芸
14歳の夏休みに、母が父と別れて田舎の実家に帰ると言ったのでついて帰った。見えなくてもいいものが見える主人公、麻美が体験する様々なお話。
完結しました。長い間読んで頂き、ありがとうございます。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
片翅の火蝶 ▽半端者と蔑まれていた蝶が、蝋燭頭の旦那様に溺愛されるようです▽
偽月
キャラ文芸
「――きっと、姉様の代わりにお役目を果たします」
大火々本帝国《だいかがほんていこく》。通称、火ノ本。
八千年の歴史を誇る、この国では火山を神として崇め、火を祀っている。国に伝わる火の神の伝承では、神の怒り……噴火を鎮めるため一人の女が火口に身を投じたと言う。
人々は蝶の痣を背負った一族の女を【火蝶《かちょう》】と呼び、火の神の巫女になった女の功績を讃え、祀る事にした。再び火山が噴火する日に備えて。
火縄八重《ひなわ やえ》は片翅分の痣しか持たない半端者。日々、お蚕様の世話に心血を注ぎ、絹糸を紡いできた十八歳の生娘。全ては自身に向けられる差別的な視線に耐える為に。
八重は火蝶の本家である火焚家の長男・火焚太蝋《ほたき たろう》に嫁ぐ日を迎えた。
火蝶の巫女となった姉・千重の代わりに。
蝶の翅の痣を背負う女と蝋燭頭の軍人が織りなす大正ロマンスファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる