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11章 金鉱山で行方不明者を捜索せよ
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「おい、なにぼーっとしてんだよ」
レネが洗い場の前で立ち竦んだままになっていると、バルトロメイが何事もなかったかのように声をかけ洗い場の方へ通り過ぎてい行く。
身体についた歯型についてなにも聞かれなかったことに、レネは肩透かしを食らった気分だ。
(なんで?)
身体を洗い終え、先にバルトロメイが浸かっている湯船へと身を滑らせる。
一番反対側の隅に行き、距離をおいて。
ここが大きめの湯船でよかった。以前二人で泊まった宿のような向かい合って浸かる形は、今のレネには無理だった。
「なあ……少しは懲りたか?」
なにがとは言わずに、バルトロメイが濡れた髪を両手で掻き上げながらレネに訊く。
この男はレネになにが起こったのか、だいたいの所を察したのだろう。
まるで狼に追い詰められる獲物になった気分だ。
「どうせ……ほら見たことかって思ってんだろ」
昨日みたいに殴ってくれた方がまだマシだ。
女みたいに守られるのが嫌で、一人で抜け出して仕事をしたら、今度はそこで女の代わりをさせられた。
(男でありたいオレはどうすればよかったんだ?)
「お前になんか、オレの気持ちはわからない……」
レネの子供のころからの憧れの騎士に瓜二つの、男らしい……まさに理想とする容姿を持った奴に、自分のこの惨めな気持ちなどわかるはずがない。
鼻と口を押さえ込まれて、無理矢理精液を飲ませられた時の身を焦がす様な悔しさを思い出し、唇を噛み締めると、口の中に血の味が広がる。
「犯されてたらそんなピンピンしてないからな、咥えさせられて飲まされたのか? 懐かしいな……俺も最初はゲエゲエ吐いてた」
バルトロメイは遠くを見るような目でそう言うと、自嘲気味に笑った。
「……え?」
レネは最初、バルトロメイがなにを言っているのか理解できなかった。
「お前も昨日知っただろ? 俺が悪名高い竜騎士団にいたこと。十二のころから騎士見習いとして竜騎士団に入れられた。自分で言うのもなんだけどな、あのころはまだ髭も生えずにゴツくもなかったし、今じゃあ信じられないくらい美少年だったんだぜ」
バルトロメイは今では男らしい美男だが、顔立ちが整っているので、本人が言うように幼いころはきっと美少年だったに違いない。
「あのころは毎晩のように先輩騎士のをしゃぶらされてさ、自分のこの顔を恨んだこともあった。何度も犯されそうになったけど、女の代わりにさせられるなんてたまったもんじゃないから、必死で剣の腕を磨いて自分のケツは死守した。まあその前にゴツくなって誰も狙ってこなくなったけどな……」
(うそ……)
自分の思い違いにレネは愕然とする。
「だからお前には、なにも知らないままでいてほしかった。さっきも洗面所で吐いてたんじゃないか? 昨日から様子がおかしかったから気になってたんだ……こんな経験して、なんの得にもならなかったろ? 歯型なんか付けられやがって……俺はお前があんな目に遭うのは自分のこと以上に耐えられない」
そう言いながら、まるで自分のことのように怒りを滲ませ拳を握りしめている。
「ごめん。お前が子供のころそんな経験してるなんて思わなかった……」
バルトロメイに比べたら、こんな些細なことで参っていた自分に、レネは恥ずかしさを覚えた。
それに、少年時代の屈辱的な経験をわざわざ人に話すなんて、よっぽどの覚悟がないとできない。
もしレネが逆の立場だったら、バルトロメイに話していただろうか?
