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第15話・アインダークとマナルキッシュ
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「あ゛あ゛ぁぁぁっ!」
裂帛の気合いと共にアインダークが斬り裂いたのは鋼鉄で出来た魔躁傀儡。
1つ目巨人を倒した広間から通路を通った先に待ち受けていたのだ。
アインダークは今、十数体のマジックドールに囲まれている。
マジックドールの手首から先には手では無く、鋭い短剣が伸びている。
その短剣で執拗にアインダークの足を狙って切りつけていた。
マナルキッシュは両手をアインダークに向けて懸命に治癒魔術を放っていた。
その頭にはビリーの通信の魔力球の声が響いていた。
======
《アインダーク、おめでとう。 サイクロプスを斬れたんだね、今度は鋼鉄のような皮膚では無く本当の鋼鉄を用意したよ。 存分に闘気を纏って斬ってくれたまえ》
あからさまに挑発してくるビリーの声を聞いてもアインダークは特に感情が動くことは無かった。
〈それからマナ、君はこの空間では魔法を使える、だが、アインダークに近付けばマジックドールの餌食になる。 だから、離れた所から治癒魔術を発動させて傷を癒してもらおうか。 いつもは患部に直接触れて治癒しているがそれが出来ない時もあるだろう、頑張って出来るようになってくれ。 ぶっつけ本番だからサービスだ、マジックドールは足しか攻撃しないようにしてある。 余計なことは考えずにひたすら足の治療に専念だ、マナルキッシュ、もしそれができなかったら、アインダークは踏み込みが浅くなって鋼鉄を両断する事は出来ないだろう。 さぁ、回生の女神という名が伊達じゃないって所を見せてもらおうか〉
マナルキッシュも、ビリーの挑発的な言葉を聞いて声を荒らげるようなことはしなかった。
なるほど、効率的にパーティを強化するならアインダークには更に闘気を。
自分には遠隔の治癒魔術が出来るようになれば飛躍的に強くなるだろう。
そう思ったからだ。
ビリーの狙いが少なくとも一つは明確になった事でホッと安堵さえ覚えた。
隣で静かに聞いていたアインダークと目を合わせれば彼もコクンと頷いて喋る魔法剣を引き抜いた。
======
マナルキッシュは額に汗を浮かべながらアインダークの足の傷に集中していた。
マジックドールの短剣による執拗な攻撃にジワジワとアインダークの足には切り傷が増えていった。
それを必死に治癒しようとするが癒しきる前に新しい傷が増えていく。
直接触れれば簡単に癒せる傷がほんの十数m離れただけでこうも上手くいかないものか。
マナルキッシュは下唇を噛み締めていた、血が滲むほどに噛みながらアインダークの傷に治癒魔術をかけ続ける。
アインダークはシゼルの魔法による援護を使わず、自分の闘気だけで戦っていた。
それは、かつてビリーを越えようとひたむきに鍛錬を続けていた頃のアインダークの姿だった。
偉大な目標を前に目を輝かせて、少しでも追いつこうと、少しでも近づこうと。
マナルキッシュはそのひたむきな、出会った頃のアインダークが好きだった。
今、目の前であの頃のように剣を振るアインダークを少しでも助けようと必死に治癒魔術を施している。
アインダークが裂帛の雄叫びを上げる度、鋼鉄で出来たマジックドールがギャインという金斬り音をあげて倒れていく。
マジックドールを一太刀で一体仕留めるアインダークだが、仕留める毎に距離を取ってシゼルの刀身の回復を待っている。
そして、自身も連続で鋼鉄を斬り裂けるほどの闘気を纏い続けることが出来ない。
だが、その間隔は段々と短くなっている。
鋼鉄を斬り裂く程の闘気を纏う時間が速くなり、纏う闘気が強くなっていて刃こぼれもしにくくなっている。
その分、シゼルが刃を直すのも早くなる。
だが、肝心の踏み込む足がズタズタに引き裂かれ、アインダークは膝をついた。
それでもアインダークの眼の闘志を全く衰えさせることなく、柄を握る力も些かも緩んではいなかった。
膝をついたまま、マジックドールの短剣を捌き続けている。
彼は背中にいるマナルキッシュを信じていた。
マナルキッシュが静かに目を閉じた。
自分は皆に護られるしか出来ない、ならば、護られるに値する存在になりたい。
自分に出来ることは戦いにおいては傷を治す以外にはない。
ビリーはそれを更に向上させる術を教えている。
そして、アインダークはそれを信じて剣を取り背中を預けてくれた。
ならば、それに応えられなくてどうする!!
