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第一部/3組目・親子の冒険者

閑話:襲来!エロトラップダンジョン!

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…アレクとブレアが脱落して半日。

録画していた映像を魔石に移して量産していたダンテは、入口から聞こえる足音に手を止めた。


「だ、ダンテさま!あの子は?あの処女の子は!?」

息を切らせながら飛び込んできたのはお使い帰りのキール。
『処女の子』…ブレアの行末が気になり、大急ぎで帰ってきたようだ。

しかし……


「あぁ、あの挑戦者達ならもう脱落して外に追い出したぞ」
「そ、そんな…!」

ダンテからあっけらかんと言い放たれた結果に、キールは思わずその場に崩れ落ちた。

…しかも四つん這いで崩れ落ちたまま情けなく泣き声を漏らしている。

「うっうっ…聖職者で処女、それも可愛い女の子なんて最近超貴重なのに…」
「そうなのか?」
「そうですよ!!…言うなれば淫魔界のショートケーキ!老若男女問わずみんなが大好きな逸材ですよ!!」
(うるさい……)

半泣きで力説するキールに呆れのため息を吐きつつ、ダンテは1つの魔石をキールに差し出した。

「はぁ…そこまで言うならこれを渡しておこう」
「これは…?」

大きさは手のひらに乗る程度。
真ん丸な形をした魔石にキールは小首を傾げる。

「先程の親子のダンジョン攻略の様子を録画したものだ。それで我慢しろ」
「映像かぁ…まぁ、ないよりマシですけど…」

唇を尖らせ文句を垂れながらも、キールは尻尾を期待にゆらゆらと揺らしながら椅子を座り魔石に魔力を込めた。

ーーブォン…

魔力を受けた魔石はプロジェクターの様に映像を映し出し、同時に録音されていた音声も流し始める。



「お。最初はこの部屋か……って、ガストラップ喰らったの父親の方かぁ…」


「今度はローパーのモンスターハウス!うへへ…やっぱり触手は……って、下着盗まれたの父親の方か!」


「更衣室!ビキニアーマーの女戦士もいいけど、聖職者にも………………」


「………………………………」(目を覆う)



…数時間後。
最後まで映像を見終えたキールは複雑な感情に唇を噛み締めていた。


「…違う…俺が求めてたのはこういうんじゃなくてぇ……」
「その割には最後までしっかり見ていたようだが…」
「最後くらいちょっとエッチなシーンがあるかと期待してたんですぅー!…一応下着とかお尻とかは見えてましたけど、それ以上にデカすぎるが……」

脳裏に焼き付いたブレアの『ご立派様』にキールは頭を抱えた。

「なんだろ…ショートケーキを求めてたのに大量の唐揚げが出てきたような……」
「分かりにくい例えをする暇があるならダンジョンの整備に迎え。次の挑戦者が来るまでに完璧に仕上げなければな」
「はぁい…」

悔しさや悲しさでくしゃくしゃになった顔を隠しもせず、キールは転移の魔法陣の方へトボトボと歩いていく。

ダンテはそれを見送ることなくまた映像の複製作業に戻った。


だが……


ドンッ

「いたっ!」
「ん?」


部屋に小さく響いた何かがぶつかる音。
それと『聞きなれない少年の声』に、ダンテは思わずその声の方に振り向いた。

「あいたた……」
「おやぁ?誰かと思えばじゃないですか!久しぶりですねぇ」
「っ、お、お前なぁ!人にぶつかっておいて第一声がそれって……」

キールに向かってキャンキャンと吠える少年。
外見こそ10代半ばの幼さを残す姿だが、彼が帯びる魔力は彼が魔人であることを示していて…


「……『ダリル』?」


それは同じ『ダンジョンメーカー』の血筋の魔人にしてダンテの

若きダンジョンメーカー…ダリル・D・ダンヴァーズだった。

「ええ、ダリルぼっちゃんですよ!いやぁ、こうして会うのは100年ぶりぐらいですかねぇ…その割に背は伸びてないっぽいですけど」
「う、うるさい淫魔!僕はそこの『ろくでなし』に用があって来たんだ!」

『ろくでなし』、とダンテの方を指さしながら声を張り上げるダリル。
しかしダンテは相変わらずの無表情でダリルの暴言を聞き流していた。

「…それで、ダンヴァーズ家のが俺に何の用で?」
「ふんっ。お前がこの辺りに新しいダンジョンを作ったと聞いて、どんな下らないものか見に来てやろうと思ってな」

兄であるダンテを見下し、ダリルは嘲笑うかのような表情を見せる。

…ダリルがこのようにダンテに対して当たりが強いのにはある理由があった。


それは今から120年ほど前。
ダンヴァーズ家長男として生まれ、稀代のダンジョンメーカーに成長したダンテが突如『人族を殺さないダンジョンを作る』と宣言したことに起因する。


『だ、ダンテ!お前は何を言っているのか分かっているのか!?ダンジョンメーカーとしての使命を忘れたか!』

『とんでもない。ただ…今のやり方のようにひたすら人を殺すダンジョンを作っていれば、いずれダンジョンに挑む人間が居なくなってしまう。それでは先がないと察しただけだ』

『っ、何を馬鹿なことを…お前は勘当だ!!使い魔共々、ダンヴァーズ家から出ていけ!!』

『あぁ。…元よりダンジョン作成に区切りがついたら早々に出ていくつもりだった』


家族に責め立てられ、ダンヴァーズ家から縁を切られたダンテ。

しかしそのダンテが残したダンジョンはあまりにも優秀で、ダリル他ダンヴァーズ家の誰もが『敵わない』と理解していた。

…そして、それがダリルには到底許せなかった。


「下らないもの、か…どうやらダンヴァーズ家は相変わらずのようだな。…頭の固い連中だ」
「っ…お前程の才能の持ち主が、どうして…」

ため息を吐くダンテに拳を震わせるダリル。
気まずい空気に、キールは思わずダリルの肩を叩く。

「ま、まぁまぁ。ダリルぼっちゃん、せっかくこっちに来たんですからダンジョン見学していきません?」
「…………て…る」
「え?」

小さい声で何かを呟くダリルにキールは小首を傾げる。

そして……


「お前が作った下らないダンジョンなんて、この僕が簡単に踏破してやる!!そして…僕の方が優秀だって思い知らせてやるんだ!!!」


その宣言に、キールは目を見開きダンテは僅かに顔を上げた。




 
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