バルトロメイはそこまで、自分のことを心配してくれていたのだ。
ショックで、一人になって吐き出そうと思ってた感情がすべて引っ込んでしまう。
(オレ……もっと強くならなきゃ)
マルツェルのことも、元はと言えば女遊びが原因でハミルから陥れられたと知り、こんなダメ男のために自分はなにをやっていたのだろうと、やるせない気持ちになっていた。
(——怪我をしたわけじゃないし、オレはなにを引き摺っているんだ……)
行動を起こしたことで、結果的にマルツェルを救い出すことができたではないか。
「おい、おまえ俺が言ったこと聞いてるか?」
「うん。もう心配かけないから大丈夫」
こんなことで参るようでは駄目だ。
バルトロメイが少年時代に耐えられたことが、大人の自分に耐えられないなんてただの甘えだ。
「お前なあ……なんかあったらもっと周りを頼れって言ってんだよ。今回のことだって全部一人で背負う必要なかっただろ? 団長から手紙が来た時点で、俺とヴィートにだけでも相談してくれればよかったんだ。そしたら一緒について行ったのに。そんなことしたのは八班の奴らだろ?」
レネだって、その考えがまったくなかったわけではないが、色々なことが重なった。
「だって……お前から俺だけ色々制約されて苛ついてた上に、ハミルからも『護衛が護衛されてる』って言われて頭にきてたんだ。だからお前たちの手は借りたくなかった……」
バルトロメイは「う~~~」とくぐもった声を上げながら考え込んでいる。
「俺もお前にだけ色々言って悪かったよ。でも元同僚たちがいる所だからな……奴らのことは俺が一番よく知ってる。絶対お前に手ぇ出して来ると思ってたから、神経質になってたんだよ。もうこんなことはしない。だけど自己防衛はちゃんとしてくれ。お前はそういう目で見られやすいんだ。そして危ないと思ったら仲間に助けを求めろ」
真剣な面持ちで迫ってこられると、返事せざるをえない。
「……わかったよ。でもこのことはみんなには黙ってて」
「——言うわけねえだろ。俺もこれ以上訊かないから、忘れちまえ……」
そう言ってバルトロメイは弱者を労るような優しい顔をする。
少年時代の屈辱的な経験を話しても、今の男らしくて強いバルトロメイの印象が覆ることはない。
こんなことでいっぱいいっぱいになっているレネとの、精神的な余裕の違いだ。
今のレネにはそんな男が、自分を女の代用品のように扱った班長たちと同じに見えてしまう。
(——どうしてだろうか……?)
レネが洗い場の前で立ち竦んだままになっていると、バルトロメイが何事もなかったかのように声をかけ洗い場の方へ通り過ぎてい行く。
身体についた歯型についてなにも聞かれなかったことに、レネは肩透かしを食らった気分だ。
(なんで?)
身体を洗い終え、先にバルトロメイが浸かっている湯船へと身を滑らせる。
一番反対側の隅に行き、距離をおいて。
ここが大きめの湯船でよかった。以前二人で泊まった宿のような向かい合って浸かる形は、今のレネには無理だった。
「なあ……少しは懲りたか?」
なにがとは言わずに、バルトロメイが濡れた髪を両手で掻き上げながらレネに訊く。
この男はレネになにが起こったのか、だいたいの所を察したのだろう。
まるで狼に追い詰められる獲物になった気分だ。
「どうせ……ほら見たことかって思ってんだろ」
昨日みたいに殴ってくれた方がまだマシだ。
女みたいに守られるのが嫌で、一人で抜け出して仕事をしたら、今度はそこで女の代わりをさせられた。
(男でありたいオレはどうすればよかったんだ?)
