164 / 506
10章 運び屋を護衛せよ
9 歪んだ性癖
しおりを挟む
「声は抑える必要ないから、それはいらない。ここは多少声が部屋から漏れても誰も怪しむ奴なんていない」
「でも……」
レネはドプラヴセから布を奪われ混乱している。
「さっき俺の言うことは絶対聞くって言ったろ? それともここでお役御免になるか?」
「嫌だ……」
「じゃあ決まりだ」
「歪んだ性癖だな……」
消毒用の酒をスキットルから小さな小皿に注いで、脱脂綿を酒に浸しながら、ゼラがぼそりと呟く。
「ふん。俺は綺麗な男が苦痛に耐えてる姿を見るのが大好物なんだよ。なあレネ、師匠の背中に鞭の傷跡があるのはお前も知ってるだろ? ありゃあ間違いなく拷問の痕だ。なにがあったか想像するだけでもゾクゾクするぜ……」
背中の傷跡について、ルカはなにも語ろうとしないがだいたい想像はつく。
「下種が……」
自分だけでなく、師匠までも汚された気分になったのだろう、レネが侮蔑の表情でドプラヴセを睨む。
本人は、その猫の様な目で睨まれただけでもドプラヴセが興奮しているとは、思ってもいないだろう。
「お喋りはもういいか? 舌噛むなよ」
忠告すると、ゼラは無表情にピンセットで掴んだ脱脂綿で傷口を消毒しはじめた。
「……くっ……ッッ……」
傷口の中までこじ開けられ、レネのピンク色の唇からは苦痛の声が漏れる。
「我慢せずに声を出した方が気が紛れるぞ」
そう言うとドプラヴセは、苦痛に悶えるレネを、後ろから抱きしめ頬を撫でる。
本人はそれどころではないので、こんなことをしても一切無抵抗だ。
(たまんねぇ……)
血まみれの脱脂綿を空の皿に置き、新たに酒を浸した脱脂綿を傷の中に詰め込みグリグリと中を消毒する。
「……ぐぅ……はぁっ……うっっ……」
レネは歯を食いしばっても、呼吸とともに漏れはじめた悲鳴を止めることができない。
苦痛を我慢するあまり、身体が力んでガクガクを震えが走り、腕の中の身体が脂汗でしっとりと湿ってきた。
ピンク色の胸の飾りも、苦痛のために固く凝っている。
(——食いてぇ……)
目の前に極上の得物がいるが、仕事中なので手を出すわけにはいかない。
痛さで暴れ出さない様に身体を押さえる振りをして、ドプラヴセは美しい得物を腕の中に抱きしめ堪能した。
「……うっ……はぁっ……はぁっ……」
息を止めて声を抑えようとするから、よけいに息が乱れることになる。
ドプラヴセはその様子を見ているだけで、たまらなくなり胸がキュンキュンしてくる。
痛みを我慢する姿を見て、もっと虐めたいような、でも慰めて優しくしてやりたいような、そんな気持ちを行ったり来たりする、困った性癖なのだ。
「良い子だ。もうあと半分縫ったら終わりだぞ」
励ましながら頭を抱きしめ、汗の流れる首筋に唇を寄せる。
どさくさに紛れてやり過ぎかとも思ったが、止められない。
「おい……後ろで盛るな。やり辛い。こっちは真剣なんだ」
とうとうゼラから怒られて、ドプラヴセは後ろの寝台に追いやられるが、視線だけは外さない。
細いがちゃんとある腰の括れのラインが、たまらなく扇情的だ。
ドプラヴセは、まるでお預けを食らった犬のようにその様子を眺めていた。
◆◆◆◆◆
縫い終わり、もう一度アルコールを含ませたガーゼで血の滲んだ傷口をきれいに拭き取る。
怪我したらとにかくこれを塗れと、ボリスから渡されていた塗り薬を傷口に塗り、清潔なガーゼで覆い、包帯を巻いていく。
「よし、終わったぞ」
声をかけるが、レネはグッタリしたまま机に突っ伏している。
悪趣味な雇い主のせいで、声を抑える我慢までしなければいけなくなったので、よけいに消耗しているのかもしれない。
いつもは癒し手がいる環境に慣れているので、リーパの団員たちは長く続く傷の痛みには弱い。
こうやって傷を縫われることも、他の傭兵たちに比べたら少ない方だろう。
だがゼラはそれを悪いことだとは特別思わない。
大きな怪我をすると、痛みを身体が記憶し、同じ状況になったとき恐怖で動けなくなる。
たいていの人間がその恐怖を克服できぬまま、思うように動けず、それが原因で辞めていく傭兵たちも多い。
身体が痛みを記憶する前に癒し手から治療してもらうと、その恐怖が極端に少なくなり、萎縮することなく再び剣を持って戦えるようになる。
