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4章 癒し手を救出せよ
24 一番無様な男
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◆◆◆◆◆
小屋の外からバルトロメイが見たのは、自分の主が全裸で梁に吊るされ、見知らぬ男たちの手によって穢されている光景だった。
今思い出しても、腹の中で溶岩がグツグツと煮えたぎる。
メストに帰ってからも、レネの出生の秘密を聞かされ、そんな存在をみすみす敵の手に堕とすような失態を犯してしまったことを、悔やんでも悔やみきれないでいる。
帰り道、本当はずっと側にいたかったのだが、そこは身を挺してレネを守ったボリスに譲った。
悔しかったが、あの男のレネを想う気持ちだけは本物だ。
奴隷用の鉄の手枷を嵌めたまま、他の団員たちの前でも明るく振舞うレネを見るだけで、痛々しくて胸がはち切れそうになった。
なにもなかったように、レネは自分の中だけに忌まわしい記憶を押しとどめている。
レネにとって今回の一番の被害者はボリスだ。
そんなボリスより、掠り傷で済んだ自分がいちいちこのことを引き摺っていたらいけないと思っているに違いない。
自分になにができる?
全ての用事を済ませ、私邸へと帰って来ると、バルトロメイは迷わず一直線にレネの部屋へと階段を進んで行く。
剣を捧げた時に、主の部屋の鍵は貰っている。
「……レネっ、風呂か?」
部屋に入るとレネの姿はないが、浴室から水音がするのでそちらへと足を向ける。
「おいっ! お前なにやってんだよ!!」
まだ春も来ていないというのに、床に座り込み頭から冷水を被っていた。
案の定レネは、昨日の出来事から脱却できないまま苦しんでいた。
男たちの手によって快楽に堕とされたことを、自分が淫らなせいだと責めている。
正常な若い男ならば、誰だって性器を刺激されれば反応するのが当たり前だ。
それを男たちに心もない言葉を浴びせられ、この様子だと、レネは自分のことを誰にでも感じてしまう淫売だとでも思い込んでいるに違いない。
だがそれは、バルトロメイにも責任がある。
以前レネをせめて身体だけでも手に入れようと思った時に、あの男たちと変わらないような心無い言葉をかけて傷つけていた。
レネはそこら辺の男よりも、常に自分に男らしくあることを課していた。
だから今回の出来事は、身体を傷めつけられるよりも辛かったに違いない。
それも、その姿を目の前にいたボリスや、バルトロメイたちにまでにまで見られてしまったことにショックを受けている。
敵は殺せても、仲間はこれからも付き合っていかなければならない。
「お前にやられた時は、吃驚して悔しかったけど……あんなに気持ち悪くなかった」
「……!?」
レネの言葉に、バルトロメイは息を呑んだ。
まさかレネからそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
バルトロメイが側にいるのは許すにしても、レネに行った行為はとても許されるものではない。
だからあのことについては、レネを嬲った男たちと同等に見られていると思っていた。
もし自分に嫌悪感を抱いていないのなら……。
「一人で抱え込むな。忘れられないなら……書き換えてやる」
これ以上自傷行為を続けるレネを見ていられず、バルトロメイはそんな言葉を思わず口に出していた。
違う。
本当は、バルトロメイこそが、男たちの欲望の色に染められたままのレネを放置しておけないのだ。
「なに言って……」
抗議するレネを、後ろから強く抱きしめた。
「俺はお前に剣を捧げておきながら、結局なんにもできなかった。エミルからも『レネさんの騎士じゃないのかよっ!!』って怒鳴られたんだぜ?」
エミルの言う通りだ。
騎士でありながら、レネを守ることもできなかった情けない男だ。
今回の出来事は自分の存在意義を問われる結果となった。
「……それは、お前が……騎士になった時、オレの言ったことを優先してくれたからだろ? それにちゃんと助けに来てくれたじゃないか」
そう言って、レネは飼い犬を撫でるように後ろに手を回し、バルトロメイの頭を撫でた。
逆にレネから慰められる始末だ。
「俺は今、自分の無力さに打ちひしがれてるんだ……だからせめて……お前の苦しみを俺に分けてくれ……」
「バート……」
