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38.魔物の行方2

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 あまりにも唐突な報告に、一瞬だけど頭の中が真っ白になる。

「そ、それは……大丈夫、なの?」

 ミュラトール領を管理しているお父様と会ったのはほんの一日前。魔物が逃げこんだ、という報告を受けているようには見えなかった。
 だから今日か、昨日の夜に魔物が逃げこんだのだろう。こちらに報告が来たということは、お父様のところにも報告はいっているはず。

「分裂型の魔物のようなので……時間がかかりすぎなければ、恐らくは」

 不安要素は残るけど、今日明日で甚大な被害が出るような話ではないようなので、ほっと胸を撫で下ろす。

「まあ、すでに数を増やしているようなので、魔術師に依頼してくれればの話ですが。昨日のこともありますし、即決即断は難しいでしょうね」

 だけど続いた言葉に、胸の前で手を握る。
 お父様やお母様、アニエスに思うところがないわけではない。だけどそれは家族の問題で、領地で暮らす人たちには関係ない。
 できることなら早く依頼を出してほしいけど、それを決めるのはお父様だ。

「一応、今回は他領から逃げてきたものなので、依頼料はそちらとの折半になる、というのは伝えてあります。それと……先日お邪魔したあなたの家から馬車が出たのも確認したので、遅くても一週間ほどで依頼がくるとは思いますよ」

 一週間。分裂型の魔物は、一体だけでも数を増やしていく。少しだけならそこまで脅威ではないけど、増えれば増えるほど、討伐が難しくなる。何しろ、一体でも取り逃せば無限に増える。
 ただ、増える速度は個体ごとに変わるので、今回逃げこんだ魔物がどのぐらいの速度で増えるのかはわからない。
 それでも、遅くても一週間ということは――それぐらい経てばどうにもならない事態になる、ということだ。

「ここからが本題なんですが……依頼がきた時や事態が急変した時には知らせたほうがいいですか?」
「それは……ええ、そうね。教えてくれると助かるわ」

 何か起きた時に――たとえ何もできなくても、教えてもらえたほうがいい。
 領地や領民は大丈夫か。やきもきしながら過ごさずに済む。連絡がないのなら大丈夫なんだと、そう思えるから。

「わかりました。それでは本日は失礼します。ゆっくり休んでください」

 小さく頭を下げてから通り過ぎようとするノエルの腕を、思わず掴む。

「どうかしましたか?」
「……すぐには、落ち着けそうにないの。だから少しでいいから、話し相手になってもらえると、助かるのだけど……もちろん、フロラン様の手伝いとかあるなら、そちらを優先してもらって大丈夫だから」

 私にできることは何もない。それはわかっているけど、どうしても不安が拭えない。一晩眠れば、連絡が来るまではと切り替えられると思う。でも聞いたばかりの今は、何かできることはないかとか考えてしまう。
 だから少しでも気を逸らせれば。そう思ってのお願いに、ノエルは快く頷いてくれた。
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