リーパはそのせいか、他の傭兵や用心棒に比べると離職率が低い。
ゼラは知っている。
レネの綺麗な身体が、戦いの勲章だと言って自分の傷を自慢するどの男たちよりも、本当は傷だらけなことを。
何度も殺されかけ、それを強さに変え生き残ってきたことを。
誰もそういう風にレネを見てあげないのは、不憫だなと少しだけ思う。
ドプラヴセのようになあからさまな目を、レネに向けてくる男も少なくはないが、鈍感なのでそんな目で見られても気付かない。
あまりにも、無自覚過ぎて笑ってしまうことはあるが、レネはこのままでいいとゼラは思っている。
いちいち気にしていたら、護衛の仕事なんてやってられない。
同じ男の集団にいるのだから、皆と同じにしていてどこが悪い、裸でいたって別にいいだろ、ほっといてやれよと思う。
「おい、この薬を飲んでおけ。熱が出たらやっかいだからな」
来る前にボリスから渡されていた痛み止めと化膿止めの薬を出して、机の上に置く。
癒し手が同行しない時、必ずボリスは心配して団員たちに、傷の手当ができる道具と薬を渡してくれる。
「……うん」
レネは返事をするとゴソゴソと起き出し、まだ浮かない顔で水差しから水を注いで薬を飲んだ。
死体が見つかった時のことも考えて、今すぐこの町を出ることも考えたが、結局馬を休ませないと先へは進めないので、日の出までここで休むことにした。
「でも……」
レネはドプラヴセから布を奪われ混乱している。
「さっき俺の言うことは絶対聞くって言ったろ? それともここでお役御免になるか?」
「嫌だ……」
「じゃあ決まりだ」
「歪んだ性癖だな……」
消毒用の酒をスキットルから小さな小皿に注いで、脱脂綿を酒に浸しながら、ゼラがぼそりと呟く。
「ふん。俺は綺麗な男が苦痛に耐えてる姿を見るのが大好物なんだよ。なあレネ、師匠の背中に鞭の傷跡があるのはお前も知ってるだろ? ありゃあ間違いなく拷問の痕だ。なにがあったか想像するだけでもゾクゾクするぜ……」
背中の傷跡について、ルカはなにも語ろうとしないがだいたい想像はつく。
「下種が……」
自分だけでなく、師匠までも汚された気分になったのだろう、レネが侮蔑の表情でドプラヴセを睨む。
本人は、その猫の様な目で睨まれただけでもドプラヴセが興奮しているとは、思ってもいないだろう。
「お喋りはもういいか? 舌噛むなよ」
忠告すると、ゼラは無表情にピンセットで掴んだ脱脂綿で傷口を消毒しはじめた。
「……くっ……ッッ……」
傷口の中までこじ開けられ、レネのピンク色の唇からは苦痛の声が漏れる。
「我慢せずに声を出した方が気が紛れるぞ」
そう言うとドプラヴセは、苦痛に悶えるレネを、後ろから抱きしめ頬を撫でる。
本人はそれどころではないので、こんなことをしても一切無抵抗だ。
(たまんねぇ……)
血まみれの脱脂綿を空の皿に置き、新たに酒を浸した脱脂綿を傷の中に詰め込みグリグリと中を消毒する。
「……ぐぅ……はぁっ……うっっ……」
レネは歯を食いしばっても、呼吸とともに漏れはじめた悲鳴を止めることができない。
苦痛を我慢するあまり、身体が力んでガクガクを震えが走り、腕の中の身体が脂汗でしっとりと湿ってきた。
ピンク色の胸の飾りも、苦痛のために固く凝っている。
(——食いてぇ……)
目の前に極上の得物がいるが、仕事中なので手を出すわけにはいかない。
痛さで暴れ出さない様に身体を押さえる振りをして、ドプラヴセは美しい得物を腕の中に抱きしめ堪能した。
「……うっ……はぁっ……はぁっ……」
息を止めて声を抑えようとするから、よけいに息が乱れることになる。
ドプラヴセはその様子を見ているだけで、たまらなくなり胸がキュンキュンしてくる。
痛みを我慢する姿を見て、もっと虐めたいような、でも慰めて優しくしてやりたいような、そんな気持ちを行ったり来たりする、困った性癖なのだ。
「良い子だ。もうあと半分縫ったら終わりだぞ」
励ましながら頭を抱きしめ、汗の流れる首筋に唇を寄せる。
どさくさに紛れてやり過ぎかとも思ったが、止められない。
「おい……後ろで盛るな。やり辛い。こっちは真剣なんだ」
とうとうゼラから怒られて、ドプラヴセは後ろの寝台に追いやられるが、視線だけは外さない。
