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11章 金鉱山で行方不明者を捜索せよ
プロローグ
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東国の大戦が終わり、戦から男たちが次々とドロステアへと帰還した。
戦場になっていないこの国は、戦後の復興も必要なく、急に増えた男手を持て余していた。
そんな男たちの雇用対策の一つとして行われたのが、人手不足により廃鉱となっていたテジット金鉱山の再開だ。
新たな技術開発と多くの労働力により、大量の金の発掘が可能になった。
危険を伴うその仕事は、高収入ということもあり、食い扶持を失った男たちにとっては人気の職業の一つとなっている。
廃鉱とともに寂れていたテジット山の麓の街ペニーゼは、鉱夫たちによって賑わいを取り戻していた。
メストからは、街に溢れる浮浪者たちを集めテジットへと送り込み、強制的に金鉱山の労働力としていた。
今日も朝早くから街の浮浪者たちが、ドゥーホ川沿いの空き地へと集められると、家畜運搬用の荷馬車に乗せられテジット金鉱山へと運ばれて行く。
「違うんだっ、私は浮浪者じゃないっ! ここから出してくれっ!」
鉄柵越しに叫ぶ男の声が響くが、御者たちはまるで家畜の鳴き声でも聞くかのように、一向に取り合おうとはしない。
◆◆◆◆◆
「クラーラさん、今回はどういったご用件で?」
バルナバーシュは応接間に通された三十代前半の、美しい婦人を見つめた。
「実は……行方不明になった主人の目撃情報があり家の者に確認させに行こうかと」
「えっ……!? マルツェルの行方がわかったのですか?」
バルナバーシュとクラーラの夫マルツェルは、ハヴェルを通して知り合い、若いころはよく一緒に遊んでいた。
夫人の前では言えないような遊びもしていた仲だ。
そのマルツェルが酒を飲みに行ったままとつぜん行方不明になった。
メスト中を探し回ったが、結局マルツェルは見つからなかった。
あれからもう半年が経とうとしている
「いったいどこに?」
「それが……知人がたまたまテジット金鉱山に視察にいったのですが、労働者として働いていたというのです……」
「テジット金鉱山……」
予想外の場所にバルナバーシュは言葉をなくす。
(自ら望んでいないならば、あそこは地獄のような場所だ)
メストから連れて行かれた浮浪者たちは半強制的に金鉱山で働かされていると聞く。
「知人は、主人が行方不明になっているとは知らなかったので、その時は他人の空似だと思っていたみたいですが、主人が行方不明だと知り、あれは本人に間違いないと言っていました」
「どうして、そんな所に……」
バルナバーシュは思わず眉を寄せる。
「——これは私の推論なのですが……」
夫人はそう切り出し、話しを始める。
話を聞き終わると、後ろに控えていたルカーシュに声をかける。
「ルカーシュ、急いでレネを呼んで来てくれ」
本来ならあの場所に行かせたくないが、今回はレネしかいない。
最初は金鉱山にレネを向かわせるつもりはなかったが、夫人の話を聞くうちにバルナバーシュ気持ちは変わっていった。
「いいんですか? 本人はなんともなくとも、他の団員たちが神経質になると思うんですけど」
クラーラが金鉱山での護衛の依頼をして帰った後に、さっそくルカーシュが口出ししてきた。
バルナバーシュもわかっている、麓の街ペニーゼには娼館が建ち並び、男たちの欲望を発散させることができるが、採掘場には男しかいない。そんな所にレネが行けばどうなるかくらい想像はできる。
きっと面倒なことになる。
「——俺だってわかってるさ。ロランドやお前だって、あんな所には行かせねえよ。護衛にも適材適所ってもんがあるからな。でも今回は仕方ない」
「あれ……私の心配までしてくれてるんですか?」
自分の名前が入っているのが予想外だったのだろう、ルカーシュが訊き返す。
「お前の場合はまったく逆だ、なんたって食い放題だからな」
「…………」
後ろの空気が一気に冷える。
単なる冗談も通じないのがこの男の可愛い所だ。
この前のパンツ騒ぎで、剣まで持ち出した自分も人のことを笑えないが、ことの経緯を後でレネから聞き出した時は大爆笑した。
私邸二階で繰り広げられる師弟のキャットファイトは、バルナバーシュの癒やしでもある。
きっとハヴェルに言ったら『お前……本気で言ってるのか?』と呆れられるだろうが、大戦で色んなものを見すぎたバルナバーシュにとっては、ナイフが飛んでこようが、多少の物が壊れようが、そんな争いなど他愛もないものだ。
どうせルカーシュが、最後にレネを一発で伸すという形で終わりを迎えるのだ。大したことではない。
