19 / 19
四、錬金術師の花園
ノアの手記
しおりを挟むーノアの手記ー
序
将来私の身に何かあった時のため、これまでの人生をここに記すことにする。
願わくば、子供たちがこれを読んだ先に自身が生まれた意味を見出してくれるように。
はじめに、私は王都の貧民街にある貧しい家庭に生まれた。
毎日の食事にも困るほどの貧しさではあったが、その生活があったおかげで今でも困窮した暮らしに耐性があると思うと悪いことではなかったのだろう。
そんな家に生まれた私だが、幼い頃から錬金術の才には恵まれていた。
野草と古い鍋を使い、初めてマトモな薬を作った時には父も母も驚いたものだ。
しかし私の錬金術の腕が上がるにつれ、周囲の態度は変わっていった。
貧民街で流行病が発生すればその度に薬を作ったが、一部の住人が『薬を売るために病気を流行らせた』と噂し、家に石を投げ込むようになった。
もちろん私は否定した。
流行病は貧民街の不衛生が理由で、薬の代金は材料費しか貰っていないと。
しかし私の言葉は誰も理解し貰えなかった。
そしていつしか、血を分けた家族でさえも私を遠ざけるようになった。
その数年後、私は居場所の無くなった家を捨てた。
噂を聞き付けた物好きな貴族が、私を王都の錬金術研究所にスカウトしたのだ。
王都の研究所は設備も人材も完璧で、私の考える錬金術の理論を最後までしっかりと聞いてくれた。
それは私の人生で初めての経験で、初日は嬉しさのあまり徹夜で語り尽くした程だ。
…だが、その繋がりはあくまでも錬金術のみ。
この頃から私は『自分の人柄を理解してくれる家族』が欲しいと思うようになった。
そこで私が目をつけたのは錬金術の目的の一つである技術…『生命の創造』。
王都では主に労働要員、または軍事力としての人工生命体を創り出そうとしていたが、私が欲しかったのは『真なる人間』、そして『家族』だ。
そこで王都で命じられた研究を進めながら、自宅では自分のための研究を行った。
…しかし、生命の創造は容易ではない。
何度も失敗し、その度に生まれて来れなかった子供達を秘密裏に葬った。
やめてしまおう、と思ったこともある。
しかしここで止めれば、これまで葬ってきた子供たちの存在が無意味になってしまう。
そう自分自身を奮い立たせ、心身ともに追い込み、私は実験を続けた。
何百回という実験を重ね、ようやく生命創造への道筋が見えてきた頃…私は王都の研究所から立ち去った。
もし生命創造…ホムンクルスが完成したとして、せっかく生まれた子供を他人の研究のために好き勝手にはさせたくなかったからだ。
それから王都を離れた私は街を転々とした。
ひとつの街に滞在するのは数年と決め、『家族』を創る為の研究を続けた。
何度目かの引越しの末に1人目の子供…モーリスが生まれた時、私は感動のあまり嗚咽を漏らしながら涙した。
これまでに葬ってきた子供たちに謝罪と感謝を述べながら、モーリスの濡れた体を優しく抱きしめたのをよく覚えている。
そしてその後も失敗を重ねながらも、私は新たなホムンクルス…エルドレッドとヴィヴィアンを誕生させた。
『家族』の存在は私を大いに満たしてくれた。
しかしそれと同時に不安を感じることもある。
『家族が欲しい』という身勝手な理由で産み出された彼らは、私を恨んではいないだろうか?
またはいつか遠くない未来、私が死んだ後に残される彼らは生きる意味を見出してくれるのだろうか?
もしも彼かが私を責め立てた時、そして私が死を悟った時、私は………
『お父さま、お食事が出来ましたよ』
「む、もうそんな時間か」
ふとドアの向こうからモーリスの声が聞こえ、私は筆を止める。
そしてインクが乾くのを待ってから手記を閉じると同時に部屋のドアが開いた。
「パパ、はやくはやく!」
「こらヴィヴィアン。ノックもなしに部屋に入ってはいけません」
「いや、構わない。待たせてしまったのは私だからな」
可愛く微笑むヴィヴィアンに腕を引かれ、廊下に出ればそこには穏やかな表情のモーリスと無言でこちらを睨むエルドレッド。
「早くしろ。メシが冷める」
「今日はお父さまの好きなとうもろこしのシチューですよ」
「僕もお手伝いしたんだよ!」
三者三様の反応を見せる子供たちに、私は思わず笑みをこぼす。
(…家族、か…)
幼い頃にはほとんど得られなかった心の温もり。
例えそれが自己満足の末に創り出されたものだとしても、私にとってはこれが本物の家族だ。
私は握られた手に力を込めながら、家族達と共に歩を進めるのであった。
………………………………………………………………
空き缶太郎初の健全短編、これにてひとまず完結とさせていただきます。
色々と重たい表現を交えてみたかったのですが、普段書くものとのテンションの違いが露呈してかなりの難産でした。
以後はまた短編で不健全なものを中心に書いていきますのでよろしくお願いします♡
0
お気に入りに追加
301
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
良い(੭˙꒳˙)੭
R-18版も見てきますε≡ヘ( ´Д`)ノ
めっちゃ面白いです♡
好きな感じで、何回も読み直してます(⸝⸝⸝ᵒ̴̶̷ - ᵒ̴̶̷⸝⸝⸝)
この続きってありますかね??
ご感想ありがとうございます!
こちら続編は書いていないのですが『空き缶太郎のBL短編集 1冊目』の方にifの話として父親総受けのR18短編を書いております(・ω・)ノ
3人それぞれの愛を見ることができて楽しかったです!特に父に危険が迫ると人間とは違う感覚が垣間見えてしまうっていうの大好きです。ありがとうございました(*'▽'*)