上 下
20 / 58

20話〜商都襲来

しおりを挟む
「それで、魔弓の、どうやって大量の食料を手に入れんだい?」

レッドドラゴンの住処を出て山の斜面を歩きながらロゼがバーンダーバに尋ねる。

「今は冒険者をしながら金の稼ぎ方を覚えているところだ、ある程度纏まった金額になったら他のことを始めようと思っている。 それと、私の事はバンと呼んでくれ」

「あぁ、分かったよ。 バン、それにしても、レッドドラゴン一族が唯一恐れる男が現界で冒険者をやってるなんて傑作だね。 よし、せっかくだからアタイも冒険者になろうか」

ロゼはなにが面白いのかニヤニヤと笑っている。

「そうか、それではまたダイナスバザールに戻るとするか」

「どこだいそりゃ」

「ここから走って2日程の距離だ」

バーンダーバが大体の方向に指をさす。

「めんどくさいね、アタイの背中に乗んなよ。 運んであげるよ」

ロゼが言いながら既にレッドドラゴンに姿を変えていた。

大きさは人間2人が乗るのに丁度いい程の大きさだった。

「器用だな、大きさを調整出来るのか。 城で見たのが最大なのか?」

《そうだよ、さぁ、早く乗んな》

バーンダーバがロゼに跨る。

「空を飛ぶんですか、その、ちょっと、怖いというか」

引きつった顔でフェイが空を見てからロゼを見る。

「つべこべ言ってないでさっさと乗んな、早くしないと咥えて飛ぶよ」

ロゼが長い首を曲げてフェイの方を見る、フェイはロゼの牙を見てさらに顔が引きつった。

「ロゼ、そんな言い方はないだろう。 フェイ、怖いならやはり走って帰るか?」

バーンダーバがフェイを気遣う。

「・・・ いえ、乗ります」

バーンダーバの顔を見て、意を決したようにフェイがロゼに跨る。

「大丈夫か? フェイ」

「はい、邪魔にはなりたくないので頑張ります」

ギュッと目を瞑っている。

《ふふ、さぁ、行くよ。 しっかり掴まってな!》

ロゼが地面を強く蹴ると一瞬で視界が上へと飛ぶ!