この世で一番美しいと思う黄緑色の瞳が、バルトロメイを見上げる。
先ほどまで可哀想なほど震えていた身体も今は治まっている。
団長から、レネはスタロヴェーキ王朝の直系男子であり、最後の王の生まれ変わりだと告げられた。
癒しの力を使えたとなれば、間違いないと。
バルトロメイはそんな重要な真実を告げられたというのに、『なにを今さら』という気持ちしか湧かなかった。
そんなことを言われなくとも、バルトロメイはレネが只者ではないことくらい本能で嗅ぎ分けていた。
古代王朝の直系とか、生まれ変わりだとか、この際どうでもいい。
バルトロメイが全てを捨て選んだ主は、強く気高い魂がこの繊細で美しい器に宿り、そのギャップに足掻きながらも懸命に生きているからこそ、なによりも尊く至高な存在なのだ。
「レネ……お前をどうこうしようなんて思っていない。ただ俺に身体の記憶を塗り替えさせてくれ」
顎を捉え、そのまま頬にキスをする。
騎士は、剣を捧げた主と「心の愛」で結ばれても、決して「肉体の愛」では結ばれてはならない。
しかしこの際、騎士道の教えなどどうでもいい。
だからといって、レネをいま抱こうとは思わない。
だが主がこんなに傷付いているのならば、その助けになりたいと思うのは当然のことだろう。
バルトロメイに嫌悪感を抱いていないのならば、この手で……せめてレネの身体の記憶を塗り替えさせてほしい。
それがバルトロメイの切実なる想いだった。
主を守れなかった出来損ないの騎士に……せめてその傷だけでも癒させてくれ……
「……お前が……泣くなよ……」
バルトロメイの涙に気付いたレネが、少し呆れたように肩の力を抜く。
それを了解の証と受け取り、バルトロメイは行為を進めていく。
◆◆◆◆◆
レネは強引にされると反発してしまうが、自分のために涙まで流されると強く出られない。
湯冷めしてはいけないと、バルトロメイによって、あれよあれよという間に風呂からベッドの上へと運ばれてきた。
レネは胡坐をかいたバルトロメイに抱き込まれ、後ろから身体をまさぐられていた。
捕えられている時は、何日も風呂に入っていないような獣臭い男たちの体臭が、鼻をついて離れなかったが、今はバルトロメイの嗅ぎなれた針葉樹の様な香りに包まれている。
(ぜんぜん……違う……)
「……あっ……そこっ……」
バルトロメイがバスローブの肩を落として、胸の飾りを優しくなぞった。
あの時——ザリザリとした刷毛で擦られ性器と紐づけされて強制的に快感を引き出されていたが、今はクリクリと指先でなぞられるだけで甘い疼きが生まれる。
「大丈夫……ここは男だって感じるようにできてんだよ。気持ちいいだろ?」
「…………」
気持ちいいからといって素直に気持ちいいと言える性格ではないので、黙り込む。
バルトロメイだって、そんなレネの性格くらい理解しているだろう。
「んっ……」と息を漏らしたことを了解と受け取り、バルトロメイが左右の小さなピンク色の肉の粒を摘まんで指の腹で転がした。
たまらなくなってビクンと肩が揺れる。
「なあ……オレばっかりじゃ嫌だ……」
身体を反転してバルトロメイと向き直る。
懐に入ったままなので、その距離は鼻先が触れ合いそうなほど近い。
「——は?」
素っ頓狂な声を上げ、バルトロメイの身体がガチガチに固まった。
なんだか自分ばかりされて感じるのも癪に障るし、本当に男も胸なんかで感じるのかバルトロメイの身体で試してみたかった。
小屋の外からバルトロメイが見たのは、自分の主が全裸で梁に吊るされ、見知らぬ男たちの手によって穢されている光景だった。
今思い出しても、腹の中で溶岩がグツグツと煮えたぎる。
メストに帰ってからも、レネの出生の秘密を聞かされ、そんな存在をみすみす敵の手に堕とすような失態を犯してしまったことを、悔やんでも悔やみきれないでいる。
帰り道、本当はずっと側にいたかったのだが、そこは身を挺してレネを守ったボリスに譲った。
悔しかったが、あの男のレネを想う気持ちだけは本物だ。
奴隷用の鉄の手枷を嵌めたまま、他の団員たちの前でも明るく振舞うレネを見るだけで、痛々しくて胸がはち切れそうになった。
なにもなかったように、レネは自分の中だけに忌まわしい記憶を押しとどめている。
レネにとって今回の一番の被害者はボリスだ。
そんなボリスより、掠り傷で済んだ自分がいちいちこのことを引き摺っていたらいけないと思っているに違いない。
自分になにができる?
