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12章 伯爵令息の夏休暇
32 アンドレイたちはどこにいる?
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◆◆◆◆◆
デニスたちは桟橋で舟から降りてしばらく行くと、高台の方から降りてきた山賊たちと出くわす。
「なんだお前たちは?」
「島にいるのは二人だけじゃないのか?」
「相手は三人だ、さっさと始末してガキを探し出せっ!」
山賊たちがデニスたちの姿を見つけると一斉に武器を構えて襲いかかって来た。
「さて肩馴らしでもしましょうか」
ゲルトが槍をくるりと回して石突きの方を前方に向け、斬り掛かってきた山賊たちの剣を跳ねのけると、今度は穂先を前方に向け、次から次へと急所を突いていく。
突き一辺倒の騎士たちの動きとは違い、ゲルトの槍は自由で独創的だった。
前面だけの突き攻撃だけではなく可動域も広い。
少し離れた場所では、ルカが腰に差した二本の剣に手を掛け瞬時に抜き取った。
スッと姿が消えたかと思うと、その場には複数の絶命した男たちが倒れている。
あまりにも動きが早すぎて、デニスは目で追うことさえもできない。
一人だけ、違う時間軸の中で動き回っているかのようだ。
編物工房の主人と吟遊詩人の二人から助太刀の申し出があった時は、正直あまりあてにもしていなかった。
だが蓋を開けてみると、デニスよりも遥か上をいく実力の持ち主たちだ。
二人とも一撃で急所を突いていくので、後から向かってきた山賊たちは仲間が殺されていることに気付いてもいない。
まるでその動きは暗殺者だ。
最初は頼りなく思えた二人の助っ人に、完全に圧倒されながら、デニスも襲いかかって来た山賊たちをロングソードで倒していく。
八人ほどの集団をすべて片付けると、三人は三方向に別れた道で立ち止まる。
(アンドレイたちはどこだ?)
先ほど『ガキを探し出せ』と山賊たちが言っていたということは、まだアンドレイは敵の手に落ちてはいない。
「さっきの山賊たちは高台から来たからそっちには若君はいない。舟から見た時、北の森に松明がたくさん見えた。南から回ろう」
「でも、アンドレイたちが北で山賊たちに囲まれていたら?」
想像するだけで、気が気ではない。
「大丈夫。そんなことにはなっていない」
確信した様子で、ルカが右に進路をとり歩きはじめる。
(——なぜこの男はそう言いきれる?)
整備された道を南に回り、しばらく行くと林が見えてくる。
夜光石の光を照らして周囲の状況を確認すると、地面に山賊たちの死体が転がっていた。
「山賊たちの死体?」
レネだろうか?
ルカは側まで歩いて行き、死体を検分する。
どれも喉笛を掻き切られている。
「あいつだ」
「後ろから隠れて一人ずつ殺していったのね」
誰に聞かせるでもなく呟くと、ルカは立ち上がり周りをジッと見て、なにやら考え込んでいる。
(——あいつとはレネのことか?)
この二人はさっきからなにかの共通意識の元に行動している。
「デニスさん、あちらの斜面に移動して若君の名前を呼んで下さい」
「あっちにアンドレイがいるんですかっ!?」
(アンドレイは無事なのか?)
「早く」
有無を言わせぬ静かな声に、デニスは素直に従った。
「は、はいっ!——アンドレイっ、どこにいる! 助けに来たぞっ、返事をしてくれっ、アンドレイっ!!」
(どうか無事でいてくれ……)
デニスは斜面沿いを歩きながら、主の名前を祈る気持ちで呼んだ。
『……デニス? デニスっ!!』
どこからかくぐもった声が聴こえてきた。
「どこだっ、出てこいっ!!」
斜面の意思の窪みにあった木の枝がカサリと動いたかと思うと、そこからアンドレイが顔を出した。
「——アンドレイっ!」
「デニスっ!!」
(——ああ……無事だった……)
腕の中に自分の命よりも大切な存在が飛び込んで来る。
だがそれと同時に、頭の片隅で過る黒い不安がデニスの中で大きく膨らんでいく。
(レネは……?)
