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副団長の秘密のお仕事

4 据え膳 ※ 

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◆◆◆◆◆

 
 アランがバルナバーシュを呼びに部屋から出て行くと、ルカは這いながら風呂場へと向かい、扉を閉めると中から鍵を掛けた。
 そして再び、力なくズルズルと座り込むと、壁に凭れ掛かる。

「はぁっ……」

 たったそれだけのことなのに、息が切れる。

 媚薬を盛られるのはこれが多初めてではない。
 今まではただぼんやりするくらいで、こんなに身体に変化が出たことはなかった。
 だが媚薬といっても色々な種類がある。
 
 今回の薬は結構強力な物のようだ。
 感覚が過敏になり、身体を思うように動かすことができない。
 股間は触れてもいないのに勃起していて、頭に血液が回らずまともに思考することさえできない。
 
 それでも、ルカは懸命になにが最善かを考えた。
 本当は今すぐ性器に手を伸ばしたいのだが、ここで一度触れてしまうと、ドプラヴセが先に戻って来てもきっと自分は自慰に夢中で対応できないだろう。

 今まで自分の身を守ってきた剣を縋るように握り締め、必死に快楽を殺そうと唇を噛み締めて耐え忍ぶ。
 
(バル……早く来てくれ……)
 
 この身体を救い出してくれるのは、バルナバーシュしか考えられない。


 
 玄関の扉が開き、誰かが部屋の中に入って来る音がした。

(——誰だ……?)

 誰が入って来たかわからないので、迂闊に飛び出すわけにはいかない。
 耳を澄まして、ルカは様子を窺った。
 居間を歩き回る足音と、ドクドクとせわしく鳴る自分の心音が響く。

 しばらくして、今度は寝室の扉の開く音がした。
 しかしすぐに居間に足音が戻って来る。
 その動きは、明らかに誰かを探していた。

 足音がだんだんと風呂場に近付いてくる。
 もう探していない場所はここしかない。

 ガタガタと扉が鳴るが、内側から鍵を掛けているので開くことはない。
 だが風呂場の鍵なんて貧弱な閂が付いているだけだ。
 
 ダンッ!!

 扉はいとも簡単に蹴破られてしまう。
 視線を上げるが、逆光で入って来た人物の姿が確認できない。
 

「——ルカちゃんはなんでコソコソ隠れんぼしてんのかな? 剣なんか持って物騒じゃねえか」

「ぐっ……!?」
 
 鞘に入ったまま必死で握り締めていた剣を、足で蹴り上げられただけで、簡単に手放してしまった。
 それだけ……今のルカは無力だ。

 抵抗する間もなく、さっきアランが死体を運んでいたように、両足首を掴まれ寝室へと引きずられてゆく。


(——ああ……最悪だ……)

 
◆◆◆◆◆


 ドプラヴセは犯人を『悔恨の塔』に送りとどけ、部屋に帰ってみると誰もいなかった。

(どこに行った?)

 部屋で待っていろと、言ったはずだ。

 別れ際、偽貴族が悔しそうに言った言葉にドプラヴセは心躍らされていた。
 
『なんで、あんたの護衛には媚薬が効かなかったんだ? 相当強いのを仕込んだのに……』
 
 ルカだって半分は人間の血が流れている。
 媚薬が全く効かないわけでもないはずだ。
 だったらこれは千載一遇のチャンスかもしれないと、ドプラヴセはわざわざ馬を使って部屋へと戻って来たのだ。

 奥の寝室も覗いて見るが……いない。
 アランまで姿が見えないがどこに行ったのだろうか?
 ちゃんと部屋で待っているように言っておいたのに。

 後は風呂場しかない。
 
 緑色の安っぽいペンキが塗られた風呂場の扉を開けようとするが、開かない。
 中から鍵が掛かっている。
 
(ここだ……)
 
 わざわざ鍵を掛けて風呂場に引きこもる事情を考えただけで、ドプラヴセはニヤニヤと笑いが止まらなくなる。

 間違いなくここにルカがいる。

 簡易な作りの扉を蹴破ると、予想通り、鞘に入ったままの剣を抱えて座り込んでいるルカがいた。
 暗くてよく見えないが、明らかに様子がおかしい。
 薬が効いている証拠だ。

「——ルカちゃんはなんでコソコソ隠れんぼしてんのかな? 剣なんか持って物騒じゃねえか」

 通常なら絶対剣を手放さにはずのルカが、軽く蹴り上げただけで剣を落とした。

(これはいける……)
 
 確信すると、ブーツを履いた足首を持って、ズルズルと寝室にルカの身体を引きずって行く。

「……やめっ……」
 
 暴れ出す前に、ルカの両脇の下に手を入れてベッドの上に引きずり上げ、上から身体を押さえつける。
 服のポケットから外出用の明るい夜光石を取り出し、サイドテーブルに置く。
 