マナルキッシュは大声で神への祈りを捧げた。
「親愛なる天に在す我らが主よ! 傷付いた天使に力強い羽根を授け給え! 彼の者が再び羽ばたけるように!」
それは詠唱では無く聖書の一節。
マナルキッシュは自分を鼓舞する様にその一節を読み上げた。
淡く白い光がマナルキッシュの両手からアインダーク向かって走る。
アインダークに届いた光は足の傷を立ち所に癒した。
「お"お"ぉぉぉっ!!」
膝をついた状態から地面を踏み抜いた!
その勢いのままに魔法剣を振り上げてマジックドールの一体を両断し、返す刀でもう一体を斬り裂いた!
それでもアインダークの闘気は衰えず、鋼鉄のマジックドールを斬り裂いていく!
最後のマジックドールを斬り飛ばす踏み込みは地面が抉れる程で、キンッと高い音を立てて両断された。
マナルキッシュはそれを見て笑顔を浮かべ、力を使い果たして崩れ落ちた。
アインダークが地面に倒れる前に支える。
「ありがとうマナ、お陰でビリーの人形をぶった斬れたよ」
アインダークはいたずらっぽく笑った。
「そう、なら、今度はビリーに少しお灸を据えに行きましょう。 全く、よくこんな手の込んだ事を考えたものね」
「はははっ、確かにな。 普段大人しいヤツだけに怒らせると怖いな」
「そうね、アインも、ビリーの凄さが分かったんなら今度からは口の聞き方に気をつけなさい」
アインダークはマナルキッシュから視線を逸らして苦笑いをした。
「そうだな、アイツが凄いやつってのは分かってたんだ。 最近の俺は確かに調子に乗ってたな」
マナルキッシュを立たせてアインダークは視線を地面に落としながら呟いた。
「さぁ、行こう。 アイツにお灸を据えるんだろ?」
「そうね」
アインダークとマナルキッシュは通路を進んだ。
突き当たりには、通信の球が浮かび、その下に転移の魔法陣がぼんやりと光っていた。
裂帛の気合いと共にアインダークが斬り裂いたのは鋼鉄で出来た魔躁傀儡。
1つ目巨人を倒した広間から通路を通った先に待ち受けていたのだ。
アインダークは今、十数体のマジックドールに囲まれている。
マジックドールの手首から先には手では無く、鋭い短剣が伸びている。
その短剣で執拗にアインダークの足を狙って切りつけていた。
マナルキッシュは両手をアインダークに向けて懸命に治癒魔術を放っていた。
その頭にはビリーの通信の魔力球の声が響いていた。
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《アインダーク、おめでとう。 サイクロプスを斬れたんだね、今度は鋼鉄のような皮膚では無く本当の鋼鉄を用意したよ。 存分に闘気を纏って斬ってくれたまえ》
あからさまに挑発してくるビリーの声を聞いてもアインダークは特に感情が動くことは無かった。
〈それからマナ、君はこの空間では魔法を使える、だが、アインダークに近付けばマジックドールの餌食になる。 だから、離れた所から治癒魔術を発動させて傷を癒してもらおうか。 いつもは患部に直接触れて治癒しているがそれが出来ない時もあるだろう、頑張って出来るようになってくれ。 ぶっつけ本番だからサービスだ、マジックドールは足しか攻撃しないようにしてある。 余計なことは考えずにひたすら足の治療に専念だ、マナルキッシュ、もしそれができなかったら、アインダークは踏み込みが浅くなって鋼鉄を両断する事は出来ないだろう。 さぁ、回生の女神という名が伊達じゃないって所を見せてもらおうか〉
マナルキッシュも、ビリーの挑発的な言葉を聞いて声を荒らげるようなことはしなかった。
なるほど、効率的にパーティを強化するならアインダークには更に闘気を。
自分には遠隔の治癒魔術が出来るようになれば飛躍的に強くなるだろう。
そう思ったからだ。
ビリーの狙いが少なくとも一つは明確になった事でホッと安堵さえ覚えた。
隣で静かに聞いていたアインダークと目を合わせれば彼もコクンと頷いて喋る魔法剣を引き抜いた。
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マナルキッシュは額に汗を浮かべながらアインダークの足の傷に集中していた。
