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10・11月篇

10・11月篇第4話: 話の流れをうまく操作できなくて困ってます

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 当初の予定が完全に大崩壊状態。ふたりには気付かれないように、口の中でため息をぐるぐると回す。空気を読んでよ、とまでは言わないけど、ちょっとだけ察して欲しいようなところはある。

 こっちはパソコンを使っているから私のスマホはフリーの状態だけど、京都に繋げられるのはユウイチのスマホだけ。とんしかけている私の予定を伝えておくこともできない。

 ――もうこれ、詰んじゃったでしょ。あーあ、どーしよ。

 部活の話で男子たちが盛り上がっているのを余所に、おおっぴらにため息をついてしまおうかなんて思っていた、丁度そのタイミングだった。

『ジュンイチー? どしたのー?』

『なにしてるの?』

 初めて聞く声だった。そんなことを思う間もなく、画面には女の子がふたり。

「お、なんか画面が華やかに――痛っ!」

 シュウスケくんが何かを口走った瞬間に、エリカが足首辺りをひっぱたいたらしい。パチンといい音が聞こえてきた。

「今さ、ユウイチの幼なじみの子たちとビデオ通話してるんだよ」

「へー、そうなの?」

 ジュンイチくんが答えるよりも少し早いくらいで、彼を『ジュンイチ』と呼んだ女の子がその彼の首に腕を巻き付けるようにして抱きついた。ぱっと明るい笑顔とえくぼが可愛らしいクセの少ないショートヘアの女の子。髪の毛にまで性格が出ているような印象だった。

「アズサは見せつけるなぁ」

「ハヤトくんもマナにやればいいのよ」

 楽しそうなハヤトくんに対して、ジュンイチくんに抱きついた女の子――アズサちゃんも負けてない。ハヤトくんと、その隣に居る女の子――マナちゃんに笑顔で言い放った。マナちゃんもアズサちゃんに負けず劣らずのかわいさ。こちらは美人系。ふんわりとしたミディアムロングは少しだけブラウンを入れているのだろうか、それとも地毛なのだろうか。ちょっとうらやましかった。

「え、オレからなの? そのパターンなら逆じゃないか?」

「あれ? ハヤト、してくれるの?」

「ばか言え」

「ざーんねん」

 そんなことを言いながらも、ハヤトくんとマナちゃんの距離はかなり近かった。

 ――これって、もしかして?

「ねえねえ」

『ん?』『ん?』『ん?』

 私が訊くより早くエリカが口火を切った。ユウイチ、ハヤトくん、ジュンイチくんの返事がシンクロした。

「えーっとね、ユウくん以外の男子ふたりにしつもーん!」

「私も同じく」

 ここは素直に乗っかっておく。

『仲間はずれにして悪いな、……ユウ、くん?』

『……んにゃろう』

 じっとりとした視線をハヤトくんに送りつけるユウイチ。もっともハヤトくんは全然気にしていない。『へえ、ユウくんって呼ばれてるんだ』『なんかカワイイ』などと女子ふたりからユウイチがイジられている内に。

「エリカ、たぶん考えてる事同じよね?」

「ってことは、ルミも?」

 そう訊いてくるということは、9割くらいで正解かな。主導権を取り戻す意味でも、私が訊いてしまおう。ジュンイチくんとアズサちゃん、ハヤトくんとマナちゃんを、それぞれ交互に指差しながら。

「そのふたりと、そのふたりって、お付き合いしてるの?」

『付き合ってるよ』『うん!』『いや、まだ』『ううん、まだ』

 肯定したのは、ジュンイチ・アズサ組。

 否定とは違う雰囲気だったのは、ハヤト・マナ組。

「そうなんだー! お似合いだなーっておもってたら、やっぱりー」

『オレら4人も幼なじみなんだよ』

「そうなの!? へー! いいなぁー」

 ――ん? 『いいなぁ』?

 これは爆弾発言では? なんてことを思ったのは私だけらしい。

 シュウスケくんは幼なじみだと言われたことに感心しているような雰囲気だけど、それだけ。エリカは恋バナができていることにただ満足しているような喜び方だった。

「ところで、そちらの『まだ』っていうのは?」

『それはノーコメント』

『同じくー』

『……まぁ、これは俺からも言えないな』

『私も言わないでおくー』

 ジュンイチくんもアズサちゃんも、そっちのふたりについて何らかの事情は知っているらしいけれど、それでも満更でもないような雰囲気ということは、くっつく日も近いような気がした。

