アリスと魔王の心臓

金城sora

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武器屋さん

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「ふー」

緊張した。

試合中よりも入退場の方が緊張するのはおかしな話だ。

確かに、手強い相手ではあったけど

〈剣と拳の都・闘都〉

とまで言われている武闘派の都市が開催する年に一度の武闘大会としては準決勝でこんなもんか?

っと思ってしまった。

散々に稽古はしてきたが正直、拍子抜けもいいところだ。

次の試合は明日、どっかの貴族とか言ったっけ?

今日の相手よりは強いのかな。

旅に出て半年。

ノイマンが死んで半年か…

窓際に椅子を置き、窓枠に頬杖をついて通りを眺める。

部屋の中は机に椅子、ベッドに服を掛けるポールスタンドがあるだけの質素なものだ。

大会開催中は各地から参加者がやって来るので希望者には部屋が割り当ててもらえる。

宿代も浮くので泊まらせて貰うことにした。

荷物はノイマンが使っていたショルダーバッグ、外套、そして…

魔法剣ルシール

ノイマンの使っていた剣じゃなくてこれを持って旅に出た理由は…

これでいつかあの盗賊、ランピオンの心臓を焼きつくしてやるためだ。

私が旅に出るのを祝福したかったミーナは旅に出る理由が気に入らないと言ってたな。

「せっかく自由になれて夢だった旅に出るのにこれじゃ、おめでとうって言えないじゃない」

私も自分が旅に出るならきっと当てのない、気楽な旅になるんだろうと思っていた。

マスターは

「辛くなったらいつでも帰っておいで」

そして餞別と言って私が渡した自分を買い戻すためのお金よりも多いお金をくれた。

そして、お前の事を奴隷だなんて思ったことは一度もないと言ってくれた。

奴隷商が連れてきたお前を見て余りにも不憫に思って買っただけだ、娘のように思っていたと。

私は涙をこらえて「ありがとう」と言って旅に出た。

目的は2つ。

ランピオンの心臓にルシールをぶっ刺すこと!

そして、ノイマンの足跡を辿ること。

初恋ってゆーのもあるけれど…

命の恩人の事をほとんどなにも知らない。

そう、私はノイマンの事をなにも知らないのだ。

「はぁ……」

こんなことばっかり考えていたら陰気な人間になってしまう!

荷物を背負って町に出掛けることにした。

町を歩いているとあっちこっちに武具屋がある、さすがは〈剣と拳の都〉と言うだけある。

何の気なしに歩いていたら妙に視線が気になる。

ちょっと有名になってしまったのか?

それとも格好に不釣り合いな厳つい魔法剣のせいか?

よく考えたら、田舎から出るときにろくすっぽ装備を整えなかったので、長く歩くからとブーツだけ良いものを買い。

ショルダーバッグはノイマンの物を使って、服は酒場で働いていたときに着ていた麻のローブと言う、なんともちぐはぐな格好をしている。

そうだ!

せっかく賞金が入りそうだし、旅の装備を整えていこう!

優勝で白金貨10枚!

準優勝でも金貨100枚!

それだけあればかなり豪華にいけるはず!

生まれて初めて物欲を爆発させる。

今まではお小遣い程度の給料も全部貯金していたのでパーっと使うというのは経験したことがない。

何だか考えただけでワクワクしてきた!

どの店にしようか?

そう思って探し始めるとどの店もなんだか魅力的に見えてきた!

とりあえず手近な店に入っていった。

「いらっしゃい!
今日は何をお探しで?」

太った人の良さそうな店主が話しかけてくる。

店のなかを何となく見回しながら

「旅をしてるんだけど、マトモな装備が靴ぐらいでほぼ一式買いそろえたいんだけど?」

「ほほぅ、かわいいお嬢さんだ。
そうさな、これなんかどうだろうか?」

出してきたのは薄い鉄のオッパイを強調したデザインの胸当てに皮製のフリフリの膝上のスカート、凝った装飾の鉄製のすね当てに、黒のショルダーガードの真っ赤なマントだった。

………

「もうちょっとおとなしいって言うか、シックな感じのは?」

「ん?お気に召さなかったかな?
じゃあ、こんな感じかな?」

色こそさっきより落ち着いているがいちいち凝った装飾が施されていて旅人というよりは、エルフの女騎士って感じだ。

「ありがとう、検討してみるわ」

適当な事を言って店を出た。

何件か廻ったが何処も似たような感じだった。

ウーン…

思案しながら歩いていると

「うるせぇっ!!
テメェ見たいなボンボンに売るお飾りの剣なんざうちには置いてねぇよ!
おととい来やがれってんだ!」

遠目に客らしき男に罵声を浴びせるボウズ頭にハチマキを巻いた厳ついおっさんが見えた。

興味本意に近づいてみた。

追い出された男が涙目の悔しそうな顔でなんとかいいながら足早に去っていった。

「けっ」と言いながら店主は店に引っ込んでいった。

ここならフリフリは出さないだろう。
店に入っていくと

「らっしゃい」

何となくまだイライラしながら店主が一応の声を出すがとても客商売とは思えない顔つきだ。

厳つい顔つきに禿げ上がった頭。

真っ黒に日焼けした体に昔は戦士としてならしたであろう筋骨隆々の体つき

ちょっと吹き出しそうになったが

「旅をしてるんだけど、マトモな装備が靴ぐらいでほぼ一式買いそろえたいんだけど」

と今までの店と全く同じことを尋ねた。

「それなら………
………ん」


厳ついおっさんが私の顔を見てフリーズした。

なんだ?

「アリス・ヴァンデルフか!?」

さっきまでの仏頂面が嘘のようにおっさんが良い顔になった。

「えぇ、そうだけど」

「試合見たぞ!近年稀に見る名勝負だった!
剣術も凄いが心現術がその年ではありえん程の練度だ!」

まるでプレゼントの包みを開けて目当ての玩具を手に入れたような子供のような良い顔をして喋る。

「ありがと、私も追い出されるのかと思ったわ」

笑って言うと

「おぉ、さっきの見てたのか?
ボンボンが僕に相応しい剣は?
とか抜かしやがったからケツ蹴っ飛ばしてやったんだ!」

楽しそうに笑っているが商売人とは思えない。

「じゃあ、旅に相応しい装備はあるかしら?」

「おっと!そうだったな。
ところで、その背中の大剣。
魔法剣だな、ちょっと見せてもらえるか?」

「えぇ」

鞘から抜いて手渡した。

「一級品だな…
これほどの魔法剣は初めてみた…」

おっちゃんは惚れ惚れとルシールを眺め回している。

「どこで手に入れたんだ?」

「盗賊からぶん盗ったの」

正確には私じゃないが…

おっちゃんはまた豪快の笑った。

「アリス・ヴァンデルフにかかっちゃあ盗賊も形無しだな!」

「でも、旅しながら思ったんだけど、こんだけ長物だとなんかの時ぱっと抜けないのよね。
なにか、軽いショートソードも欲しいんだけど…」

おっちゃんは急に思案顔になった。

「なるほど…
それなら、ピッタリのもんがある」



おっちゃんはルシールをテーブルに置いて裏に引っ込んで出てきたら、埃の被った木の箱を持ってきてルシールの隣に置いた。

「こいつだ」

そして思わせ振りに箱を開けた…

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