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12章 伯爵令息の夏休暇
37 なんだその格好
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◆◆◆◆◆
シモンは伯爵の言いつけ通りに、鈴蘭通りにある虹鱒亭の前まで馬車で来ると、デニスから預かって来ていた荷物を持って目的の建物の中に入る。
「いらっしゃい。なにか用かい?」
シモンは受付で本を読む親仁に聞いた。
「リンブルク伯爵家の者ですが、坊ちゃまの従者を迎えに来ました」
「ああ、昨夜の坊ちゃまの。レネなら二階の緑の扉の部屋に居るよ」
必要なことだけ伝えると、親仁はまた本に視線を落とした。
シモンはキイキイと音を立てて木造の階段を登り二階の廊下を見ると、緑の扉から黒いハットを被った人物がこちらに歩いてくるのが見えた。
(ん? あの従者の知り合いか?)
背中に大きな楽器の入れ物を背負っているので、きっと吟遊詩人《バード》だろう。
すれ違う時にチラリと顔を見るが、なかなかの美青年だ。
あの黒い帽子と服装のせいなのか、シモンは御伽噺に出てくる魔女のようだと思った。
緑の前の扉に来るとノックをして名前と用件を告げると「どうぞ」と返事が来る。
「——よう。旦那さまから迎えに行ってこいと言われたからな、わざわざ馬車で迎えに来たぞ」
「えっ!?——そんなことまでやってもらわなくても……」
まさかシモンが馬車で来るとは予想外だったのだろう。
レネは一従者に対しては過ぎるもてなしに、わたわたと慌てる。
改めてベッドの横に座るレネを見て、シモンは思わず怪訝な顔をした。
「それより、なんだその格好……」
濃い緑に黒のアラベスク模様の入った絹のガウンを着ている。
初めて見た時から、凄い美青年がいたものだと思っていたから、その格好はまるで誰かの愛人みたいにしか見えない。
「……えっと、これは借り物で……」
自分でも凄い格好をしているという自覚があるのか、レネは恥ずかしそうに俯いた。
レネの格好に思い当たるものがあり、シモンは尋ねてみた。
「もしかして、さっきすれ違ったバードの服か?」
「……あ、見ましたか……そうです。この宿に泊まってた人で、オレの服が駄目になったんで貸してくれたみたいです。しばらくジェゼロにいるから返すのはいつでもいいって」
「だからデニスがこれを俺に持たせたワケか……」
きっと昨日の時点でデニスはレネの服装を知っていて、そのまま屋敷に連れ帰るわけにはいけないと思ったのだろう。
レネの従者用の服の入った包みを渡す。
「あ!? オレの服だ。ありがとうございます」
デニスによると、レネはアンドレイを助けるために自分が囮になって山賊たちに殺されかけていたと聞いた。
偶々この宿にいた癒し手の治療を受けて一命をとりとめたとも。
相手は山賊だ……きっと酷い目にあったはずだ。
「捨て身になって主人を救うなんて……従者の鏡だな」
「そんな……当たり前のことをしたまでです」
シモンの言葉にレネは照れながら謙遜する。
荷物を開けると、レネはその場で着替えはじめた。
同性なのでなにも気にする必要などないい。
シモンも最初はなんとも思っていなかったが、白い肌を見て「うっ」と息を詰まらせ、ガウンを完全に脱ぎ去った時に、思わず二度見した。
「っ!?……おい……なんだよその下着……」
「えっ?…………うわっ!?」
シモンも大変吃驚したのだが、レネまでもが下を見て驚愕している。
(あーー意識のない時に着替えさせられて知らなかったのか……)
それは臙脂色をした、いわゆる『紐パン』といわれる物で、両サイドを蝶結びで留め、股間の所は複雑なレースのモチーフになっていて、まるで女物のようなデザインだ。
恥ずかしかったのか、レネは下着が見えないようにくるりと後ろを向いたが——
凄いのは前だけではなかった。
「ちょっ!?……お前それ、後ろも凄いことになってるぞ?」
それはウエストの真ん中部分が、逆三角形のレース状になっており、下の方は尻の谷間へと消えていっている。ほぼ尻が丸見えになっていると言っても過言ではない。
濃い臙脂色のレースが白い肌に映えて、なにも着けていないよりもよけい卑猥に見えた。
「えっ……!?」
後ろを確かめようと身体を捻るので、腰から尻にかけての曲線がさらに強調されることになる。
「もういい、早くスラックスを穿け」
(……これもあのバードの持ち物か……)
シモンは額に手をやり只々あきれるしかない。
見慣れた従者の服に着替えて、二人はホッと安堵のため息を吐いた。
「さて……屋敷に帰るか」
「……はい。よろしくお願いします」
レネはそう返事すると、サイドテーブルに置いてあった剣とベルトを腰に着け、シモンの後に続いた。
シモンは伯爵の言いつけ通りに、鈴蘭通りにある虹鱒亭の前まで馬車で来ると、デニスから預かって来ていた荷物を持って目的の建物の中に入る。
「いらっしゃい。なにか用かい?」
シモンは受付で本を読む親仁に聞いた。
「リンブルク伯爵家の者ですが、坊ちゃまの従者を迎えに来ました」
「ああ、昨夜の坊ちゃまの。レネなら二階の緑の扉の部屋に居るよ」
必要なことだけ伝えると、親仁はまた本に視線を落とした。
シモンはキイキイと音を立てて木造の階段を登り二階の廊下を見ると、緑の扉から黒いハットを被った人物がこちらに歩いてくるのが見えた。
(ん? あの従者の知り合いか?)