応接室から執務室に戻ろうと扉に手を掛けたところで、後ろから飛んできたナイフを寸手ではたき落とし、バルナバーシュは何事もなかったかのような涼しい顔をして廊下へと出た。
戦場になっていないこの国は、戦後の復興も必要なく、急に増えた男手を持て余していた。
そんな男たちの雇用対策の一つとして行われたのが、人手不足により廃鉱となっていたテジット金鉱山の再開だ。
新たな技術開発と多くの労働力により、大量の金の発掘が可能になった。
危険を伴うその仕事は、高収入ということもあり、食い扶持を失った男たちにとっては人気の職業の一つとなっている。
廃鉱とともに寂れていたテジット山の麓の街ペニーゼは、鉱夫たちによって賑わいを取り戻していた。
メストからは、街に溢れる浮浪者たちを集めテジットへと送り込み、強制的に金鉱山の労働力としていた。
今日も朝早くから街の浮浪者たちが、ドゥーホ川沿いの空き地へと集められると、家畜運搬用の荷馬車に乗せられテジット金鉱山へと運ばれて行く。
「違うんだっ、私は浮浪者じゃないっ! ここから出してくれっ!」
鉄柵越しに叫ぶ男の声が響くが、御者たちはまるで家畜の鳴き声でも聞くかのように、一向に取り合おうとはしない。
◆◆◆◆◆
「クラーラさん、今回はどういったご用件で?」
バルナバーシュは応接間に通された三十代前半の、美しい婦人を見つめた。
「実は……行方不明になった主人の目撃情報があり家の者に確認させに行こうかと」
「えっ……!? マルツェルの行方がわかったのですか?」
バルナバーシュとクラーラの夫マルツェルは、ハヴェルを通して知り合い、若いころはよく一緒に遊んでいた。
夫人の前では言えないような遊びもしていた仲だ。
そのマルツェルが酒を飲みに行ったままとつぜん行方不明になった。
メスト中を探し回ったが、結局マルツェルは見つからなかった。
あれからもう半年が経とうとしている
「いったいどこに?」
「それが……知人がたまたまテジット金鉱山に視察にいったのですが、労働者として働いていたというのです……」
「テジット金鉱山……」
予想外の場所にバルナバーシュは言葉をなくす。
(自ら望んでいないならば、あそこは地獄のような場所だ)
メストから連れて行かれた浮浪者たちは半強制的に金鉱山で働かされていると聞く。
「知人は、主人が行方不明になっているとは知らなかったので、その時は他人の空似だと思っていたみたいですが、主人が行方不明だと知り、あれは本人に間違いないと言っていました」
「どうして、そんな所に……」
バルナバーシュは思わず眉を寄せる。
「——これは私の推論なのですが……」
夫人はそう切り出し、話しを始める。
話を聞き終わると、後ろに控えていたルカーシュに声をかける。
「ルカーシュ、急いでレネを呼んで来てくれ」
本来ならあの場所に行かせたくないが、今回はレネしかいない。
最初は金鉱山にレネを向かわせるつもりはなかったが、夫人の話を聞くうちにバルナバーシュ気持ちは変わっていった。
「いいんですか? 本人はなんともなくとも、他の団員たちが神経質になると思うんですけど」
クラーラが金鉱山での護衛の依頼をして帰った後に、さっそくルカーシュが口出ししてきた。
バルナバーシュもわかっている、麓の街ペニーゼには娼館が建ち並び、男たちの欲望を発散させることができるが、採掘場には男しかいない。そんな所にレネが行けばどうなるかくらい想像はできる。
きっと面倒なことになる。
「——俺だってわかってるさ。ロランドやお前だって、あんな所には行かせねえよ。護衛にも適材適所ってもんがあるからな。でも今回は仕方ない」
「あれ……私の心配までしてくれてるんですか?」
自分の名前が入っているのが予想外だったのだろう、ルカーシュが訊き返す。
「お前の場合はまったく逆だ、なんたって食い放題だからな」
「…………」
後ろの空気が一気に冷える。
単なる冗談も通じないのがこの男の可愛い所だ。
この前のパンツ騒ぎで、剣まで持ち出した自分も人のことを笑えないが、ことの経緯を後でレネから聞き出した時は大爆笑した。
私邸二階で繰り広げられる師弟のキャットファイトは、バルナバーシュの癒やしでもある。
きっとハヴェルに言ったら『お前……本気で言ってるのか?』と呆れられるだろうが、大戦で色んなものを見すぎたバルナバーシュにとっては、ナイフが飛んでこようが、多少の物が壊れようが、そんな争いなど他愛もないものだ。
どうせルカーシュが、最後にレネを一発で伸すという形で終わりを迎えるのだ。大したことではない。
応接室から執務室に戻ろうと扉に手を掛けたところで、後ろから飛んできたナイフを寸手ではたき落とし、バルナバーシュは何事もなかったかのような涼しい顔をして廊下へと出た。
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