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11章 金鉱山で行方不明者を捜索せよ
3 しっぺ返し
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テジット山へと続く道は緩い上り坂になっており、馬を厩に預けて自分の荷物を背負った団員たちは徒歩で目的地に向かう。
ペニーゼの街で、採掘所には来客用の宿屋とちょっとした日用品を売った店も何軒かあると聞いた。
新技術を使った採掘は、技術者や視察団の出入りもかなりあるという。
しかし、洪水のせいで橋が決壊したため、馬や馬車での行き来ができなくなり、ペニーゼに足止め状態となっている。
徒歩で行くには危険で、途中の森で熊や山賊が出るという噂もあるらしい。
あと数日で馬が通れる仮の橋が完成するまで待って行くのがいいのではないかと宿屋の女将に言われたが、この依頼は一刻を争う。熊の危険はあるが、徒歩で先に進むしかない。
それに女将は団体があと数泊するだけでも、宿屋としてはいい収入になるので、少し大げさに怖がらせて足止めしたかったのかもしれない。
一日一往復、採掘所とペニーゼを往復している労働者専用の大型馬車も、橋が壊れたので街に入ってきていないそうだ。休日の日に労働者たちが落としていく金もペニーゼの大きな収入源の一つだ。
ペニーゼの大規模な歓楽街は、労働者たちに支えられていると言っても過言ではない。その労働者たちも橋の決壊で街に入って来ないとなれば、大幅な収入減になる。
そういった理由もあって、有志で歓楽街の商人たちが人手を雇い、橋の復旧に尽力を尽くしている最中だと女将も言っていた。
なので途中木材を運ぶ荷馬車や人夫たちとよくすれ違う。
「あ~よかったぜ。向こうに宿があるならわざわざ大荷物背負って行く必要もないしな」
カレルは両手を首の後で組んで隣を歩くレネに話しかける。
「だけどさ、まともに行けたら丸一日で着くかもしれないけど、大丈夫か?」
荷物は少ないに越したことはないが何かあった時に対処できるかどうか不安ではある。
「大丈夫だって、一泊くらいだったら、ヤンにその分の荷物を持たせてるし」
カレルに言われ、レネは他の団員たちよりも大きな荷物を背負った背中に目を遣った。
「もしそうなったら食べ物は現地調達か……」
「そうだ。熊のフルコースだ」
荷物を持つのもヤン。熊を狩るのもヤン。
ヤンに頼りすぎのように思う。
「途中なにがあるかわかんないから、一人に負担かけないようにしないとな」
熊と一対一で退治するのは無理だが、皆でかかればなんとかなるだろう。
「まあ人間相手だったら任せとけよ」
カレルは最近新調した槍に手を掛ける。
せっかくの新しい槍を駄目にしたくないから、カレルは熊を相手にはしたくないのだろう。実際は剣よりは槍の方が熊相手には有利だと思うが、カレルの気持ちもわからないではないので、レネは敢えてなにも言わない。
「熊も空気読んで出てこないといいけどさ……」
とりとめもない話をしながら歩いていると、昼前には決壊したザプラビット橋まで行きつくことができた。
ちょうど人夫たちが大急ぎで、まだ白い真新しい木材を使って仮の橋を作っている最中だった。
当初は渡船で行き来していたらしいが、幸いにも仮の橋も人が渡れる状態までは工事が進んでいて、そこを渡らせてもらう。
「けっこう早く工事が進んでるみたいだな。船じゃなくてよかった……」
カナヅチのベドジフは小さな渡船に乗るのも嫌だったようだ。
「街の連中もお客さんが来ないことには商売にならないからな、焦ってるんだろうな」
昨日、女に囲まれていてもちっとも楽しそうでなかったバルトロメイが話に加わる。
不思議なことに(レネの独断と偏見による)美男三大巨頭は、誰も女たちに囲まれても嬉しそうにしていなかった。
ボリスはアネタという恋人がいるのだから当然のこととして、後の二人は謎だ。
ゼラは正直なにを考えているかわからない。もしかして喋らないだけでただのムッツリかもしれない。
しかしバルトロメイは、どうしてなのだろうか?