全ての用事を済ませ、私邸へと帰って来ると、バルトロメイは迷わず一直線にレネの部屋へと階段を進んで行く。
剣を捧げた時に、主の部屋の鍵は貰っている。
「……レネっ、風呂か?」
部屋に入るとレネの姿はないが、浴室から水音がするのでそちらへと足を向ける。
「おいっ! お前なにやってんだよ!!」
まだ春も来ていないというのに、床に座り込み頭から冷水を被っていた。
案の定レネは、昨日の出来事から脱却できないまま苦しんでいた。
男たちの手によって快楽に堕とされたことを、自分が淫らなせいだと責めている。
正常な若い男ならば、誰だって性器を刺激されれば反応するのが当たり前だ。
それを男たちに心もない言葉を浴びせられ、この様子だと、レネは自分のことを誰にでも感じてしまう淫売だとでも思い込んでいるに違いない。
だがそれは、バルトロメイにも責任がある。
以前レネをせめて身体だけでも手に入れようと思った時に、あの男たちと変わらないような心無い言葉をかけて傷つけていた。
レネはそこら辺の男よりも、常に自分に男らしくあることを課していた。
だから今回の出来事は、身体を傷めつけられるよりも辛かったに違いない。
それも、その姿を目の前にいたボリスや、バルトロメイたちにまでにまで見られてしまったことにショックを受けている。
敵は殺せても、仲間はこれからも付き合っていかなければならない。
「お前にやられた時は、吃驚して悔しかったけど……あんなに気持ち悪くなかった」
「……!?」
レネの言葉に、バルトロメイは息を呑んだ。
まさかレネからそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
バルトロメイが側にいるのは許すにしても、レネに行った行為はとても許されるものではない。
だからあのことについては、レネを嬲った男たちと同等に見られていると思っていた。
もし自分に嫌悪感を抱いていないのなら……。
「一人で抱え込むな。忘れられないなら……書き換えてやる」
これ以上自傷行為を続けるレネを見ていられず、バルトロメイはそんな言葉を思わず口に出していた。
違う。
本当は、バルトロメイこそが、男たちの欲望の色に染められたままのレネを放置しておけないのだ。
「なに言って……」
抗議するレネを、後ろから強く抱きしめた。
「俺はお前に剣を捧げておきながら、結局なんにもできなかった。エミルからも『レネさんの騎士じゃないのかよっ!!』って怒鳴られたんだぜ?」
エミルの言う通りだ。
騎士でありながら、レネを守ることもできなかった情けない男だ。
今回の出来事は自分の存在意義を問われる結果となった。
「……それは、お前が……騎士になった時、オレの言ったことを優先してくれたからだろ? それにちゃんと助けに来てくれたじゃないか」
そう言って、レネは飼い犬を撫でるように後ろに手を回し、バルトロメイの頭を撫でた。
逆にレネから慰められる始末だ。
「俺は今、自分の無力さに打ちひしがれてるんだ……だからせめて……お前の苦しみを俺に分けてくれ……」
「バート……」
この世で一番美しいと思う黄緑色の瞳が、バルトロメイを見上げる。
先ほどまで可哀想なほど震えていた身体も今は治まっている。
団長から、レネはスタロヴェーキ王朝の直系男子であり、最後の王の生まれ変わりだと告げられた。