 灯りに照らされたルカの姿を改めて見下ろし、ドプラヴセは思わず舌なめずりをする。

 幼い頃に集めていた宝石のように綺麗な瞳にはいつもの冷たさがなく、まるで熱に浮かされたかのように潤んでいる。
 オレンジにほど近いサーモンピンクの唇は、緩く開いてはぁはぁと熱い吐息を漏らしていた。

「媚薬がちゃんと効いてるようだな」

「……なん…で、それを……」
 
 どうやら、喋るのも辛いらしい。 
 喋る度に、胸を喘がせるのがたまらなく劣情を誘う。

「さっき薬を持った本人から聞いたんだよ」

「…………」

「なあルカ。お前もそんなんじゃ身体が辛いだけだろ? 天国まで連れて行ってやるから、俺に全てを委ねろよ」
 
「……ッ…」
 
 張りのある太ももを撫でると、ビクッっと身体を震わせた。

「お前とは仕事仲間だ、これからのためにも合意の上でやりたいんだよ。『抱いて下さい』って可愛くお願いしてみろよ。なあ?」

 もし通常ならこの時点で反撃を受けているだろう。
 だが、今のルカは全く抵抗してこない。
 いや、抵抗できないのだ。
 
 シャツを脱がせて、腰の周りを探る。
 
「油断ならねえな……こんなもん隠し持って……」
 
 服の下に隠し持っている物騒な武器を次々と床に投げ落とす。
 ナイフの仕込んであるブーツや、ズボンも脱がせて遠くに投げた。

 手首を一纏めにし脱がせたシャツで縛ろうと、横に身体を捻った拍子に見えたうなじに、赤い噛み痕を発見する。
 打ち合わせの時にこの部屋で会った時はこんなものなかった。

(まさか……一度リーパに報告へ戻った時に……)

「おいおい、団長さんにマーキングされてんのかよ」
 
「っ……」
 
 びくりと身じろぎするということは、肯定の証だ。
 
 やはりあの事件以来、この二人は肉体関係を持ったのだ。
 間違いなく、ルカの本命はバルナバーシュ。
 そしてこの項の噛み痕は、バルナバーシュの独占欲の表れだ。
 短時間のうちに残すとは、ドプラヴセへの牽制以外のなにものでもない。

(面白れぇ……)
 
 他人のモノだとよけいに燃える。


 別にこのまま抱いてもいいのだが、ドプラヴセの嗜虐癖がそれを許さない。
 初めて会った時から、ずっとこの男を屈服させたかった。

 他の男には抱かせるくせに、ドプラヴセが何度口説こうとも決して首を縦に振らないルカに対し、痺れを切らしていた。

 冷たく取り澄ました顔を屈辱に歪ませてみたい。

 捻った上半身から見える、背中の美しい傷跡をドプラヴセはねっとりと撫でる。
 ルカという男を物語る上で、この鞭の傷跡は重要だ。
 
「ああ……俺もお前を拷問してみてぇ……」
 
 仕事上、犯人たちの口を割らせるために拷問することはあるが、こんな美しい男を手にかける機会なんて滅多にない。
 シャツでルカの両手首を縛ってベッドのフレームに固定すると、空いた両手で頬を包み込み、その顔を覗き込んだ。

「下種野郎がっ……」
 
 青に茶を滲ませた目が眇められ、ドプラヴセの頬に唾がかかる。
 今まで頑なに崩さなかった口調がやっと崩れた。

「たまんねえな……そんな軽蔑した目で俺を睨んでもご褒美でしかねえぞ」
 
 頬に付いた唾液を指で拭い、これ見よがしにその指を舐める。


 これからはドプラヴセの独壇場だ。
 
「でもな、俺は優しいからな。『抱いて下さい』ってお前自らお願いするまで、いつまででも待ってやる。無理強いはしない」

「……くっ……っ……」
 
 脇腹を軽く一撫でするだけで、噛み締めた唇から押し殺した声が漏れる。
 だがすぐに息が続かなくなり、綺麗に割れた腹筋が呼吸の度に激しく上下する。

「ほらほら、そんな我慢したって無理だって。素直になっちまえよ」
 
「ふっ……ぁっ……」
 
 両手で包み込むように左右の胸を揉みながら、唇と同じ色をした胸の飾りを親指で押しつぶす。
 細いがルカは一流の剣士だ。
 押しつぶす度に、剣を振るのに見合った大胸筋の中に乳首が埋没する。

「ぐぅ……うぅ……ぅぅぅっ……」
 
 その肉の中で乳頭の神経を押しつぶすようにグリグリと親指を動かしてやると、媚びを含んだ甘い喘ぎではなく、本気で感じているくぐもった声が上がる。
 横向きに枕に顔を埋めて必死に声を殺している姿は、ドプラヴセの嗜虐心を刺激する。
 いい声だ。
 