マジックドールの短剣による執拗な攻撃にジワジワとアインダークの足には切り傷が増えていった。
それを必死に治癒しようとするが癒しきる前に新しい傷が増えていく。
直接触れれば簡単に癒せる傷がほんの十数m離れただけでこうも上手くいかないものか。
マナルキッシュは下唇を噛み締めていた、血が滲むほどに噛みながらアインダークの傷に治癒魔術をかけ続ける。
アインダークはシゼルの魔法による援護を使わず、自分の闘気だけで戦っていた。
それは、かつてビリーを越えようとひたむきに鍛錬を続けていた頃のアインダークの姿だった。
偉大な目標を前に目を輝かせて、少しでも追いつこうと、少しでも近づこうと。
マナルキッシュはそのひたむきな、出会った頃のアインダークが好きだった。
今、目の前であの頃のように剣を振るアインダークを少しでも助けようと必死に治癒魔術を施している。
アインダークが裂帛の雄叫びを上げる度、鋼鉄で出来たマジックドールがギャインという金斬り音をあげて倒れていく。
マジックドールを一太刀で一体仕留めるアインダークだが、仕留める毎に距離を取ってシゼルの刀身の回復を待っている。
そして、自身も連続で鋼鉄を斬り裂けるほどの闘気を纏い続けることが出来ない。
だが、その間隔は段々と短くなっている。
鋼鉄を斬り裂く程の闘気を纏う時間が速くなり、纏う闘気が強くなっていて刃こぼれもしにくくなっている。
その分、シゼルが刃を直すのも早くなる。
だが、肝心の踏み込む足がズタズタに引き裂かれ、アインダークは膝をついた。
それでもアインダークの眼の闘志を全く衰えさせることなく、柄を握る力も些かも緩んではいなかった。
膝をついたまま、マジックドールの短剣を捌き続けている。
彼は背中にいるマナルキッシュを信じていた。
マナルキッシュが静かに目を閉じた。
自分は皆に護られるしか出来ない、ならば、護られるに値する存在になりたい。
自分に出来ることは戦いにおいては傷を治す以外にはない。
ビリーはそれを更に向上させる術を教えている。
そして、アインダークはそれを信じて剣を取り背中を預けてくれた。
ならば、それに応えられなくてどうする!!
マナルキッシュは大声で神への祈りを捧げた。
「親愛なる天に在す我らが主よ! 傷付いた天使に力強い羽根を授け給え! 彼の者が再び羽ばたけるように!」
それは詠唱では無く聖書の一節。
マナルキッシュは自分を鼓舞する様にその一節を読み上げた。
淡く白い光がマナルキッシュの両手からアインダーク向かって走る。
アインダークに届いた光は足の傷を立ち所に癒した。
「お"お"ぉぉぉっ!!」
膝をついた状態から地面を踏み抜いた!
その勢いのままに魔法剣を振り上げてマジックドールの一体を両断し、返す刀でもう一体を斬り裂いた!
それでもアインダークの闘気は衰えず、鋼鉄のマジックドールを斬り裂いていく!
最後のマジックドールを斬り飛ばす踏み込みは地面が抉れる程で、キンッと高い音を立てて両断された。
マナルキッシュはそれを見て笑顔を浮かべ、力を使い果たして崩れ落ちた。
アインダークが地面に倒れる前に支える。
「ありがとうマナ、お陰でビリーの人形をぶった斬れたよ」
アインダークはいたずらっぽく笑った。
「そう、なら、今度はビリーに少しお灸を据えに行きましょう。 全く、よくこんな手の込んだ事を考えたものね」
「はははっ、確かにな。 普段大人しいヤツだけに怒らせると怖いな」
「そうね、アインも、ビリーの凄さが分かったんなら今度からは口の聞き方に気をつけなさい」
アインダークはマナルキッシュから視線を逸らして苦笑いをした。
「そうだな、アイツが凄いやつってのは分かってたんだ。 最近の俺は確かに調子に乗ってたな」
マナルキッシュを立たせてアインダークは視線を地面に落としながら呟いた。
「さぁ、行こう。 アイツにお灸を据えるんだろ?」
「そうね」
アインダークとマナルキッシュは通路を進んだ。
突き当たりには、通信の球が浮かび、その下に転移の魔法陣がぼんやりと光っていた。
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