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本編
いちわ
しおりを挟む「殿下、毎日マリアさんを部屋に呼ぶのは…」
「うるさい! お前は文句しか言えないのか? はぁ、マリアはこんな女にならないでくれ。ありのままの君が好きだから。」
「ほんとですか~? マリア嬉しいです!」
茶番のように私の目の前で抱き合うふたり。こんな公衆の面前で何を考えているのでしょうか。
マリアさんというのは元は平民の方で殿下の計らいで伯爵家の養子となりました。殿下曰く互いに一目惚れなさったそうです。マリアさんは可愛らしい顔をされているのですが、腹の中は真っ黒のようです。先程も私の方を見て勝ち誇ったような笑みを浮かべておりました。
そう言えば、マリアさんは殿下に指輪が欲しいと言い殿下はそれに応えるため指輪を贈ったそうですが、マリアさんはその指輪を拒否したそうです。なぜならマリアさんが欲しかったのは殿下が私にくれた指輪のようでした。そのせいで私は殿下に指輪を返せと言われました。指輪はもちろんお返ししましたわ。あんな大きなダイヤモンドは好みではありませんから。
それでも私たち昔は仲が良かったんですよ? マリアさんと出会う前までは、ですけど。
「朝から何事ですか?」
「っ、失礼する。」
殿下はマリアさんを連れて寝室に戻ってしまいました。あれでは貴族の方たちになんと言われるか…。
「ルイス様、どうされましたか?」
第2王子であらせられるルイス様は何故か私を見たまま固まってしまいました。私の顔に何か着いているのでしょうか? 顔をぺたぺた触っているとルイス様が、口元を押さえて笑いを堪えています。
「失礼。何も着いていませんよ。では。」
私は、ルイス様にカーテシーをしてお見送りを致しました。それにしても殿下には困ったものです。
あっ、殿下に名前で呼ばないのに対して、ルイス様には名前で呼ぶのはなぜかと疑問に思われた方もいらっしゃると思うので説明させていただきます。それら簡単です。本人に名前を呼ぶなと言われたからです。私たちは幼なじみで昔からよく遊んでいました。お互いに、レオン、リリア、と呼びあっていましたが殿下に言われては拒否できません。そのため、殿下の言う通りにしたのですがその翌日からマリアさんを城に連れてくるようになったのです。
「お嬢様、朝食の準備が出来ました。」
「では、お部屋に。」
「準備しております。」
セシルは気が利く人ですね。この男性はセシルといい、私の従者です。実は奴隷だったのですが、脱走していたところは私が保護致しました。確か、私が3歳の頃ですね。ルイスたっての希望で従者見習いを数年続け、私が15歳の頃、正式に私の従者となりました。
セシルのおかげで奴隷商売をしていた人を捕まえることが出来ました。環境の悪い所で生活していたからなのかもしれませんが、セシルはたまにすごく口が悪くなります。敬語は外さないのでそれは教育者の賜物なのでしょう。
「お嬢様、早くあの浮気野郎と婚約を解消しましょう。それが無理なら俺の手で…」
「それ以上はダメですよ、セシル。あれでも一応王子なのです。それに、お父様に迷惑はかけられません。」
この国に公爵家は4つあります。そのうちの一つが私の実家である、ハート家。他に、クローバー家、スペード家、ダイヤ家があります。基本は公爵家の中から王族の伴侶を選ぶのですが、歳の近い女性がわたししかいなかったようで、殿下以外には婚約者はおられません。噂では王子たちに好きな人がいるとも聞きますが。
私の父は現在、宰相をしており、陛下直々に婚約を拝命されたそうです。それだと断れないのは明らかですよね。殿下が私に一目惚れしたようでこの婚約は成立し、約10年間婚約者を務めていました。
私たちはもう17歳です。女性からするともう少しで適齢期が過ぎてしまいます。
ちなみに第1王子であるアーサー様は23歳、第2王子であるルイス様は19歳、第4王子であるライゼン様は15歳です。ライゼン様は来年成人なさいますね。
「お嬢様がよければ俺はいつでも攫います。」
「ふふっ、セシルも冗談を言うようになったのですね。セシルにそんなことを言わせるなんて私は主人失格です。」
「そんなことありません!」
「冗談です。セシルを扱えるのは私だけですもの。セシルは私のものですわ。」
セシルは顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。セシルは本当に反応が面白いですわね。
「お嬢様、好きです。」
「私もですよ。」
セシルは、毎朝こういってくれます。それと同時に…
あ、今日もため息をつかれました。
私、何か余計なことを…?
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