「きゃあぁぁっ」

フェイが悲鳴を上げてバーンダーバの腰に抱きつく。

『懐かしいな、龍の背中なんぞ、魔族として人間と戦っている頃以来だ』

フェムノが昔を懐かしむように呟いた。

「ほう、フェムノが人間だった頃か。 いや、人間では無いのか」

『どっちでもいい、時にバーンダーバよ、お主道案内はちゃんと出来るのか?』

「大丈夫だ、ロゼよ、もう少しだけ左に進路を取ってくれ」

《あいよ》

ロゼは殆ど羽ばたくこと無く大空を進んでいく。

「魔力で飛んでいるのか?」

《そうだよ、最初に飛び立つ時と降りる時くらいだね。 羽ばたくのは、フェイ、どうだい? ちょっとは慣れたかい?》

フェイは相変わらず目を瞑ってバーンダーバの背中に顔を埋めている。

そのまま顔を左右に振る。

《あはは、それじゃあ慣れるもんも慣れないよ。 ちょっと周りを見てご覧よ、結構、いい景色だよ》

フェイは言われて少し目を開けた。

周りを雲が浮いている、遥か下に見える地面の景色は不思議とゆっくり過ぎていくように感じる。

「意外と、素敵ですね・・・」

《そうだね、アタイも外をこんな風に飛び回るのは初めてだよ》

「それは、使命があったからですか?」

《そうさ、アタイはあの穴ぐらから遠くへ離れる事は許されなかったのさ。 フェイ、あんたのお陰で出られたよ。 あんがとね》

「いえ、そんな」

「凄いな、もう見えてきたぞ」

眼前に綺麗な円の塀に囲まれた都市が見えてきた。

「上から見るとあんな風になってたんですね」

《どの建物だい? 冒険者ギルドってのは》

「うむ、南門があれだから、大通り沿いの・・・ アレだな、石造りの剣と靴とマントの描かれた旗の立っている」

バーンダーバが指を指し示す。

「よく見えますね、バン」

フェイには遠すぎて全く分からない。

「弓手は目が良いからな」

《あれだね、行くよ》

「えっ!? このまま行くんですか!? 大騒ぎになりますよ!」

《いーじゃないか、アタイだって冒険者になるんだ。 毎回歩いてなんて面倒臭いしね》

「だが、街中は中々に見物だぞ」

《それじゃあまた今度観光するよ》

ロゼはどんどんと冒険者ギルドに向かって高度を下げていく。

ロゼに気付いた道行く人々が叫びながら逃げていく。

長閑な夕暮れの街並みが突然に阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

泣き叫ぶ子供、それを庇う母親。

死を覚悟しながらも剣に手をかける冒険者。

バサッバサッと凄まじい風を巻き起こしながらドシンと降り立った。

足を付けたとほぼ同時にロゼはカッと光を放って人間の姿に変じていた。

「邪魔したね」

それだけ言うとロゼは何事も無かったように冒険者ギルドの中へと入っていった。

道端の人々は残ったバーンダーバとフェイを凝視している、その顔は狐につままれたようなものだ。

・・・

・・・・・・

「失礼した」

バーンダーバはそれだけ言ってギルドへと入っていった、フェイもそそくさと後に続く。

ギルドの外はしばらく、誰も動くことなく固まっていた・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔銃士(ガンナー)とフェンリル ~最強殺し屋が異世界転移して冒険者ライフを満喫します~

三田村優希(または南雲天音)
ファンタジー
依頼完遂率100%の牧野颯太は凄腕の暗殺者。世界を股にかけて依頼をこなしていたがある日、暗殺しようとした瞬間に落雷に見舞われた。意識を手放す颯太。しかし次に目覚めたとき、彼は異様な光景を目にする。 眼前には巨大な狼と蛇が戦っており、子狼が悲痛な遠吠えをあげている。 暗殺者だが犬好きな颯太は、コルト・ガバメントを引き抜き蛇の眉間に向けて撃つ。しかし蛇は弾丸などかすり傷にもならない。 吹き飛ばされた颯太が宝箱を目にし、武器はないかと開ける。そこには大ぶりな回転式拳銃(リボルバー)があるが弾がない。 「氷魔法を撃って! 水色に合わせて、早く!」 巨大な狼の思念が頭に流れ、颯太は色づけされたチャンバーを合わせ撃つ。蛇を一撃で倒したが巨大な狼はそのまま絶命し、子狼となりゆきで主従契約してしまった。 異世界転移した暗殺者は魔銃士(ガンナー)として冒険者ギルドに登録し、相棒の子フェンリルと共に様々なダンジョン踏破を目指す。 【他サイト掲載】カクヨム・エブリスタ

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和
ファンタジー
この小説だけは何があっても絶対に読まないでください、お願いします!  あらすじもできれば読んで欲しくないです(今すぐにブラウザバックしてください!)。 では、以下があらすじです。 主人公は異世界転生してきた記憶喪失の青年ケン。 ヒロインは、“綿棒を着る女”アリシアです。 アリシアの趣味は、“一人で二人三脚をすること”や“一人で結婚をすること”です(何それ、気になる!)。 ケンは見たこともないファンタジー異世界で、“水道水のソテー”を食べたり、“メガネのコーラ割り”を飲んだりします(なんだそりゃー!)。 胸おどるような異世界でのワクワクするような冒険が、今……始まる…… 以上があらすじです。何かの間違いでここまで読んでしまった人、今からでも間に合いますっ!  ブラバしてください! 急いでっ! ちゃんとブラバしていただけたみたいでよかったです。では続いては、感想とブックマークについての注意事項です。ぜひ読まないでください。 この小説に面白かった等の感想を寄せていただいたり、ブックマークに登録することだけは絶対にやめてください。 感想を頂いたり、ブックマークに登録していただくことにより、作者のモチベーションの維持につながってしまいます。なので、ご遠慮ください。 特に、感想は作者がやる気になってしまうのでやめてください。 ですが一応感想の書き方だけ説明します。感想は、上のタブにある『感想』をクリックした次のページの上部にある『感想を書く』という箇所をクリックで投稿できます(青色の文字です!)。 ここに、『面白すぎた』、『腰が抜けた』、『この小説を読んだだけで彼女ができた』などの感想を投稿することは絶対にやめてください。 長くなりましたが、最後にもう一度言わせてください。この小説は絶対に絶対に絶対に絶対に読まないでください。いいですか? 絶対ですよ? 何があっても絶対に読まないでください。 では、下記の『綿棒を着る女』からが本編です。第一話だけでも読まないでください(読まないでね!)。

処理中です...