昨日は好みの女がいなかっただけかもしれないが、好みではなくてもキャアキャア群がってきたら悪い気はしないのではないか。バルトロメイの隣にいたヤンだって女が隣合わせになっただけで、鼻の下が伸びていたというのに。
同じ顔の養父でさえ、若いころはハヴェルと相当遊びまくっていたと古株の団員たちから聞いたことがある。
レネはつい訊いてみたくなった。
「お前さ……女に興味ないの?」
「——え!? 俺?」
あまりにもビクッっと反応したので、訊いたレネの方もビクッと驚いてしまった。
(いけない質問だったか?)
「いや……なんかさ……昨日も女に囲まれてあんまり嬉しそうじゃなかったから……」
たじたじになって理由を説明したが、バルトロメイは難しい顔をして考え込んでいる。
「あ~猫ちゃん、あんまり人の性的嗜好について不躾な質問しちゃ駄目よ」
カレルがすかさず横槍を入れる。さすが槍使いだ。
だが、カレルの言うように確かに不躾な質問だったかもしれない。
「レネだって自分からあんな台詞を言った割には、ぜんぜん嬉しそうじゃなかったぞ」
バルトロメイが反撃してくる。
「……オレは……」
今度は一気にレネが口籠る羽目になった。
あの事件以来、レネは性的に迫ってくる女たちが苦手になった。
「ほら、しっぺ返し食らった」
レネの事情を知るカレルが横で笑っている。
「なんだよ、自分が答えられないじゃないか。俺は、どこに行ってもああだから。いちいち相手してるのも面倒になった」
「……そんな理由かよ。なんかムカつく……」
要するにモテすぎて困ると言いたいのだ。
訊いた自分が馬鹿みたいだ。
「こいつはな……まだ新人のころ、護衛先の未亡人に童貞を食われたんだよ」
横で話を聞いていたベドジフが教えなくてもいいことをバルトロメイに話しだした。
「——お前っ言うなって!!」
レネはベドジフの口を押さえてやめさせようとするが、サラリと身を躱される。
「なんだよそれ、初耳」
あろうことか、ヴィートまで乗ってきたではないか。
「夜ひとりで未亡人の部屋の中に呼ばれてたから、なにごとかと思ってこっそり様子を見に行ったら、未亡人に上に乗っかられてたんだぜ」
(これ以上その話はヤメロっ……)
あまりの恥ずかしさに、レネは涙目になる。
あれは護衛対象だったから抵抗もできなかったし、腕っぷしの強い使用人の男に身体を押さえつけられていた。
新人だったしどう対処していいかもわからなかったし、この男たちに詳細を語るつもりはないが、けっこう酷いことをされたと思う。
「おい、あんまり苛めてやるなよ。あれ以来、可哀想なくらい奥手になっちまったんだから」
ヤンがレネを庇って自分の背中に隠す。
この前のパンツ事件ではヤンのおかげで大変な目にあったが、心の優しい男だ。
「なんだよ……じゃあそれから女抱いてないのか?」
レネはヤンの背中から少し顔を出して様子を窺うが、また残酷な質問をしてくるバルトロメイはなんだかとても嬉しそうだ。
その横にいるヴィートまで顔が生き生きしている。
(クソ……弱みを握られた……)
男たちの集団は、時として残酷なことを平気でやってのける。
いくら剣の腕が強くとも、そういう意味ではレネは弱者だ。
無意識のうちにヤンの服を強く握りしめていた。
「それなのになんで昨日はあんな真似したんだよ」
バルトロメイはなかなかしつこい。
「そりゃあな、大切なボリスを取られそうになってたからな」
すべての事情を知っているカレルが思わせぶりに言う。
(でも……姉ちゃんの彼氏だからとか言えねぇし……)
好きに言わせておくしかない。
「あの……あなたたち、真面目に仕事する気があるんですか?」
ゼラの隣で一連の様子を見ていたハミルが呆れた顔をして苦言を呈したのが、レネにとってちょうどいい助け舟になった。