細いがちゃんとある腰の括れのラインが、たまらなく扇情的だ。
ドプラヴセは、まるでお預けを食らった犬のようにその様子を眺めていた。
◆◆◆◆◆
縫い終わり、もう一度アルコールを含ませたガーゼで血の滲んだ傷口をきれいに拭き取る。
怪我したらとにかくこれを塗れと、ボリスから渡されていた塗り薬を傷口に塗り、清潔なガーゼで覆い、包帯を巻いていく。
「よし、終わったぞ」
声をかけるが、レネはグッタリしたまま机に突っ伏している。
悪趣味な雇い主のせいで、声を抑える我慢までしなければいけなくなったので、よけいに消耗しているのかもしれない。
いつもは癒し手がいる環境に慣れているので、リーパの団員たちは長く続く傷の痛みには弱い。
こうやって傷を縫われることも、他の傭兵たちに比べたら少ない方だろう。
だがゼラはそれを悪いことだとは特別思わない。
大きな怪我をすると、痛みを身体が記憶し、同じ状況になったとき恐怖で動けなくなる。
たいていの人間がその恐怖を克服できぬまま、思うように動けず、それが原因で辞めていく傭兵たちも多い。
身体が痛みを記憶する前に癒し手から治療してもらうと、その恐怖が極端に少なくなり、萎縮することなく再び剣を持って戦えるようになる。
リーパはそのせいか、他の傭兵や用心棒に比べると離職率が低い。
ゼラは知っている。
レネの綺麗な身体が、戦いの勲章だと言って自分の傷を自慢するどの男たちよりも、本当は傷だらけなことを。
何度も殺されかけ、それを強さに変え生き残ってきたことを。
誰もそういう風にレネを見てあげないのは、不憫だなと少しだけ思う。
ドプラヴセのようになあからさまな目を、レネに向けてくる男も少なくはないが、鈍感なのでそんな目で見られても気付かない。
あまりにも、無自覚過ぎて笑ってしまうことはあるが、レネはこのままでいいとゼラは思っている。
いちいち気にしていたら、護衛の仕事なんてやってられない。
同じ男の集団にいるのだから、皆と同じにしていてどこが悪い、裸でいたって別にいいだろ、ほっといてやれよと思う。
「おい、この薬を飲んでおけ。熱が出たらやっかいだからな」
来る前にボリスから渡されていた痛み止めと化膿止めの薬を出して、机の上に置く。
癒し手が同行しない時、必ずボリスは心配して団員たちに、傷の手当ができる道具と薬を渡してくれる。
「……うん」
レネは返事をするとゴソゴソと起き出し、まだ浮かない顔で水差しから水を注いで薬を飲んだ。
死体が見つかった時のことも考えて、今すぐこの町を出ることも考えたが、結局馬を休ませないと先へは進めないので、日の出までここで休むことにした。
44
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。
狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。
表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。
権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は?
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
【注意】※印は性的表現有ります
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
御伽の空は今日も蒼い
霧嶋めぐる
BL
朝日奈想来(あさひなそら)は、腐男子の友人、磯貝に押し付けられたBLゲームの主人公に成り代わってしまった。目が覚めた途端に大勢の美男子から求婚され困惑する冬馬。ゲームの不具合により何故か攻略キャラクター全員の好感度が90%を超えてしまっているらしい。このままでは元の世界に戻れないので、10人の中から1人を選びゲームをクリアしなければならないのだが……
オメガバースってなんですか。男同士で子供が産める世界!?俺、子供を産まないと元の世界に戻れないの!?
・オメガバースもの
・序盤は主人公総受け
・ギャグとシリアスは恐らく半々くらい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる