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十五話 私という毒

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 執務室の扉を叩き、すぐに開ける。誰も入れるなと言っているのなら、返事を待っても入れてくれるとは思えなかったからだ。

「失礼します」

 慣れない淑女の礼を、中にいるルーファス陛下に向ける。ちらりと様子をうかがうと、思いっきり眉間に皺が寄っていた。

「帰れ」
「いいえ、帰りません。用があって来ましたので」

 その帰れが、用意された部屋になのか、国なのかはわからないけど、どちらにも帰る気はない。

「用、だと……?」
「はい。庭園の手入れを手伝う許可をください」
「駄目だ」

 間髪入れず返ってきた答えに、私は口を尖らせる。
 毒の調合には毒草が必要だ。鉱石とかでも調合できなくはないけど、手間も機材もいる。
 小屋から持ってきた道具で扱えるのは毒草だけだ。

「許可をいただけるまで、ここから動きません」

 毒草を育てる許可をくれるか私を殺すまで、てこでも動かないつもりだ。
 返事を待つことなく、執務室に置かれたソファに腰を下ろす。その柔らかさに思わず立ち上がりかけたけど、必死に堪える。
 ルーファス陛下の前、執務机の上には山のように書類が積まれている。仕事に戻るためにも、私を追い出したいだろう。

「……ならば無理矢理にでも帰らせるだけだ。ついでに馬車に押しこんで、お前の国に帰そうか」
「帰らされてもまた来るだけです。私はこの国に嫁いだ身なので」
「そんな細い体で長距離の移動を何往復もして、耐えられると思っているのか」
「耐えられるとか耐えられないとか、関係ありません。耐えるしかないので」

 お母さまが寝こんでから毎日世話をしていたけど、お母さまが目覚めることはなかった。
 だけど薬姫であるお姫様なら、お母さまを目覚めさせることができるかもしれない。
 そしてお母さまが目覚めた時に私がいては、お母さまはまた泣くだけの毎日に戻ってしまう。

 それだけは嫌だった。

 王様とお姫様は大変仲睦まじい夫婦だった。だけどある日、喧嘩をしてしまった。
 原因がなんだったのかは関係ない。ただ、王妃様と言い合いになった王様は苛立ち、銀に近い灰色の髪をしたお母さまに八つ当たりをして――結果、お母さまは私を身ごもった。

 当時、子爵家の娘だったお母さまには将来を約束した婚約者がいた。だけど身ごもった状態で嫁ぐことはできず、お母さまは一人、生家である屋敷で私を産んだ。

 お母さまにとって不運だったのは、産まれた私が妖精眼の持ち主だったことだ。
 王様からされた仕打ちを黙っていたお母さまだったけど、妖精眼の赤子を見ればその父親が誰であるかは一目瞭然。

 そして私はすぐに王様の子として城に迎えられ、その母親であるお母さまも城に閉じこめられた。

 王様にとってはたった一度の過ちの証。王妃様にとては夫の不貞の証。そしてお母さまにとっては、将来を奪った証。
 誰にとっても毒にしかならなかったのが、私だ。

 つまり、私の居場所など最初からどこにもない。あるとすれば、神様のところだけ。
 それなのにルーファス陛下は私を殺す素振りを見せてくれない。なら、私にできるのは毒を作り、自分で飲むことだけだ。
 私はこれまで通り、頑張って死ぬことしかできない。

「ルーファス陛下、私に庭園の使用許可をください」
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