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7月篇

7月篇第1.5話: 続・学校祭の準備がハードで困ってます

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 最寄り駅に着く頃には早くも時計の針は19時を回っていた。片付けの作業に手間取らなければもう少し早く帰れるはずだったのだが、なかなかそう巧くはいかないものだった。

「ん?」

 次の電車待ちの間に着信をチェック、と思えば、シュウスケからの着信が1件あった。

 中身はとてもシンプル。

 ――『マンガの新刊買いたいんだけど』

 ――『この前の本屋に行きたいから、また付き合ってくれ』

 なるほど。アイツも味を占めたと見える。

 とくに断る理由もないので、スタンプで承諾。

 待ち合わせの場所は任せるという話なので、前回と同じほしのみやちゅうおう駅の改札口を出たすぐのところに設定した。

 10分程度地下鉄に揺られれば、中央駅。ホームから階段を上がって行けば、すぐシュウスケは見つかった。同時にあちらの方も僕を見つけたらしく、こちらに手を振ってきた。しきりに改札口の方を見ているシュウスケは気がついていないのだろうが、少し離れたところに居る女子のグループ3つほどが、何かをこそこそと話しあってはすぐにシュウスケの方を見る、ということを繰り返している。

 ――残念だなぁ。がいるんだよなぁ、彼には。

 そんなことを思いながら近付けば、シュウスケは少しげんな顔をする。

「何ニヤニヤしてんだよ」            

「いンや、別に。それより、早く行こう。明日は始発で学校行かなきゃいけないし」

「俺の部活より早い、って、それやっぱやべえよ」

「いいんだよ、割と楽しいんだから」

「……まぁ、お前がそういうなら、いいや」

 シュウスケはシュウスケで心配してくれているらしい。

 これは、意地でもぶっ倒れられないな。



     ○



 今回もしょを見たシュウスケは目をキラキラさせていた。何なら大好きなマンガだらけであるこのフロアに居る今日の方が明らかにテンションが高そうだ。本人はそれをダサないようにがんばっているようだが、そんなことは到底できてはいない。小学生みたいだな、とも思ったが、きっと初めて自分がここに来たときの目と同じなんだろうなぁ、と考えれば、そのツッコミは要らない気がした。

「専門書以外もすげえな、ここ」

「前回は敢えて連れてこなかったしな」

「何でだよ」

「だったら訊くが、シュウは専門書を買う前にここに来た後で素直に専門書の棚に行けるか? 買った後で寄ったとしてすぐに帰れるか?」

「……ん、否定できないのが悔しいな」

「大丈夫だ、僕もそうなる」

 目的のモノは、新刊コーナーにばっちり平積みになっていたので、すぐに見つかった。奥の方に長く伸びている棚の方にも興味を引かれていたシュウスケだったが、さきほどの僕の明日の予定は念頭に入れてくれていたらしく、後ろ髪を掴んでくる手を何とか払いのけてくれた。こういうところを解ってくれるヤツなのだ。

「もう慣れたろ?」

「おう、だいぶどこに何があるかは解ってきた」

 ほくほく顔で戦利品をカバンに入れる。

「でも、ユウイチにはこれからも付き合ってもらうわ」

「何でだよ」

「いやー。だって、楽しいし?」

 ――何だ、その殺し文句は。さわやかに笑って言うな、そういうことは。

「そのパターンは映画と似てるな、何か」

「あー……、言われてみりゃそうかもなぁ」

 妙にニコニコとしているシュウスケ。ハイテンションとはまた違う、なにかが振り切れてしまっているような感じ。あまり見たことがない顔だ。

「……シュウさぁ」

「ん?」

「何か、変わったよな」

「そうか?」

「映画とか、これとか。中学のころとか、そんな感じじゃなかっただろ?」

「ああ。まぁ、そうな」

 高校に入って、今のような通学体系になって、そこから2ヶ月後。『映画に行こうぜ!』と言われたときは、こいつなんか変なモンでも喰ったのか、と思った。

「それを言ったら、ユウイチだってわりと変わってきたと思うぞ?」

「そうか?」

「うん」

「……まぁ、お前が言うなら、そうなのかもな」

 何がどう変わったのかはわからないが、シュウスケの言うことだ。信じてみよう。

「まぁとにかく、シュウがいいなら、本でも何でも付き合うよ。その代わり、こっちが何か欲しい本有ったときには付き合ってもらうからな」

「おう、サンキュー」



     ○



「そういえばさ」

「ん?」

 ほしのみやおおどおりさんばんがい駅からいつもの私鉄線に揺られて、地元へと帰ってきたタイミングで、シュウスケが口を開いた。

「学祭の3日目、お前のクラスで何やるのか訊いてなかったなぁ、って思って」

「ああ、そういや言ってなかったな。何かお前らがいつも通りに言い合い始めたから」

「うるせえ。……で? 何やンの?」

「喫茶」

「何喫茶?」

 コイツは。ただの喫茶室なんかやるわけがないと確信してるな。ただのカマ掛けの可能性は否定できないが、それでも当たってるだけに何ともいえない気持ちになる。

 とはいえ、ここで隠してもほとんど意味はない。

「……執事喫茶」

「へえ……」

 シュウスケは、何故か僕の全身を一旦見直すように視線を動かした。そして満足そうに肯いて、

「それ、ルミちゃんに言った?」

「言った」

「……いや、何であっさりネタバレしてんだよ、お前」

「別にイイだろ、減るモンでもないし。お前にも今言ったじゃん」

「ふーん。いやまぁ、別にいいや」

 そう言ったきり、住宅街のいつもの角で別れるまで会話は無かった。

 ――何なんだ、まったく。



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