「それにしても4人で幼なじみって、何だか俺らと似てるんだな」

「違いとしては、そちらはみんな同じ高校なのね」

『そうだな、そっちは……まぁ、バラバラなのか。ユウイチだけここに居るところ見ると』

『まぁ、そうな。女子ふたりは同じだけどね』

『え、どこ高?』

 話がこちらに向いてきた。

おううん女子だよー」とエリカが返答。

『おー! あそこ制服カワイイよねー! ふたりとも絶対似合うんだろーなー。ね、ね、どうくん。そうなんでしょ! 似合ってるんでしょ!』

 さっきから、アズサちゃんの勢いがスゴい。あと、同じくさっきからずっとジュンイチくんの首に抱きついたままだ。エリカもこのぐらい――

『まぁ、カワイイよ』

「……え」

「ちょっとー、ユウくんどしたの!」

『照れんなユウくん』

『だからお前はそれをやめれっての。……何かお前に言われると腹立つな』

『何でよユウくん』

『ジュンイチまでやめてくれ。あと、照れてはいないからな』

 そう言いつつも、ユウイチの顔は少し赤い気がした。京都がこちらより少し気温が高いとか、そういうことではない理由で。

『ところでー。そっちは誰かと誰かが付き合ってるとかはないの?』

『やっぱ、訊かれたら訊き返さないとだよね』

『お、おい。ちょっと』

「ないない!」「ないない!」

 シンクロ。

「こんなやつとなんて!」「こんなやつとなんて!」

 また重なる。

「何で同じ事言うんだよ!」「何で同じ事言うのよ!」

 いやもう、ホントに。そんなベタなアニメかライトノベルか的な展開。

 お願いだからくっついて、ってば。

『……ははは』

『なんというか』

『……時間の問題よね、これってきっと』

『見覚えのある展開だわ』

 つきかり高校幼なじみーズも仲良く呆れていた。

『あれ? そっちは……』

『まあ、いいや。そろそろ僕らも移動する時間だから、通話切るぞ?』

「え、もうそんな時間なの?」

 アズサちゃんが何か言いたそうだったけれど、ユウイチの言葉がそれを遮った。部屋の掛け時計を見れば、確かにそろそろイイ時間。

「ほら、シュウスケ。そろそろ帰んなよ。明日も部活でしょ?」

「あー……、まぁ、そうか。うん」

 何となくシュウスケくんも歯切れが悪い。これだけ話が弾んだ上で、自分ひとりが帰るとなれば仕方ないかも知れない。名残惜しい感じが存分に溢れている返事。

 何てことを思っていたら、アズサちゃんがとんでもないことを口にした。

『エリカちゃん、そうイケズなこと言わないであげなよー。彼、寂しそうだよー?』

「だ、誰が『彼』かっ!!」

 エリカの絶叫。

『ちょー待て。頼むから、通話切る直前で夫婦喧嘩は止めてくれよ』

「誰が夫婦だ! 誰が!」

 今度はシュウスケくんの絶叫。

 頼むからとか言いながら、焚き付けたのはユウイチ本人だと思うのだけど。

『ああ、そうだ。お土産のことちょこちょこ気にしてたから、ヒントだけ言っておくからな。最初は夫婦茶碗にしようと思ってたんだけどさ、……まぁ、それなりのモノを選んだつもりだから、期待しておいてくれよー』

 そして、追い打ちを掛けるようなユウイチの言葉を最後に、通話が切られた。

 一瞬で、エリカの部屋が無言に包まれる。険悪とかそういうことではなくて、でも何て表現したらいいのかよくわからない静けさ。理由のない静寂だった。聞こえるのは互いの呼吸音が少しだけ。あとは、パソコンのファンの音だけ。

「……俺、帰るわ」

「う、うん……。気を付けてね」

「さんきゅ」

 微妙な空気のふたり。

「明日またね」

「おう、ありがと」

 私にも似たような返しだった。

「とりあえず、下行こっか」

「……そうね」

 私とエリカも、似たように気まずかった。

 ――予定が台無し!!



     ○



 ちなみに。

 帰ってきたユウイチは、旅行後の休日2日間の内の片方を私たちに割いてくれた。旅行後は体調を崩しやすいユウイチのことだから、本当はきちんと身体を休めて欲しかったけれど。『お土産渡さないと休めない』とまで言われてしまったら、それは飲むしかない。

 大層なことを言って私たちを煽っていたモノの、おみやげは大半は案外シンプル。
『家族みんなで分けてね』ということで、食べ物系として生八ツ橋のいろんな味が入ったものと、お好み焼きソース――せっかく広島も行ってきたし、とのこと――をそれぞれの家に。

 小分けの袋はそれぞれにということだったが、シュウスケくんには七味唐辛子の缶、私とエリカにはリップバームだった。カワイイ巾着に入っていて、「よくわかってるなー」なんて思ったのだけど、これはとある男子の意見を取り入れたのだとか。――誰だろう、そんなステキなアイディアの持ち主って。

 そして、今度は小物ということで渡されたモノは『絶対に、それぞれの部屋で、ひとりで開けてくれ』という指令がある代物だった。3人分、すべてそれなりに大きめの袋になっていて、外からでは何もわからなかった。

 ということで、今は23時過ぎの自室。

 袋の外から触ってみるが、何やら堅い物が入っている。箱っぽい。これでは何か予想は出来ない。仕方ないので開封してみる。

「わ……」

 中に入っていたのは、つばき油と、お香。

 結構高かったんじゃないの、と少し心配になるくらいの雰囲気。

 冬の足音も近付いてきて少し髪のケアが気になっていた頃合い。

「悪くないセンスしてんじゃん、ユウイチ」

 自分たちの修学旅行の時のハードルがちょっと上がった気がした。



     ○



 さらに、ちなみに。

 ユウイチは振替休日である翌朝のこと。

 エリカとシュウスケくんがものすごくお怒りムードだったので話を訊けば、共通のプレゼントが入っていたとのこと。

 別にいいじゃん、なんてことを思っていたらその正体は、『家内安全・夫婦円満』と書かれたしゃ。広島・宮島のお土産とのこと。

 ――なるほどね。

 ふたりの愚痴を延々右から左へ受け流しながら、私はユウイチをちょっとだけ恨むことにした。
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