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11章 金鉱山で行方不明者を捜索せよ
番外編 師匠に相談してみた
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◆◆◆◆◆
レネはちゃんとノックをして部屋の主の了解を得て部屋に入ったのだが、容赦なく飛び道具がレネに向かって飛んでくる。
それを全部ナイフで落とすと、煙草を口に咥え武器の手入れをする部屋の主を睨んだ。
ウエストの近くまで伸びていた薄茶色の髪が、半分ほどの長さになっている。きっと暑いから切ったのだろう。
「オレ、ノックしたし……あんたも『入れ』って返事したよな?」
ナイフに弾かれて床に落ちた風車《かざぐるま》のような形をした異国の飛び道具を一瞥して、レネはため息を吐いた。
「こんなの挨拶だろ。何年俺の弟子やってんだよ」
師匠はなんの悪びれもなく、黙々と油を含ませた布で不気味な形をした刃物を磨いている。
煙草の煙を燻らせ真剣な目で作業する姿は、レネでさえドキッとするほど男っぽい。
今から相談しようと思っていた内容との乖離に、もしかしたら相談する相手を間違えたかもしれないと気後れしてしまう。
ルカーシュは剣を教える時以外は決してレネの身体に触れたりはしない。
接触嫌悪の気があるのかというくらい、肌の接触を嫌っている。
そんなルカーシュだからこそ、あんなことがあった後でも密室で二人っきりになって大丈夫だと思っていた。
だが今は、ルカーシュの男の部分だけを敏感に感じとってしまう。
(……オレ……こんなんじゃなかったのに……)
「馬鹿みたいに突っ立ってんじゃねえよ。用件をさっさと言え」
眉間に皺を寄せ、ルカーシュは不機嫌そうにレネを睨んだ。
「あんたはさ……男に襲われたことある? 女みたいにって意味で」
レネの言葉を聞き、武器を磨いていたルカーシュの手がピタリと止まった。
「なんだ? 金鉱山で犯されたのか?」
「違う……でもオレだけ女扱いされて悔しかった。仲間からも女みたいに庇われるのは嫌だ……」
無言のまま青茶の瞳に見つめられる。
実際は犯されかけたことまでこの瞳に見透かされそうで、沈黙が辛い。
男のものを咥えさせれられて以降、レネは思い出す度に吐いていた。まさか自分がこんなにも引き摺るなんて思ってもいなかったので、なにか突破口になるものはないかと探していた。
「——本当に強い奴は、女扱いされたからってムキにならない。一々そうやって悔しがるのは、自分が弱いからだろ。それに女扱いってイチイチ目くじら立てんなよ、女に失礼だぞ。お前それダニエラの前で言ってみろ、ぶっ殺されるからな」
「…………」
正論過ぎてなにも言い返すことができない。
馬鹿な男たちを笑って見過ごせるほど、自分には心の余裕がないのだ。
それに女性に対して、自分はなんて失礼なことを言っていたのだろうか。
「オゼロに行ってなにか掴んだと思ったんだがな……お前また逆戻りしてんじゃねえか……」
「…………」
余裕のない気持ちに翻弄されて、ルカーシュの育った村で感じたこともすべて頭から吹っ飛んでいた。
ルカーシュがいくら侮られようとも周りに自分の強さを誇示しないのは、すべてを覆す強さを持っているからだとあのとき気付いたのに……。
そして自分も、チェレボニー村の男たちの前で、女装させられ剣舞を披露することで、すべてを解き放って自由になれたと思ったのに……。
この短い期間に、自分はなにに囚われていたのだろうか。
「お前も知ってると思うが、俺は自ら男に抱かれる。だから俺の答えを聞きたくて部屋を訪ねて来たんだろ?」
「……うん」
「俺の中で決めてることがあってな……自分より強い男には絶対抱かれない。だからいつでも力関係はひっくり返せるのさ。突っ込まれる側だからって自分が弱いと思うことなんてねえ」
師匠は紫煙を吐き出し、虚空を見つめた。
(え?)
ある人物の名前が喉まで出かかったが、レネは口から出る前に思いとどめた。
そして違う質問に変える。
「自分より強い奴から犯されそうになったことないの? ドプラヴセだってあんたのこと抱きたがってた」
ドプラブセよりはルカーシュの方が強いだろうが、他にもこの妖艶な男を抱きたいと思う奴らはいるだろう。
「もし自分より強い奴に犯されたら、そいつらより自分が強くなるんだよ。簡単じゃねえか?」
「!?」
レネにとってはまさに目から鱗の言葉だった。
ルカーシュは今までそれを実行し、自分の男としての矜持を保ってきたのだ。
「お前も悔しかったら、そいつらを蹴散らしてやればいいだけじゃねえか。つまらんことで悩むなよ。もういいだろ? さっさと出ていけ」
シッシッとまるで野良猫でも追いやるかのように、レネは手で追い払われる。
(——そうか、答えは簡単だったんだ。戦って勝てばいいんだ)
部屋を出て行きながらも、レネは思わずルカーシュを振り返り礼を言った。
「——ルカ、ありがとう。今日ほどあんたが師匠でよかったと思った日はないかも」
最後の一言が余計だったのか、入ってきた時と同じ様に、あの飛び道具がレネめがけて投げつけられた。
レネはちゃんとノックをして部屋の主の了解を得て部屋に入ったのだが、容赦なく飛び道具がレネに向かって飛んでくる。
それを全部ナイフで落とすと、煙草を口に咥え武器の手入れをする部屋の主を睨んだ。
ウエストの近くまで伸びていた薄茶色の髪が、半分ほどの長さになっている。きっと暑いから切ったのだろう。
「オレ、ノックしたし……あんたも『入れ』って返事したよな?」
ナイフに弾かれて床に落ちた風車《かざぐるま》のような形をした異国の飛び道具を一瞥して、レネはため息を吐いた。
「こんなの挨拶だろ。何年俺の弟子やってんだよ」
師匠はなんの悪びれもなく、黙々と油を含ませた布で不気味な形をした刃物を磨いている。
煙草の煙を燻らせ真剣な目で作業する姿は、レネでさえドキッとするほど男っぽい。
今から相談しようと思っていた内容との乖離に、もしかしたら相談する相手を間違えたかもしれないと気後れしてしまう。
ルカーシュは剣を教える時以外は決してレネの身体に触れたりはしない。
接触嫌悪の気があるのかというくらい、肌の接触を嫌っている。
そんなルカーシュだからこそ、あんなことがあった後でも密室で二人っきりになって大丈夫だと思っていた。
だが今は、ルカーシュの男の部分だけを敏感に感じとってしまう。
(……オレ……こんなんじゃなかったのに……)
「馬鹿みたいに突っ立ってんじゃねえよ。用件をさっさと言え」
眉間に皺を寄せ、ルカーシュは不機嫌そうにレネを睨んだ。
「あんたはさ……男に襲われたことある? 女みたいにって意味で」
レネの言葉を聞き、武器を磨いていたルカーシュの手がピタリと止まった。
「なんだ? 金鉱山で犯されたのか?」
「違う……でもオレだけ女扱いされて悔しかった。仲間からも女みたいに庇われるのは嫌だ……」
無言のまま青茶の瞳に見つめられる。
実際は犯されかけたことまでこの瞳に見透かされそうで、沈黙が辛い。
男のものを咥えさせれられて以降、レネは思い出す度に吐いていた。まさか自分がこんなにも引き摺るなんて思ってもいなかったので、なにか突破口になるものはないかと探していた。
「——本当に強い奴は、女扱いされたからってムキにならない。一々そうやって悔しがるのは、自分が弱いからだろ。それに女扱いってイチイチ目くじら立てんなよ、女に失礼だぞ。お前それダニエラの前で言ってみろ、ぶっ殺されるからな」
「…………」
正論過ぎてなにも言い返すことができない。
馬鹿な男たちを笑って見過ごせるほど、自分には心の余裕がないのだ。
それに女性に対して、自分はなんて失礼なことを言っていたのだろうか。
「オゼロに行ってなにか掴んだと思ったんだがな……お前また逆戻りしてんじゃねえか……」
「…………」
余裕のない気持ちに翻弄されて、ルカーシュの育った村で感じたこともすべて頭から吹っ飛んでいた。
ルカーシュがいくら侮られようとも周りに自分の強さを誇示しないのは、すべてを覆す強さを持っているからだとあのとき気付いたのに……。
そして自分も、チェレボニー村の男たちの前で、女装させられ剣舞を披露することで、すべてを解き放って自由になれたと思ったのに……。
この短い期間に、自分はなにに囚われていたのだろうか。
「お前も知ってると思うが、俺は自ら男に抱かれる。だから俺の答えを聞きたくて部屋を訪ねて来たんだろ?」
「……うん」
「俺の中で決めてることがあってな……自分より強い男には絶対抱かれない。だからいつでも力関係はひっくり返せるのさ。突っ込まれる側だからって自分が弱いと思うことなんてねえ」
師匠は紫煙を吐き出し、虚空を見つめた。
(え?)
ある人物の名前が喉まで出かかったが、レネは口から出る前に思いとどめた。
そして違う質問に変える。
「自分より強い奴から犯されそうになったことないの? ドプラヴセだってあんたのこと抱きたがってた」
ドプラブセよりはルカーシュの方が強いだろうが、他にもこの妖艶な男を抱きたいと思う奴らはいるだろう。
「もし自分より強い奴に犯されたら、そいつらより自分が強くなるんだよ。簡単じゃねえか?」
「!?」
レネにとってはまさに目から鱗の言葉だった。
ルカーシュは今までそれを実行し、自分の男としての矜持を保ってきたのだ。
「お前も悔しかったら、そいつらを蹴散らしてやればいいだけじゃねえか。つまらんことで悩むなよ。もういいだろ? さっさと出ていけ」
シッシッとまるで野良猫でも追いやるかのように、レネは手で追い払われる。
(——そうか、答えは簡単だったんだ。戦って勝てばいいんだ)
部屋を出て行きながらも、レネは思わずルカーシュを振り返り礼を言った。
「——ルカ、ありがとう。今日ほどあんたが師匠でよかったと思った日はないかも」
最後の一言が余計だったのか、入ってきた時と同じ様に、あの飛び道具がレネめがけて投げつけられた。
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