「……僕が……足を挫いたから逃げれなかったんだ……だから僕だけ隠して……レネが敵の中に……デニスが僕の名前を呼ぶまでは絶対ここから出るなって……」
「——レネ……」
(自分が囮になってアンドレイに敵の目が向かないようにしたのか……)
「早くっ、レネを助けないとっ!!」
アンドレイは目を真っ赤にして必死に訴えた。
デニスたちは桟橋で舟から降りてしばらく行くと、高台の方から降りてきた山賊たちと出くわす。
「なんだお前たちは?」
「島にいるのは二人だけじゃないのか?」
「相手は三人だ、さっさと始末してガキを探し出せっ!」
山賊たちがデニスたちの姿を見つけると一斉に武器を構えて襲いかかって来た。
「さて肩馴らしでもしましょうか」
ゲルトが槍をくるりと回して石突きの方を前方に向け、斬り掛かってきた山賊たちの剣を跳ねのけると、今度は穂先を前方に向け、次から次へと急所を突いていく。
突き一辺倒の騎士たちの動きとは違い、ゲルトの槍は自由で独創的だった。
前面だけの突き攻撃だけではなく可動域も広い。
少し離れた場所では、ルカが腰に差した二本の剣に手を掛け瞬時に抜き取った。
スッと姿が消えたかと思うと、その場には複数の絶命した男たちが倒れている。
あまりにも動きが早すぎて、デニスは目で追うことさえもできない。
一人だけ、違う時間軸の中で動き回っているかのようだ。
編物工房の主人と吟遊詩人の二人から助太刀の申し出があった時は、正直あまりあてにもしていなかった。
だが蓋を開けてみると、デニスよりも遥か上をいく実力の持ち主たちだ。
二人とも一撃で急所を突いていくので、後から向かってきた山賊たちは仲間が殺されていることに気付いてもいない。
まるでその動きは暗殺者だ。
最初は頼りなく思えた二人の助っ人に、完全に圧倒されながら、デニスも襲いかかって来た山賊たちをロングソードで倒していく。
八人ほどの集団をすべて片付けると、三人は三方向に別れた道で立ち止まる。
(アンドレイたちはどこだ?)
先ほど『ガキを探し出せ』と山賊たちが言っていたということは、まだアンドレイは敵の手に落ちてはいない。
「さっきの山賊たちは高台から来たからそっちには若君はいない。舟から見た時、北の森に松明がたくさん見えた。南から回ろう」
「でも、アンドレイたちが北で山賊たちに囲まれていたら?」
想像するだけで、気が気ではない。
「大丈夫。そんなことにはなっていない」
確信した様子で、ルカが右に進路をとり歩きはじめる。
(——なぜこの男はそう言いきれる?)
整備された道を南に回り、しばらく行くと林が見えてくる。
夜光石の光を照らして周囲の状況を確認すると、地面に山賊たちの死体が転がっていた。
「山賊たちの死体?」
レネだろうか?
ルカは側まで歩いて行き、死体を検分する。
どれも喉笛を掻き切られている。
「あいつだ」
「後ろから隠れて一人ずつ殺していったのね」
誰に聞かせるでもなく呟くと、ルカは立ち上がり周りをジッと見て、なにやら考え込んでいる。
(——あいつとはレネのことか?)
この二人はさっきからなにかの共通意識の元に行動している。
「デニスさん、あちらの斜面に移動して若君の名前を呼んで下さい」
「あっちにアンドレイがいるんですかっ!?」
(アンドレイは無事なのか?)
「早く」
有無を言わせぬ静かな声に、デニスは素直に従った。
「は、はいっ!——アンドレイっ、どこにいる! 助けに来たぞっ、返事をしてくれっ、アンドレイっ!!」
(どうか無事でいてくれ……)
デニスは斜面沿いを歩きながら、主の名前を祈る気持ちで呼んだ。
『……デニス? デニスっ!!』
どこからかくぐもった声が聴こえてきた。
「どこだっ、出てこいっ!!」
斜面の意思の窪みにあった木の枝がカサリと動いたかと思うと、そこからアンドレイが顔を出した。
「——アンドレイっ!」
「デニスっ!!」
(——ああ……無事だった……)
腕の中に自分の命よりも大切な存在が飛び込んで来る。
だがそれと同時に、頭の片隅で過る黒い不安がデニスの中で大きく膨らんでいく。
(レネは……?)
「……僕が……足を挫いたから逃げれなかったんだ……だから僕だけ隠して……レネが敵の中に……デニスが僕の名前を呼ぶまでは絶対ここから出るなって……」
「——レネ……」
(自分が囮になってアンドレイに敵の目が向かないようにしたのか……)
「早くっ、レネを助けないとっ!!」
アンドレイは目を真っ赤にして必死に訴えた。
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