癒しの力を使えたとなれば、間違いないと。
バルトロメイはそんな重要な真実を告げられたというのに、『なにを今さら』という気持ちしか湧かなかった。
そんなことを言われなくとも、バルトロメイはレネが只者ではないことくらい本能で嗅ぎ分けていた。
古代王朝の直系とか、生まれ変わりだとか、この際どうでもいい。
バルトロメイが全てを捨て選んだ主は、強く気高い魂がこの繊細で美しい器に宿り、そのギャップに足掻きながらも懸命に生きているからこそ、なによりも尊く至高な存在なのだ。
「レネ……お前をどうこうしようなんて思っていない。ただ俺に身体の記憶を塗り替えさせてくれ」
顎を捉え、そのまま頬にキスをする。
騎士は、剣を捧げた主と「心の愛」で結ばれても、決して「肉体の愛」では結ばれてはならない。
しかしこの際、騎士道の教えなどどうでもいい。
だからといって、レネをいま抱こうとは思わない。
だが主がこんなに傷付いているのならば、その助けになりたいと思うのは当然のことだろう。
バルトロメイに嫌悪感を抱いていないのならば、この手で……せめてレネの身体の記憶を塗り替えさせてほしい。
それがバルトロメイの切実なる想いだった。
主を守れなかった出来損ないの騎士に……せめてその傷だけでも癒させてくれ……
「……お前が……泣くなよ……」
バルトロメイの涙に気付いたレネが、少し呆れたように肩の力を抜く。
それを了解の証と受け取り、バルトロメイは行為を進めていく。
◆◆◆◆◆
レネは強引にされると反発してしまうが、自分のために涙まで流されると強く出られない。
湯冷めしてはいけないと、バルトロメイによって、あれよあれよという間に風呂からベッドの上へと運ばれてきた。
レネは胡坐をかいたバルトロメイに抱き込まれ、後ろから身体をまさぐられていた。
捕えられている時は、何日も風呂に入っていないような獣臭い男たちの体臭が、鼻をついて離れなかったが、今はバルトロメイの嗅ぎなれた針葉樹の様な香りに包まれている。
(ぜんぜん……違う……)
「……あっ……そこっ……」
バルトロメイがバスローブの肩を落として、胸の飾りを優しくなぞった。
あの時——ザリザリとした刷毛で擦られ性器と紐づけされて強制的に快感を引き出されていたが、今はクリクリと指先でなぞられるだけで甘い疼きが生まれる。
「大丈夫……ここは男だって感じるようにできてんだよ。気持ちいいだろ?」
「…………」
気持ちいいからといって素直に気持ちいいと言える性格ではないので、黙り込む。
バルトロメイだって、そんなレネの性格くらい理解しているだろう。
「んっ……」と息を漏らしたことを了解と受け取り、バルトロメイが左右の小さなピンク色の肉の粒を摘まんで指の腹で転がした。
たまらなくなってビクンと肩が揺れる。
「なあ……オレばっかりじゃ嫌だ……」
身体を反転してバルトロメイと向き直る。
懐に入ったままなので、その距離は鼻先が触れ合いそうなほど近い。
「——は?」
素っ頓狂な声を上げ、バルトロメイの身体がガチガチに固まった。
なんだか自分ばかりされて感じるのも癪に障るし、本当に男も胸なんかで感じるのかバルトロメイの身体で試してみたかった。
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