「お前になんか、オレの気持ちはわからない……」
レネの子供のころからの憧れの騎士に瓜二つの、男らしい……まさに理想とする容姿を持った奴に、自分のこの惨めな気持ちなどわかるはずがない。
鼻と口を押さえ込まれて、無理矢理精液を飲ませられた時の身を焦がす様な悔しさを思い出し、唇を噛み締めると、口の中に血の味が広がる。
「犯されてたらそんなピンピンしてないからな、咥えさせられて飲まされたのか? 懐かしいな……俺も最初はゲエゲエ吐いてた」
バルトロメイは遠くを見るような目でそう言うと、自嘲気味に笑った。
「……え?」
レネは最初、バルトロメイがなにを言っているのか理解できなかった。
「お前も昨日知っただろ? 俺が悪名高い竜騎士団にいたこと。十二のころから騎士見習いとして竜騎士団に入れられた。自分で言うのもなんだけどな、あのころはまだ髭も生えずにゴツくもなかったし、今じゃあ信じられないくらい美少年だったんだぜ」
バルトロメイは今では男らしい美男だが、顔立ちが整っているので、本人が言うように幼いころはきっと美少年だったに違いない。
「あのころは毎晩のように先輩騎士のをしゃぶらされてさ、自分のこの顔を恨んだこともあった。何度も犯されそうになったけど、女の代わりにさせられるなんてたまったもんじゃないから、必死で剣の腕を磨いて自分のケツは死守した。まあその前にゴツくなって誰も狙ってこなくなったけどな……」
(うそ……)
自分の思い違いにレネは愕然とする。
「だからお前には、なにも知らないままでいてほしかった。さっきも洗面所で吐いてたんじゃないか? 昨日から様子がおかしかったから気になってたんだ……こんな経験して、なんの得にもならなかったろ? 歯型なんか付けられやがって……俺はお前があんな目に遭うのは自分のこと以上に耐えられない」
そう言いながら、まるで自分のことのように怒りを滲ませ拳を握りしめている。
「ごめん。お前が子供のころそんな経験してるなんて思わなかった……」
バルトロメイに比べたら、こんな些細なことで参っていた自分に、レネは恥ずかしさを覚えた。
それに、少年時代の屈辱的な経験をわざわざ人に話すなんて、よっぽどの覚悟がないとできない。
もしレネが逆の立場だったら、バルトロメイに話していただろうか?
バルトロメイはそこまで、自分のことを心配してくれていたのだ。
ショックで、一人になって吐き出そうと思ってた感情がすべて引っ込んでしまう。
(オレ……もっと強くならなきゃ)
マルツェルのことも、元はと言えば女遊びが原因でハミルから陥れられたと知り、こんなダメ男のために自分はなにをやっていたのだろうと、やるせない気持ちになっていた。
(——怪我をしたわけじゃないし、オレはなにを引き摺っているんだ……)
行動を起こしたことで、結果的にマルツェルを救い出すことができたではないか。
「おい、おまえ俺が言ったこと聞いてるか?」
「うん。もう心配かけないから大丈夫」
こんなことで参るようでは駄目だ。
バルトロメイが少年時代に耐えられたことが、大人の自分に耐えられないなんてただの甘えだ。
「お前なあ……なんかあったらもっと周りを頼れって言ってんだよ。今回のことだって全部一人で背負う必要なかっただろ? 団長から手紙が来た時点で、俺とヴィートにだけでも相談してくれればよかったんだ。そしたら一緒について行ったのに。そんなことしたのは八班の奴らだろ?」
レネだって、その考えがまったくなかったわけではないが、色々なことが重なった。
「だって……お前から俺だけ色々制約されて苛ついてた上に、ハミルからも『護衛が護衛されてる』って言われて頭にきてたんだ。だからお前たちの手は借りたくなかった……」
バルトロメイは「う~~~」とくぐもった声を上げながら考え込んでいる。
「俺もお前にだけ色々言って悪かったよ。でも元同僚たちがいる所だからな……奴らのことは俺が一番よく知ってる。絶対お前に手ぇ出して来ると思ってたから、神経質になってたんだよ。もうこんなことはしない。だけど自己防衛はちゃんとしてくれ。お前はそういう目で見られやすいんだ。そして危ないと思ったら仲間に助けを求めろ」
真剣な面持ちで迫ってこられると、返事せざるをえない。
「……わかったよ。でもこのことはみんなには黙ってて」
「——言うわけねえだろ。俺もこれ以上訊かないから、忘れちまえ……」
そう言ってバルトロメイは弱者を労るような優しい顔をする。
少年時代の屈辱的な経験を話しても、今の男らしくて強いバルトロメイの印象が覆ることはない。
こんなことでいっぱいいっぱいになっているレネとの、精神的な余裕の違いだ。
今のレネにはそんな男が、自分を女の代用品のように扱った班長たちと同じに見えてしまう。
(——どうしてだろうか……?)
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