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42話〜幻魔剣ヘルカイザー

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「これは魔界に伝わる魔剣の中でも至高の物だ。 幻魔剣・ヘルカイザー。魔力を込めれば実体のある自らの分身体を生み出すことが出来る」

 バーンダーバが幻魔剣・ヘルカイザーに魔力を込めると黒い霧が剣から流れ出てバーンダーバの隣に集まったかと思うとそこにバーンダーバがもう1人出現した。

「どうだ? 迷宮の遺物ラビリンスレリックに匹敵する魔法具のハズだ。 これでここにいる奴隷を全て私が引き取る」

 バーンダーバの圧に押されるように奴隷商人が幻魔剣を受け取る。

「いや、私は国にここを任された商人だ。 そう簡単には・・・ それに、これが本物かどうかも私にはわからんし」

 奴隷商人はバーンダーバの圧に押されながらしどろもどろになっている。

「なら、魔力を込めてみろ。 誰でも魔力さえあれば出来る、それでその魔剣の真偽が分かるはずだ」

「私に魔力は無い」

「ならば、そこの者。 兵隊なら使えるハズだ」

 先程、棒でアビー親子を殴ろうとしていた男にバーンダーバが話を向ける。

 棒男は自分を指さして奴隷商人の方を見る、奴隷商人は頷いて魔剣を男に差し出した。

 棒男は魔剣をおずおずと受け取った。

「魔力を込めてみろ、自分の分身体が生まれるハズだ」

 バーンダーバが男を睨みつける。

 心中が穏やかでは無い。

 棒男が魔力を流し込むと黒い霧が生まれ、そこに棒男とまったく同じ顔、同じ背格好の人間が具現化された。

「うおぉ、本当に出た・・・」

 棒男が息を飲む。

「分身体に動きを念じてみろ、簡単に意のままに動かせる」

 バーンダーバに言われて棒男が自分の分身体を動かす。

「おお! 凄い!」

 分身体はジャンプしたり棒男の周りをぐるぐると回ったり。

 棒男の意のままに動いた。

「本当に簡単に動きますよ!」

「大量の魔力を込めれば10体でも100体でも生み出すことが出来る、同時に動かすには使用者の訓練も必要だがな」

 バーンダーバの話を聞いて奴隷商人が首を捻る。

「分かった、いいだろう。 あの魔剣とここの奴隷を交換しよう、ここには200人程の奴隷がいる。 全て、で、いいのかな?」

 奴隷商人が確認するようにバーンダーバを見る。

「無論だ」

「分かった、釣りは出ないが構わんかな?」

「構わん、心遣い感謝する」

「おい、待て待て。 奴隷商人殿、せめて食料を付けて貰えんか? あの魔剣ならそれくらい構わんだろう」

「はっはっは、アンタは苦労しそうだな。 いいだろう、ここにある奴隷用の食料は大してないが。 全部くれてやろう」

 奴隷商人は嬉しそうに笑っている。



 ======


「おい、バン!! 奴隷達をどうするつもりだ!?」

 カルバンが怒鳴る。

 今、一行はノインドラの街を出て街の近くの原っぱにいる。

 奴隷達は商人から貰った食料を食べている。

「私は奴隷は必要ない、無論、彼らは解放する」

「解放?」

 カルバンは訝しげな顔になる。

「そうだ、彼らを自由にする」

「それで?」

「ん? それでとは?」

「彼らはどうなるか聞いてるんだ」

「自由だ、畑を耕し、獲物を取り」

 言いかけたバーンダーバの胸ぐらをカルバンが乱暴に掴んだ!

「どこでどうやってそれをするって言うんだ!? 彼らはそれをする場所を失ったからあそこにいたんだぞ! このままここに放り出してみろ! 1週間で全員野垂れ死にだぞ!」

「なに!? なぜそうなる!?」

「貴様はそんな事も分からずに奴隷を買ったのか!」

 胸ぐらを掴む手にさらに力が籠る。

 フェイが行こうとするがフェムノに『待て』と止められた。

 ロゼとセルカも成り行きを眺めている。

「いいか、戦争に負けて小国家シュルスタは滅んだ。 ノインドラの属国になるんじゃなく滅んだんだ、家も土地も失った彼らは人に飼われるか死ぬしかない。 たとえ自由になったとしても、誰かに面倒を見てもらわないと死ぬしかないんだよ! 何も無いこんな場所に放り出してみろ、もう一度奴隷として自分を売るか、死ぬしか道はないぞ!」

 カルバンはバーンダーバの胸ぐらから手をはなして身振り手振りで自分が何をやったのかをバーンダーバの教えようとしている。

 そこまで言われてやっとバーンダーバは事の重大さに気付いた。

 森に入れば食料もあるかもしれない、だが、そこには魔物もいる。

 戦う手段の無い彼らには森で食料を手に入れる事ができない。

 比較的安全な平地で土地を耕せば作物は実るだろう、だが、植える物も無ければ収穫まで食い繋ぐ食料も持っていない。

 このまま、バーンダーバの言う(自由)だけを与えられても、カルバンの言う未来しか彼らにはない。

「カルバン、どうすればいい? 私は彼らを助けたい、力を貸してくれ」

 バーンダーバの言葉に、カルバンは目を閉じて俯き首を左右に振った。

 それは断るという意思表示では無く、(やれやれ)というこの先を思っての不安を表していた。

「分かった・・・ できる限り力になろう」

「カルバン、恩にきる」

 バーンダーバは深々とカルバンに頭を下げた、顔を上げると満面の笑みを浮かべている。

 バーンダーバの笑顔を見たカルバンは力無くフッと笑った。
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