「たまらねえだろ? もっと虐めてやるよ。——その前に……なんだよこのイヤラシイ染みは?」
 
「はっ……ぁっ……」

 色気のない綿の下着をグイっと引っ張り食い込ませると、薄い布越しに勃ち上がった性器の形が露わになる。
 先端から滲む先走りで、薄っすらとサーモンピンクに透けて見えた。
 今日はあの卑猥な下着でないのが残念でたまらない。

 今ならちょっと触ってやるだけでイッてしまうだろうが、そんな優しいことなどドプラヴセはしない。

「まずは粗相しないようにしねえとな……」
 
 視線を彷徨わせ、なにかいい物はないかと探した。

 緩んで解けそうになった髪を括る革紐に、チラリと目が行く。
 いつもの様に三つ編みではなく後頭部で縛ってあるので、長めの革紐を使っている。

「いいのみ~っけ!」
 
 解きやすいように小さな蝶結びになっている革紐を引っ張ると、癖のない薄茶色の髪がシーツの上に散らばった。

 ウエストのゴムの部分を掴んで下着を剥すと、先走りの液が糸を引いて布地に付いてくる。
 足から下着を抜き取り、改めてルカの股間に目を向ける。

「お前、ツルツルじゃねえか……たまんねえな」
 
 無毛の下腹部をそろりと撫でると、張り詰めた竿がピクンと揺れた。
 
 仕事で何度か同じ部屋で寝泊まりした時に、ルカの裸は何度か見ていた。
 身体の関係は許さないが、羞恥心の欠片もないこの男は、平気で裸になる。
 元々薄い毛の色だし、恥毛の有無まで確かめていなかった。

 思わせぶりに黒い革紐を、双球から竿の根元に絡ませ一周させる。
 
「…ッ……」
 
 たったそれだけでも刺激になるようだ。

「ちゃんとイケないようにしないとな。俺みたいな下種野郎にイカされるなんて嫌だもんな?」
 
 双球を袋の中で一つずつ縊りだすようにすると余った紐を竿に巻き付けて縛り上げる。

「できあがり」 
 
「うぁっ……」
 
 仕上げに、先端をピンと人差し指で弾くと同時に声が上がった。

 媚薬で高ぶった身体を、極められないよう細工されたら、相当辛いだろう。
 同じ男だからその苦しみはよくわかる。
 だが、本当の地獄はこれからだ。

 ルカ自ら『抱いて下さい』と乞うまで虐め抜いて、屈服させてやる。

「さて、気を取り直して、こっちを可愛がってやるか」
 
 再び左右の胸の飾りに手をやると、人差し指でくりくりと小さな豆粒をつつきまわす。

「……ふっ……ンっ…っ……」
 
「ほらほら、こっちも硬くなってコリコリしてきたぜ。気持ちいいんだろ?」
 
 ドプラヴセは指を止めることなく、ずっと同じ刺激を与え続ける。

「ア……ああ……」
 
 決定的な刺激のないまま焦らされて、汗に濡れた白い身体がうねりだした。
 
「ほら、本当は俺に抱かれたいんだろ? 素直にお願いしてみろよ?」
 
 そう言うとドプラヴセは、首筋に伝う汗をペロリと舐める。
 
「だれがっ……お前なんっ……ぐぅッッ……」
 
 今まで優しく擦っていた乳首をいきなり強い力で捻り上げる。
 
「そんな生意気な口をきいていいのか?」
 
「うぁぁぁぁっっっ……」
 
 ぐりぐりと圧し潰すように親指と人差し指の腹で転がすと、今まで上がらなかった大きな声が上がる。
 
「強くされる方が気持ちいいか。下もヒクヒク動いて涎流してやがる」

「あっ……ひっ……ぃっ……」
 
 今度は薄くサーモンピンクに色付いた乳暈も一緒に巻き込んで捻りを加える。
 
「ほらほら、これはどうだ?」
 
「くっ……ンっ……んぁぁっっ……」
 
 振動を加えると、面白いほどに反応が返って来る。
 
 先ほどより赤く色付いた果実にむしゃぶり付きたくなるが、追い詰める方が余裕をなくすと主導権を握れない。
 こういう時は衝動に流されないよう、最小限にしか直接肌には触れないのが鉄則だ。

 少し気持ちを落ち着け、仕切り直す。

「なあルカ、たまたま薬の効きが遅かったから大丈夫だったけど、その前に腰砕けになって、俺が偽貴族の用心棒に殺されたらどうするつもりだったか? うっかり薬を盛られたお前のミスだろ?」
 
 これは事実だ。
 
「…………」
 
 ルカはなにも言い返せない。

「お前にはお仕置きが必要だな」



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