「まあまあ、そんな堅いこと言うなって。別にどこにも危険なんて迫ってないだろ。それにお前の隣にいる奴がこの中で一番強いから心配するなって」
ベドジフがハミルに説明する。
ペニーゼの街で、採掘所には来客用の宿屋とちょっとした日用品を売った店も何軒かあると聞いた。
新技術を使った採掘は、技術者や視察団の出入りもかなりあるという。
しかし、洪水のせいで橋が決壊したため、馬や馬車での行き来ができなくなり、ペニーゼに足止め状態となっている。
徒歩で行くには危険で、途中の森で熊や山賊が出るという噂もあるらしい。
あと数日で馬が通れる仮の橋が完成するまで待って行くのがいいのではないかと宿屋の女将に言われたが、この依頼は一刻を争う。熊の危険はあるが、徒歩で先に進むしかない。
それに女将は団体があと数泊するだけでも、宿屋としてはいい収入になるので、少し大げさに怖がらせて足止めしたかったのかもしれない。
一日一往復、採掘所とペニーゼを往復している労働者専用の大型馬車も、橋が壊れたので街に入ってきていないそうだ。休日の日に労働者たちが落としていく金もペニーゼの大きな収入源の一つだ。
ペニーゼの大規模な歓楽街は、労働者たちに支えられていると言っても過言ではない。その労働者たちも橋の決壊で街に入って来ないとなれば、大幅な収入減になる。
そういった理由もあって、有志で歓楽街の商人たちが人手を雇い、橋の復旧に尽力を尽くしている最中だと女将も言っていた。
なので途中木材を運ぶ荷馬車や人夫たちとよくすれ違う。
「あ~よかったぜ。向こうに宿があるならわざわざ大荷物背負って行く必要もないしな」
カレルは両手を首の後で組んで隣を歩くレネに話しかける。
「だけどさ、まともに行けたら丸一日で着くかもしれないけど、大丈夫か?」
荷物は少ないに越したことはないが何かあった時に対処できるかどうか不安ではある。
「大丈夫だって、一泊くらいだったら、ヤンにその分の荷物を持たせてるし」
カレルに言われ、レネは他の団員たちよりも大きな荷物を背負った背中に目を遣った。
「もしそうなったら食べ物は現地調達か……」
「そうだ。熊のフルコースだ」
荷物を持つのもヤン。熊を狩るのもヤン。
ヤンに頼りすぎのように思う。
「途中なにがあるかわかんないから、一人に負担かけないようにしないとな」
熊と一対一で退治するのは無理だが、皆でかかればなんとかなるだろう。
「まあ人間相手だったら任せとけよ」
カレルは最近新調した槍に手を掛ける。
せっかくの新しい槍を駄目にしたくないから、カレルは熊を相手にはしたくないのだろう。実際は剣よりは槍の方が熊相手には有利だと思うが、カレルの気持ちもわからないではないので、レネは敢えてなにも言わない。
「熊も空気読んで出てこないといいけどさ……」
とりとめもない話をしながら歩いていると、昼前には決壊したザプラビット橋まで行きつくことができた。
ちょうど人夫たちが大急ぎで、まだ白い真新しい木材を使って仮の橋を作っている最中だった。
当初は渡船で行き来していたらしいが、幸いにも仮の橋も人が渡れる状態までは工事が進んでいて、そこを渡らせてもらう。
「けっこう早く工事が進んでるみたいだな。船じゃなくてよかった……」
カナヅチのベドジフは小さな渡船に乗るのも嫌だったようだ。
「街の連中もお客さんが来ないことには商売にならないからな、焦ってるんだろうな」
昨日、女に囲まれていてもちっとも楽しそうでなかったバルトロメイが話に加わる。
不思議なことに(レネの独断と偏見による)美男三大巨頭は、誰も女たちに囲まれても嬉しそうにしていなかった。
ボリスはアネタという恋人がいるのだから当然のこととして、後の二人は謎だ。
ゼラは正直なにを考えているかわからない。もしかして喋らないだけでただのムッツリかもしれない。
しかしバルトロメイは、どうしてなのだろうか?