背中に大きな楽器の入れ物を背負っているので、きっと吟遊詩人《バード》だろう。
すれ違う時にチラリと顔を見るが、なかなかの美青年だ。
あの黒い帽子と服装のせいなのか、シモンは御伽噺に出てくる魔女のようだと思った。
緑の前の扉に来るとノックをして名前と用件を告げると「どうぞ」と返事が来る。
「——よう。旦那さまから迎えに行ってこいと言われたからな、わざわざ馬車で迎えに来たぞ」
「えっ!?——そんなことまでやってもらわなくても……」
まさかシモンが馬車で来るとは予想外だったのだろう。
レネは一従者に対しては過ぎるもてなしに、わたわたと慌てる。
改めてベッドの横に座るレネを見て、シモンは思わず怪訝な顔をした。
「それより、なんだその格好……」
濃い緑に黒のアラベスク模様の入った絹のガウンを着ている。
初めて見た時から、凄い美青年がいたものだと思っていたから、その格好はまるで誰かの愛人みたいにしか見えない。
「……えっと、これは借り物で……」
自分でも凄い格好をしているという自覚があるのか、レネは恥ずかしそうに俯いた。
レネの格好に思い当たるものがあり、シモンは尋ねてみた。
「もしかして、さっきすれ違ったバードの服か?」
「……あ、見ましたか……そうです。この宿に泊まってた人で、オレの服が駄目になったんで貸してくれたみたいです。しばらくジェゼロにいるから返すのはいつでもいいって」
「だからデニスがこれを俺に持たせたワケか……」
きっと昨日の時点でデニスはレネの服装を知っていて、そのまま屋敷に連れ帰るわけにはいけないと思ったのだろう。
レネの従者用の服の入った包みを渡す。
「あ!? オレの服だ。ありがとうございます」
デニスによると、レネはアンドレイを助けるために自分が囮になって山賊たちに殺されかけていたと聞いた。
偶々この宿にいた癒し手の治療を受けて一命をとりとめたとも。
相手は山賊だ……きっと酷い目にあったはずだ。
「捨て身になって主人を救うなんて……従者の鏡だな」
「そんな……当たり前のことをしたまでです」
シモンの言葉にレネは照れながら謙遜する。
荷物を開けると、レネはその場で着替えはじめた。
同性なのでなにも気にする必要などないい。
シモンも最初はなんとも思っていなかったが、白い肌を見て「うっ」と息を詰まらせ、ガウンを完全に脱ぎ去った時に、思わず二度見した。
「っ!?……おい……なんだよその下着……」
「えっ?…………うわっ!?」
シモンも大変吃驚したのだが、レネまでもが下を見て驚愕している。
(あーー意識のない時に着替えさせられて知らなかったのか……)
それは臙脂色をした、いわゆる『紐パン』といわれる物で、両サイドを蝶結びで留め、股間の所は複雑なレースのモチーフになっていて、まるで女物のようなデザインだ。
恥ずかしかったのか、レネは下着が見えないようにくるりと後ろを向いたが——
凄いのは前だけではなかった。
「ちょっ!?……お前それ、後ろも凄いことになってるぞ?」
それはウエストの真ん中部分が、逆三角形のレース状になっており、下の方は尻の谷間へと消えていっている。ほぼ尻が丸見えになっていると言っても過言ではない。
濃い臙脂色のレースが白い肌に映えて、なにも着けていないよりもよけい卑猥に見えた。
「えっ……!?」
後ろを確かめようと身体を捻るので、腰から尻にかけての曲線がさらに強調されることになる。
「もういい、早くスラックスを穿け」
(……これもあのバードの持ち物か……)
シモンは額に手をやり只々あきれるしかない。
見慣れた従者の服に着替えて、二人はホッと安堵のため息を吐いた。
「さて……屋敷に帰るか」
「……はい。よろしくお願いします」
レネはそう返事すると、サイドテーブルに置いてあった剣とベルトを腰に着け、シモンの後に続いた。
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