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1章 君に剣を捧ぐ
エピローグ
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歓楽街の奥にある古びた建物の階段をダニエラは上っていく。
歩を進める度に板がギイギイと鳴るので、すぐに誰か来たことがわかるようになっている。
扉を開けると、風采の上がらない四十手前の男がソファーに寝そべっていた。
「よお、例の杯を狙ってた奴らを追っかけてたんだって?」
椅子をぐうたらな男の方へ向けて座ると、ダニエラはすぐに本題へと入った。
偽の杯を運ぶ護衛をしていた鷹騎士団の小隊長が、先ほどまで一緒だったバーラの父親だということも、リーパ本部へ立ち寄った際にルカから聞いていた。
客が来ても起き上がる気配を見せない男——ドプラヴセは、偽の杯を襲った集団の後を追跡していたが、メストに戻って自分を呼び出すということは、相手の正体がわかったのだろう。
「……お前も聞いたことあるだろ『復活の灯火』……」
「ああ、古代王朝時代の骨董品を集めてる盗賊団ってやつか」
ちょくちょくと耳には入って来る。
「犯人はあいつらだ」
「でも奴らは殺しはしないのが信条じゃなかったのか?」
襲撃を受けて偽物の杯を護衛する小隊が全滅させられた。
だからまさか『復活の灯火』の仕業だとは思っていなかった。
「最近奴らの動きがおかしいんだ……こうまで派手に暴れられると、こっちも黙ってられない」
いつもは軽薄な男が、今はまるで別人のように厳しい表情を浮かべている。
(——こいつはやる気だ)
ダニエラたち『山猫』のメンバーの間でもドプラヴセはクズ男として評判だが、この組織を束ねる長だけあり、仕事だけは本気で取り組む。
一度目を付けた相手は、とことん付け回し捕まえる執念深い男だ。
「どうするつもりだ?」
「奴らも今メストにいる。目的は杯だけじゃねえみたいだ」
「なんだ? 他に狙ってる骨董品でもあるのか?」
古代王朝時代の骨董品は、本物から偽物までメストにも沢山ある。
「——まあいい。とりあえず、お前も付き合え」
「おい、私は違う泥棒を追っかけている途中だぞ」
牧場の近隣の町で相次ぐ盗難騒ぎの黒幕をやっと突き止めがばかりなのに、ドプラヴセが急に呼び出すものだから、その仕事を投げ出してこうしてわざわざメストまで顔を出したのだ。
「それ、ゾリのとこに依頼が来たらしいぞ。ついでだしあいつに引き継がせろ」
「せっかく私がコツコツと証拠を集めたのに、美味しいとこだけあいつが持ってくのかよ……」
呼び出された時から急な仕事の話だろうとわかってはいたが、あとは捕まえるだけだったので、悔しさを隠し切れない。
「お前ボスの言うことが聞けないのか?」
ドプラヴセがふんぞり返って偉そうな顔をするが、威厳などこれっぽちもない。
この男の素性を知った時は、思わず胸倉を掴んで『嘘にもほどがあるぞっ!!』と叫んでしまった。
『ダニエラちゃん落ち着いてっ! 信じられないかもしれないけど本当なのよ。アタシ陛下から直に紹介されたもの』と、国王と面識のある王室御用達の編み物職人に言われたのだから、信じるしかない。
「そういう言葉はボスらしいことをしてから言ってほしいものだな」
不機嫌な顔を隠しもせず、ダニエラはドプラヴセを睨む。
「俺様の有能さを改めて目の前で見せてやっからよ、ゾリに引継ぎをして早速明日から活動開始だぞ」
「まったく……人使いの荒い奴だ……」
思わずため息が漏れる。
この感じだと、暫くは放してもらえない。
(まあ……仕方ないか……)
この仕事はいつもこんなものだ。
一緒にメストまで出て来たオレクには暫くリーパに滞在してもらうしかないが、若い団員たちと過ごすのは彼にとってもいい刺激になるだろう。
ダニエラは溜息を吐くと、もう一人の仲間に仕事の引継ぎをするために無言のまま部屋を出た。
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