昨日は好みの女がいなかっただけかもしれないが、好みではなくてもキャアキャア群がってきたら悪い気はしないのではないか。バルトロメイの隣にいたヤンだって女が隣合わせになっただけで、鼻の下が伸びていたというのに。
同じ顔の養父でさえ、若いころはハヴェルと相当遊びまくっていたと古株の団員たちから聞いたことがある。
レネはつい訊いてみたくなった。
「お前さ……女に興味ないの?」
「——え!? 俺?」
あまりにもビクッっと反応したので、訊いたレネの方もビクッと驚いてしまった。
(いけない質問だったか?)
「いや……なんかさ……昨日も女に囲まれてあんまり嬉しそうじゃなかったから……」
たじたじになって理由を説明したが、バルトロメイは難しい顔をして考え込んでいる。
「あ~猫ちゃん、あんまり人の性的嗜好について不躾な質問しちゃ駄目よ」
カレルがすかさず横槍を入れる。さすが槍使いだ。
だが、カレルの言うように確かに不躾な質問だったかもしれない。
「レネだって自分からあんな台詞を言った割には、ぜんぜん嬉しそうじゃなかったぞ」
バルトロメイが反撃してくる。
「……オレは……」
今度は一気にレネが口籠る羽目になった。
あの事件以来、レネは性的に迫ってくる女たちが苦手になった。
「ほら、しっぺ返し食らった」
レネの事情を知るカレルが横で笑っている。
「なんだよ、自分が答えられないじゃないか。俺は、どこに行ってもああだから。いちいち相手してるのも面倒になった」
「……そんな理由かよ。なんかムカつく……」
要するにモテすぎて困ると言いたいのだ。
訊いた自分が馬鹿みたいだ。
「こいつはな……まだ新人のころ、護衛先の未亡人に童貞を食われたんだよ」
横で話を聞いていたベドジフが教えなくてもいいことをバルトロメイに話しだした。
「——お前っ言うなって!!」
レネはベドジフの口を押さえてやめさせようとするが、サラリと身を躱される。
「なんだよそれ、初耳」
あろうことか、ヴィートまで乗ってきたではないか。
「夜ひとりで未亡人の部屋の中に呼ばれてたから、なにごとかと思ってこっそり様子を見に行ったら、未亡人に上に乗っかられてたんだぜ」
(これ以上その話はヤメロっ……)
あまりの恥ずかしさに、レネは涙目になる。
あれは護衛対象だったから抵抗もできなかったし、腕っぷしの強い使用人の男に身体を押さえつけられていた。
新人だったしどう対処していいかもわからなかったし、この男たちに詳細を語るつもりはないが、けっこう酷いことをされたと思う。
「おい、あんまり苛めてやるなよ。あれ以来、可哀想なくらい奥手になっちまったんだから」
ヤンがレネを庇って自分の背中に隠す。
この前のパンツ事件ではヤンのおかげで大変な目にあったが、心の優しい男だ。
「なんだよ……じゃあそれから女抱いてないのか?」
レネはヤンの背中から少し顔を出して様子を窺うが、また残酷な質問をしてくるバルトロメイはなんだかとても嬉しそうだ。
その横にいるヴィートまで顔が生き生きしている。
(クソ……弱みを握られた……)
男たちの集団は、時として残酷なことを平気でやってのける。
いくら剣の腕が強くとも、そういう意味ではレネは弱者だ。
無意識のうちにヤンの服を強く握りしめていた。
「それなのになんで昨日はあんな真似したんだよ」
バルトロメイはなかなかしつこい。
「そりゃあな、大切なボリスを取られそうになってたからな」
すべての事情を知っているカレルが思わせぶりに言う。
(でも……姉ちゃんの彼氏だからとか言えねぇし……)
好きに言わせておくしかない。
「あの……あなたたち、真面目に仕事する気があるんですか?」
ゼラの隣で一連の様子を見ていたハミルが呆れた顔をして苦言を呈したのが、レネにとってちょうどいい助け舟になった。
「まあまあ、そんな堅いこと言うなって。別にどこにも危険なんて迫ってないだろ。それにお前の隣にいる奴がこの中で一番強いから心配するなって」
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