ホラー短編集

金城sora

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バイクの怪

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アレは4年前の夏。



時間は夜の12時、ブラックな企業で終電を過ぎることもしょっちゅうなので俺はバイク通勤で職場の近くの駐輪場に停めていた。



いつもの様に仕事の帰り道、バイクを停めている駐輪場に向かいポケットの鍵を探しながら歩く。



「アレ?」



いくら探しても鍵が見当たらない。



上着のポケットにもズボンのポケットにもない。



「マジかよ」



職場に忘れたか?



いや、大抵はポケットから鍵を出すことは無い。



今日もポケットから鍵を出した記憶はない。



以前にこういう鍵がポケットに見当たらない時はバイクに差しっぱなしにして忘れているという事が何度かあった。



今朝は雨が降っていたのでカッパを脱いでからバイクに干し、その後鍵を抜いてポケットに入れるのを忘れたんだろう。



雨の日はよくやってしまうのだ。



祈るような気持ちで足早に駐輪場に向かう、遠目に見ても鍵が刺さっているのが見えた。



「なんだよクソっ」



キーが挿さっていたのに悪態をついたのはバイクが倒れていたせいだ。



キーがあったことにとりあえずホッと胸を撫で下ろしてバイクを起こし、バイクに干してあったカッパを拾って手早くリヤボックスにしまい込み、ステップに置いてあったヘルメットを被ってキーを回そうと捻るがキーが回らない。



「ん、アレ?」



何度か力を入れるが回らない、そこで気付いた。



キーがオンの位置にあるので回らないのだ。



「あークソっ、やっちまった」



天を仰いだ。



キーがオンの位置にあるとスクーターはヘッドライトがつきっぱなしになる、案の定、何度セルスタートボタンを押してもバッテリーが上がっているのでうんともすんともいわない。



どうするか・・・



近くのガソリンスタンドまで結構ある上に時間も時間だから人がいるかも分からない・・・



「仕方ない、とりあえず行ってみるか」



そこまで行ってやっていなかったらそこにバイクを置いて帰ろう。



そう思って俺は125ccのスクーターを大きな溜め息をつきながら押し始めた。



自分の馬鹿さ加減が恨めしい。



歩きながら思案する、駐輪場に着いた時にエンジンを切ったのになんでまたエンジンキーがオンの位置に回っていたんだろうか?



カッパをかけた時に当たったのか?



いや、メットインを開ける時に回す方を間違えたんだろう、それぐらいしか可能性は無い。



今日はついてない、朝はバイクを停める時に後輪で駐輪場の隅にずっと置きっぱなしになっている誰のかも分からないバイクカバーを踏んで雨で濡れていたのかタイヤが滑り思い切りバイクをこかしてしまった。



その時に脛すねを嫌という程打った。



悪いことは続くもんだな・・・



夕方まで雨が降っていたせいでジメジメとしていて暑い。



背中は汗でびっしょりだ。



少しでもショートカットをしようと公園の中をバイクで押して通る。



入ってすぐに後悔した、公園の地面はぬかるんで歩きにくい事この上ない。



最初は力強く押して進んでいたバイクもどんどんと重く感じてくる。



にしても重いな、やけに重い。



車輪になにかついてるんだろうか?



俺は真っ暗な公園の中にバイクを停めて車輪を見る。



「なんだこれ?」



雨で濡れているのとは別の黒い何かでタイヤの側面がべっとりとしていた。



指先で触ってみると糸を引くように指につき、ねちゃねちゃとしていた。



臭ってみると酷く生臭い。



見ればタイヤの側面だけでなくホイールにもベッタリと付いていた。



「なんだこれ、血か?」



言ってからゾクッと背筋に悪寒が走った。



その瞬間、バイクのブレーキランプが光り、ウインカーがカチっカチっと点滅した。



なんだっ!



バッテリーが上がってるのになんでランプが光るんだ!?



スピードメーターの針が行ったりきたりを繰り返す!



そして



ぎいぃいぃいぃいぃーーーーー



とナニかの声高い悲鳴の様な鳴き声が響き渡った!



浮かせてあった後輪がぐるぐると凄まじい勢いで回転して辺りに血のような液体を撒き散らした!



その液体を体中に浴びると生臭さと鉄臭さで鼻がおかしくなりそうになった!



その間もずっと



ぎいぃいぃいぃいぃーーーーー



と言う動物の悲鳴の様な鳴き声は響き続けている!



俺は悲鳴も上げれないほど怖くなってバイクを置いて走って帰った。



途中でタクシーを拾って家に帰り、服を見ると浴びたと思っていた血の跡が全く無かった。



疲れているのかと思い、気持ち悪かったのでスーツをゴミ袋に突っ込んでシャワーを浴び、飯も食わずに泥の様に眠った。



次の日は電車で職場に向かって黙々といつもの様に業務をこなしていた。



「ねぇ、○○君。 アナタ、バイク通勤だったよね?」



職場の余り喋ったことの無い、同期の石田さんに声をかけられた。



昨日の今日で嫌な記憶が頭に過ぎる。



「はい、今日は電車で来ましたけど」



「変な事聞くけどさ、最近動物轢かなかった?」



「いやっ、轢いて無いですけど」



俺は思わず声が上ずった。



ナニか見えてるのか!?



「そう?」



「はい、でも、なんでですか?」



冷や汗が背中をつーっと落ちていくのを感じる・・・



「ううん、勘違いだったみたい。 ゴメンね」



そう言って逃げるように足早に去っていった。



昼休み、俺は駐輪場に足を運んだ。



走っていて動物を轢いた覚えはない。



だけど・・・



バイクをこかした時にガシャンと言う音の他に聞いた気がするのだ。



あの



昨日聞いた甲高い



動物の悲鳴の様な声を



それはほんの一瞬の声だったが



ぎいぃっ



という声を。



俺は聞こえなかった振りをして半ば慌ててそこを離れた



考えれば、昨日はヘルメットをメットインに入れていないからメットインを開けていない。



キーを間違えて回すような事はしていない筈だ



だから、



キーをオンに回す筈がない



駐輪場につき、



俺は恐怖で浅く早く呼吸しながら





俺は昨日バイクをこかして下敷きにした置きっぱなしになっている古いバイクカバーの前に立った。





ソレには黒い染みが広がっていた





恐る恐る







端を摘んでゆっくりと引っ張った。







バイクカバーの下には







グチャグチャになったイタチが苦悶の表情で死んでいた
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