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21話

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 私の真摯な思いが伝わったのか、ルーファウス殿下は少し考えるようにしてから、重々しく口を開いた。

「……焼き物でもくれてやれ。前に一度、サイラスと共にアシュクロフト家を訪れたことがある。そのときに飾られていたものをあいつは気に入っていた。……子供が作った拙い品だと言われたが……譲ってもらい、今も飾っている。……あれは、お前が作ったものだろう」

 コンラッドが勝手に飾り、見つかって回収されるまでに何人かの客人の目に触れた。それで話が進み、販売するにまで至ったのだという陶器。そのひとつが、サイラス様の目にも留まっていたのか。

 販売することになったのも、私の作ったものの出来がどうこうではなく、目当たらしい土質のものだったからというだけだ。
 六歳やそこらの子供が作った陶器なんて、本当にひどい代物だったと――我ながら思う。そこに味わいがあると評価していた人もいたらしいけれど、それでも拙い作品であることに変わりはない。

「……ご存じだったのですね」

 そんな未熟な作品が誰かに譲られ、しかも飾られているなんて。羞恥心で今すぐここから逃げ出したい。でもそんなことはおくびにも出さないように涼しい顔をして、苦笑を浮かべる。

「ですが、今の私は子供のときのような感性は持ち合わせておりません。ただの素人が作ったものをいただいても、嬉しくないのではないでしょうか」
「…………そんなことは、贈ってみなければわからないだろう」

 ものすごく嫌そうな顔で言われても、説得力は微塵も感じられない。ルーファウス殿下も私の言葉に納得したのだろう。だけど一度口にしたからには撤回するのも癪とか、そんなことを思っていそうだ。
 焼き物については横に置いておいて、ほかに何か候補はないかと聞こうとして――

「なんの話をしているのかな?」

 なんとも爽やかな声が飛びこんできた。

「サイラス……たいした話はしていない」

 その声に真っ先に反応したのはルーファウス殿下だった。声のしたほうを見て、そこに優雅に立っている彼を見つけ、肩をすくめている。
 サイラス様の誕生日はたいした話だ。少なくとも、私とルーファウス殿下にとっては。

 それなのにごまかすということは、贈り物については黙っておきたい、ということなのだろう。
 事前に知らせるよりも当日に彼の欲しいものをあげて喜ばせたい。そんなことを考えていそうだ。

「……本当に?」

 サイラス様が私を見て、問い詰めるように――貴公子風なのであからさまではないが――首を傾げた。

「ええ。サイラス様が陶器を飾られているというお話を聞いただけです」

 下手にごまかせば、後々深く追求されそうだ。ならば潔く、一部だけ明かすとしよう。陶器はルーファウス殿下に直接関係なく、私の恥なだけなので、羞恥心でのたうちまわりたくなるのも私だけで済む。

 それなのに顔を赤くさせたのは、私ではなくサイラス様だった。

「い、いやそれは……他意があるわけではなく、ただ目に留まっただけで……」
「え、ええ。お気に召していただけて、光栄です」

 本当に気に入っているのであれば、拙い作品だと言うのはサイラス様の感性にケチをつけることになる。だからお礼の言葉だけを口にした。
 それだけのはずなのに、サイラス様はなぜか顔を手で覆い、俯いてしまった。

 普段の――貴公子の仮面を被ったサイラス様はもちろん、仮面を捨てたサイラス様もやりそうにない挙動に、思わずルーファウス殿下と目を見合わせてしまう。
 彼も私と同じように目を丸くしていた。
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